2005年度お誕生日追加ミッション・あかりVer.

 

指令内容「皆守君と仲良くお出かけしてきなさい」

 

「うええええッ、なんで、あたしにまで依頼書が来てんのよう!」

届けられた封筒の封を切って、中を確認してから、あたしは思い切り後悔した。

ショック、何が悲しくて皆守のお祝いなんてしてやらなきゃならないのよ。

あんな奴この世に生れ落ちた事がすでにあたしにとっての災厄だっていうのにッ。

ご丁寧にも、同封されてあったのは何かのイベントのパンフレットとそこまでの地図、交通機関のチケット、参加費諸々の経費は全部振り込まれているらしく、領収書までついてきた。

ね、念の入った事で―――これは、絶対参加という暗黙のプレッシャーですね?

(あう)

グッタリしながら同封のパンフレットを開く。

それで、一体どこへ行けっていう話なわけ?

「い、ちご、狩り?」

途端、あたしの目がキラリと光る。

え?何?

いちご?

いちご狩るイベント?

「なにこれー?!」

うわ、うわ!凄く面白そう!っていうか、素敵!つまりイチゴをゲットトレジャーなわけ?

(うわ、ハンターの血が騒ぐじゃない!)

「な、何をどうするんだろ?あ、マシンガンはいるのかな、でもいちごは柔らかいから、コンバットナイフ?でもこれ民間の主催だよね、いちごを、狩る?って、一体―――」

―――現金なあたしの意識はすぐに、全部いちごに持ってかれてしまっていた。

 

「で」

隣のいやーな感じの頭モジャモジャ男が、あたしを見下ろしている。

「こうなったわけだ、と」

「こっちだってねえ、別に皆守と一緒に出かけたく無かったですよ!」

ただまあ、成り行き上仕方なくというか、上からの命令だから逆らえなかったというか。

とにかくあたしは皆守に連絡を取り付けて、新宿駅で待ち合わせ、それから、電車を乗り継いで、今は二人でイチゴ狩り会場付近まで走るバスに乗っている。

シーズンだからだろうか?

バスの中には、家族連れやカップルばっかり乗り込んでる。

誰も彼も楽しそうにニコニコニコニコして、辺りは春のホンワリムード一色だっていうのに、あたし達の周りだけツンドラ気候だ。

バスの、一番後ろの席の、奥に皆守、隣にあたしが座っている。

傍になんて寄りたくもないんだけどね、本当は!

(でも混んでるし、どうしようもないし)

最初、現地集合にしようといったら、皆守が「ふざけるな」の一言で通信を切ろうとしたもんだから、泣く泣くの同行だ。

皆守はジャケットにシャツ、パンツをはいて、足元はスニーカー、ううん、これは狩りの格好では無いね?

あたしはっていうと―――

「おい、玖隆」

「何だよ」

「まさか、ナイフも銃器も持ってきてないだろうな、いちご『狩り』ったって、お前の想像とは違うんだからな」

「わかってるよ!」

こんにゃろ、念の入った嫌味を言いやがって!

先の、皆守に(不本意ながら)誘いの電話を入れたとき、わからなかったから思い切って聞いてみたんだ。

そしたら返ってきた返事は、ただのいちごつみだって。

狩りの名目は取ってるけど、要は皆で摘みたていちごを食べましょーっていう非常に穏やかなイベント。

まあ、当然といえば、当然だよねえ。

「あははー」

笑ったあたしに馬鹿かと言った、あの憎らしい口調がまた脳裏に蘇ってくるようだ。

馬鹿じゃありません!知らなかっただけです!

(ホントにもう)

うな垂れるあたしは―――淡い色のカーディガンにシャツ、ミニのスカートなんか履いちゃって―――いや、これには色々とわけが、わけがありましてッ

(くうッ)

唇を噛み締める。

だって、その時皆守が言ったんだもん。

「イチゴ狩りはスピードが命だ、なるべく身軽な格好をして来い、それと、ズボンなんて履いてくる女はいないぞ、原則的にスカートがイチゴ狩りの正式なスタイルだ、それも、丈が長いと速度がそがれる、スカートはミニだ、わかったな?足元はスニーカーで来いよ?上はなるべく薄着にしろ、健闘を祈る」

