That heart She's not know

 

 墓地の薄闇の中。

探索装備姿でぼんやり星空を見上げていたあたしは、後頭部をいきなりごつんと小突かれた。

「うわッ」

「どん臭いな、お前」

相変わらず、と、オマケに付け加えて、振り返ったら呆れ顔と視線がぶつかる。

はあってため息まで吐いちゃって、あーもうどうせあたしはどん臭いですよ!

「な、何だよ、仕方ないでしょ」

「仕方ないで済むか、お前、仮にもプロだろ、プロがどうして身元割れてんだ、俺なんかとんだとばっちりだぞ」

「だって」

「だってじゃない」

はう。

反論の余地がまるでありません。

 

あたし、玖隆あかりは(これから)凄腕(と呼ばれるようになるはず)のトレジャーハンター様で、この天香学園には本部からの調査依頼を受けてやってきた、いわば訳アリの転校生だ。

そんでもってさっきから手厳しいのが幼馴染の皆守甲太郎くん。

彼とはこの学園を訪れて、ホント、偶然再会したわけなんだけど―――実は彼も訳アリ転校生で、甲ちゃんは何とあたしの同業者、M+M機関のエージェントとして潜入捜査していたんだって。

人生、ホント、何があるかわからないものですねえ。

甲ちゃんはあたしがここを訪れる結構前からずっと学園内を調べてまわっていて、墓石の一つが遺跡に通じているってことまで突き止めていたんだけど、潜入するタイミングが中々つかめなかったらしい。

「天香学園には生徒会っていう厄介な組織があってな、奴等の目を欺きつつの調査は案外骨が折れたんだ」

そんな甲ちゃんは、この頃になって生徒会にマークされつつあったらしい。

「まあ、奴らも騒動は好まない、大っぴらに仕掛けてはこないだろうが、何かあって調査に支障をきたすのは面倒だからな」

仕事はクールにスマートに、完璧にこなすのが甲ちゃんのモットーなんだって。

「格好いいねえ」

フフンと不適に笑った横顔が、何だかちょっと赤く見えて、あたしは少しだけ首をかしげていた。

甲ちゃんって、いっつも偉そうで実際凄いんだけど、あたしが褒めると「当たり前」って仕草の中に少しだけこういうのが見えるんだよね、案外照れ屋なのかもしれない。

まあ、それはともかく。

「お前が来てくれて、いい起爆剤になったかもな」

「え?」

「こちらの話だ、気にするな、それより―――」

そうして甲ちゃんは、墓地のどの墓石が、地下にある遺跡に通じているのかとか、生徒会の簡単な概要、構成員の名前なんかを教えてくれた。

「副会長の姿だけ見当たらないんだが、こいつに関して、どこをどう調べてもまるで手がかりゼロだった、だから、お前も十分気をつけろ」

「うん」

「恐らく一般生徒の中に潜り込んで、隠密に調査、活動しているんだろう、俺ですら確認できなかったくらいだ、相当厄介な相手だろうな、迂闊な行動は十分控えろよ」

「大丈夫だよ、あたし、これでもスクールを首席で卒業して、ライセンス獲得してるんだから」

「スクールって、あのロゼッタのハンター育成スクールか?」

「うん」

「へえ、そりゃ凄い」

滅多に褒めてくれない甲ちゃんが、目を丸くしてあたしをまじまじと見るもんだから、何だかちょっと照れ臭かった。

でもまあ、ロゼッタのスクールは厳しいことで有名だから、その気持ちは分かるかな。

100人単位の登録者が最終的に数名程度まで減るようなカリキュラムだもん。

死者も、気が狂っちゃう人も、体の一部が無くなっちゃう人も、大勢いるし。

あたし、良く乗り越えたと自分を褒めてやりたい。

(まあ、おかげで体中傷だらけですが)

女の子としての魅力なら、あの頃にすっかりなくしちゃったかな。

(なんて)

「まあ、それなら大丈夫だろ」

でも十分気をつけろよと甲ちゃんに釘を刺されて、うんって頷いた、まったくその日の内に。

 

「着任直後に正体発覚、か」

「な、何よ!」

フーッと咥えたラベンダーの紙巻から煙を吐き出して、甲ちゃんは半目であたしをじろりと睨む。

だ、だって、あの状況じゃ仕方なかったでしょ?