あたしはそれを、迂闊にも鵜呑みにしたわけで―――

「皆守」

「ん?」

「スカート原則って、お前、アレとかアレとかアレは何だよ」

バスの中の女性の皆さんは、八割方パンツルック、スカートなんか履いてるのはごく僅かなイチャコラカップルの女の子だけだ。

「ああ」

見上げた皆守は横顔でニヤリと笑ってアロマを煙らせている。

「まさか本気にするとは思ってなかったんだ、悪いな」

「悪いで、すむかあああ!」

殴りかかってはたと気づくと、周りの好奇の目があたしに集中していた。

ひゃああッ

あたしはストンと席に座りなおす。ふわりと腿の上にスカートが乗っかって、そこから膝まで露になってる肌の上に、皆守がポンと掌を乗せる。

「まったく、お前はいちいち騒ぎすぎだ、たまには女らしく、しおらしくしてろ」

「うう、うるさいなあッ」

「そういう格好も似合うじゃないか、なかなかいい眺めだぜ」

「そっ、そういう変態めいた台詞しか浮かばないのか、お前って!」

「そうかもなあ、どれ」

す、と。

スカートの中に、手がッ、手がッ

「ば、バカッ」

あたふたするあたしの腿をスルスルとさすって、皆守はハハハと楽しそうに笑っていた。

ハハハじゃないよ、馬鹿!こっちは楽しくないっていうの!

「ちょ、や、やめなさい、ここをどこだと」

「公衆の面前、だな、俺は気にしないが」

「何をどう気にしないんだよ、こっちは気にするっての!その手をどーけーろーッ」

あたしは皆守の髪の毛を掴んでギリギリ引っ張ってやる。

「あいててて、は、離せバカ、痛いッ」

「お前こそ離せ、この、変態、バカ、バカッ」

「ちょ、こ、こら、玖隆、いい加減に」

「このーッ」

ついでにヘッドロックかまして、はたと気づいたら、また周りの好奇の視線が―――しかも、増えてない?

「うあッ」

慌ててまたまた小さくなったあたしに、頭と首をさすりながら、隣で皆守が少しムッとした顔で睨んできた。

「ったく、この暴力女め、いい加減にしろ、犯すぞ」

「お、お前なあ、こんな所で、とんでもない事を言うんじゃないよッ」

「その男みたいな口調もやめろ、ここは天香じゃない、別に女でも構わないんだろう?」

そ、そう言われましても。

「だって」

こっちで慣れちゃってるから、ついこうなっちゃうんだもん。

口を尖らせたあたしの後頭部にゴチンとゲンコツが落ちてきた。

「あいてッ」

「ったく、本当に世話の焼ける奴だよ、お前は」

あたしはまたちょっとカチンと来て、言い返そうかと思ったけど、結局諦めておとなしく座っていた。

だってこれ以上目立ったら嫌だ。

何か、まだ何人かこっちをチラチラみてるし。うー、不本意。

「ちょっと、皆守」

「何だよ」

さっきあたしを小突いた片腕が、そのままついでみたいに反対側の肩に回されて、あたしはさりげなーく皆守に寄りかかるような格好にされていた。引き寄せられているのだ。

「この手、嫌」

「いちいち注文の多い奴だな、気にするな、それくらい」

―――バスは、がたごと走って、ようやく目的の場所にたどり着いたのだった。

 

「わあ!」

受付を済ませて、説明を受けて、やってきましたビニールハウス!

装備品はカゴと、ミルクの入った小さな器。これは練乳って言うんだって、いちごをつけて食べるとおいしいらしい。

「あたしとしては、ストレートでいきたいんだよね」

「ふうん」

「だってそのほうがいちご本来の風味とか、醍醐味とかが楽しめるしさ」

「ああ、その感覚は分かるな」

「でしょう?」

会話が弾みかけて、あたしははたと正気に戻る。

いけない、何こんな変態なんかと和んでるんだ。

皆守はというと、あたしのそんな思惑など気にもしない素振りで、適当に、目に付いたいちごを摘んでは食べ始めていた。

浅ましい奴。

あたしは思わず手を伸ばす。

「これは、ダメ」

「何でだよ」

「おいしくないもん、こっちのほうが熟れてるよ」

「どれ」

摘んでパクリと口に放り込んで、何度か咀嚼して飲み込んでから、皆守はちょっと目を丸くしてあたしを振り返った。

「確かに、美味い」

「でしょう?」

あたしは胸を張る。

こう見えても、いちごにはちょっとうるさいんだよね、好物だから。

好きこそものの上手なり?あれ、なんだっけ?

ふうんと皆守が鼻を鳴らしている。

「まあ、誰にでも取り柄ってもんがあるからな」

「ふふん、恐れ入ったか」

「オイ玖隆、他に美味いのはどれだ、教えろ」

「ええっとね」

って、機嫌が良くなってたあたしは、ついうっかり皆守なんぞに美味しいいちごを教えてあげたりして!

(でもまあ、いいか)

いちごに罪はないしと、思い直して素直にあっち、そっちと指でさしてあげる。

皆守は摘んでは食べて、時々あたしに勧めたりするものだから、あたしももぐもぐやりながら皆守と一緒になって美味しいいちごゲットに夢中になっていった。

「皆守、こっちの、おいしいよ」

「おう」

「こっちも多分おいしい、でも、こっちはちょっとダメ」

「これはどうだ、あかり」

「んん、いいと思うよ」

―――ん?

(今、何か変な風に呼ばれなかったっけ?)

まあいいかと思い直して、あたしは葉っぱの影を覗き込む。

「わあ」

そこに、こっそり隠れていた、ルビーみたいに真っ赤で、大きないちご!

「これ、おいしそうだよーッ」

どれどれと覗き込んできた皆守に教えてあげると、隣でへえと声がした。

「でかいな」

あたしは迷わずそれをもぎ取って、一口かじってみる。

「おいしい!」

大ぶりなのに甘みがぎゅっと詰まってて、瑞々しくて、ホント、最高!

今日一番の収穫かもしれない。

嬉しくて、そのまま皆守にパッと差し出す。

「ほら、食べてみなよ、おいしいよッ」

「どれ」

皆守が、あたしの持っているいちごに、がぶりとかじりついた。

―――一口で半分以上食べられちゃったよ。

へたをむしって残りを口の中に放り込みながら、あたしは皆守の反応を興味津々に待つ。

「おいしい?」

皆守は、暫らくあたしをじいっと見つめた後で、ふいに、珍しく、ニコリと笑って見せたのだった。

「ああ、うまいな、これ」

「でしょう!」

こうなってくると、俄然やる気が出てくる!

「よし、もっと上物ゲットしてやるぜ!」

あたしはしゃがみ込みながら、背中の向こうにいる皆守に無意識に声をかけていた。

「皆守、まっててよ、すぐ見つけちゃうからねッ」

「―――ハイハイ」

クスリと、笑い声が聞こえた気がしたんだけど、それ以上にいちご!

多分あたしは今ここにいるだれよりも熱心にいちご狩りをしているだろう。

(だってハンターなんだもん!)

宝物を手に入れたいと思うのは、当然でしょう?

すぐ傍で、いちごの香りに紛れて、ラベンダーが淡く香っていた。

 

そして、結果、あたしと皆守は実に見事な連係プレーでかなり大量のいちごをゲットトレジャーしたのだった。

―――帰りに、係りの人から追加料金を取られちゃうほどに。

 

「楽しかったねえ!」

お土産用に買ったいちごの入ったビニール袋を膝に、あたしたちは帰りのバスに揺られている。

まあ、行きの事はともかく、今のあたしは上機嫌だ。

隣で皆守もあたしを見ながらなにやらニコニコしている。やっぱりいちご狩り楽しかったんだろうなあ。

「戻ったらそれ、食おうぜ」

「どこで?」

「適当に、どこでだって食えるだろう?」

何なら今食べる?と尋ねて、あたしはビニールからパックに入ったいちごを取り出した。

「はい」

皆守はアーと口を開けて待っている。

んん?

「―――何?」

「食わせろ」

「自分で食べなよ」

「疲れた、眠い」

なんだそれ。

「まあ、いいか」

あたしはへたを取って一個口の中に放り込んでやった。

皆守はもぐもぐやって、うまいと嬉しそうににこりと笑う。

また口を開けるので、放り込みながら、これって何かに似てるなあってぼんやり考えてた。

なんだろう、アレ。

(アシカショー?)

ああ、近い近い!

「皆守、胸の辺りで手叩いてみてよ」

「?こうか」

おお、ますます近い!

「ハイ上手にできましたー、アーン」

ちょっと困惑した様子で、それでも口を開くので、あたしはまた口の中にいちごを放り込んでやった。

こういうのは悪くないな、ウン。

皆守のバカっぽい姿も楽しめたし、まあよしとするか。

「おい、玖隆」

「ん?」

「その、何だ―――まあ、いちごも悪くないな」

「でしょう?」

「カレーの次くらいに、悪くない」

何となく顔の赤い奴を、まじまじ見詰めてあたしはニッコリと笑っていた。

「当たり前でしょう!っていうか、カレーよりずっとおいしいじゃない」

「いや、それは無い」

「なんだとッ」

また掴みかかりながら、それでもあたしは結構満足だ。

何か、目的があったような気がするんだけど、まあこの際どうでもいいか。いちごもおいしいし。

がたごと揺れるバスの中はすっかり春の気配だった。

つまらないけんかを繰り返しながら、外の景色はゆっくりと夕暮れていったのだった。

 

ミッション結果:ミッションコンプリート、コングラッチェレイション!

 

※こちらは元ネタを振ってくれた騒さんにプレゼントフォーユーv