「だだだ、だって、まさか八千穂さんと出くわすなんて、思ってなかったんだもんッ」

そうなのだ。

転校初日に遺跡に潜入を果たしたあたしは、直前に臨時バディ契約を結んでくれた甲ちゃんと一緒に、とりあえず降り立った大広間の調査と、開く事の出来た二つの扉の先を簡単に調査して回った。

扉の数は全部で13個あったんだけど、そのうちの一つは魂の部屋。

超簡単に説明するなら、古代人のテクノロジーを駆使して作られた、治癒のための休憩室。

そんでもって、これのある遺跡って、例外なく気味の悪い墓守たちがうろうろしてるんだよね。

で、もう一個の扉の先には、案の定その墓守―――どうやら『化人』って呼称されているらしいんだけど、そいつらが待ち構えていて、あたしと甲ちゃんは戦闘を余儀なくされた。

タッグを組んで、調査して、何フロアか進んでひと段落着いたから、ひとまず終了ってことにして、地上に戻ったあたしたちが出くわしたのは―――

 

「キャ!―――そんな場所からどうしたの?玖隆クンッ」

「や、八千穂さん?」

 

墓地の墓石の一つの前に、ぱっくり開いてた穴の奥をいぶかしんでいたら、あたしと甲ちゃんが出てきたんだって。

でもなんで八千穂さんがこんな場所にいるわけ?

 

「エヘヘ、あたしね、ずっとこの墓地って妖しいなって睨んでたんだぁ」

「そ、それで?」

「うん、でね、今日はついに意を決して調査に来たって訳、だって、天香って窮屈で、面白い事なんて全然ないんだもん」

 

平凡な日常にさよなら、トキメキを見つけ出すためにここに来たんだって笑う、八千穂さんは工事現場の作業員が着けるようなヘルメットを被って、片手にラケット、硬球の入ったバック、それに、何だか簡単なプロテクターみたいなのを装着していた。

(本気だ)

うわあってなったあたしの脇で、甲ちゃんが気まずそうに紙巻を吹かしていた。

そのままの勢いで、八千穂さんはあたしに色々と(例えば何でそんな格好しているのかとか、その銃は本物なのかとか、どうして穴から出てきたのか、そもそもその穴はどこに通じていたのかとか)根掘り葉掘り聴いてきて、状況が状況だけに、あたしも誤魔化す事なんてほぼ不可能だった。

甲ちゃんに関しては、あたしと幼馴染だって聞いた途端、うんうんって何だか妙に納得されてた。

理由を聞いてみたら、元々、只者じゃないって思ってたんだって。

「どういう意味だ、それは」

「だって、他の皆とちょっと違う感じがしたんだもん、雰囲気があるっていうか、ねえ」

うふふ、甲ちゃんの潜入術も、完璧じゃなかったんだ。

(なんかちょっと、嬉しいかも)

「そっか、成る程ね、玖隆クンを手助けするために先行捜査してたんだ?」

「―――まあ、な」

それでその話は終わりになって、結局甲ちゃんの正体はばれずに済んだ。

けど―――

「でも、凄いね、玖隆クンって、トレジャーハンターだったんだ!」

 

ばれました!

 

「はああああ」

項垂れたあたしの後頭部を、甲ちゃんがポンポンと叩く。

今、あたしたちがこうして墓地でぼんやりしているのは、半ば脅迫めいたセリフで探索同行を強要してきた八千穂さんを待っているんだ。

連れて行かないと玖隆クンのこと皆に話しちゃうからねなんて怖いこと言われて、逆らえるわけがありません。

でもまあ、もう一個の秘密の方はまだばれてないんだけどね。

実はあたしが女の子だって事実。

協会の登録ミスで『男子生徒』としてこの学園にやってきたあたしの事、さすがに幼馴染の甲ちゃんだけは知ってるけど、他の誰にもばれてない―――と、思う。

(多分)

わかんないな。

気をつけないと。

「はあ」

「いい加減ため息をつくな、鬱陶しい」

「だって」

「だってじゃないと言っているだろうが、詰めの甘いお前が悪いんだぞ、自業自得だ、ついでに俺まで巻き込みやがって」

「で、でも甲ちゃんは」

「黙れ、協力者になっちまった俺の状況を慮れ」

「うう、甲ちゃんは自分で手伝うって言ってくれたんじゃない」

「昔のよしみでな」

「ずるいよ」

「フン」

あたしばっかり貧乏くじ引いてる気がする。

項垂れたら、ぐしゃぐしゃって髪をかき混ぜられて、顔を上げるとゴーグルの上からデコピンされた。

「あうッ」

「八千穂が来たぞ―――プロなら、何があっても仕事は素早く、精確に」

「わ、わかってるもんッ」

「なら、しっかり頼むぞ、トレジャーハンター」

ようし、ここはいっちょ、汚名挽回もかねてッ

「汚名返上と行こうか」

は、へ、返上でしたか。

「おう!」

玖隆クン、皆守クンと、昨日の妙なプロテクターやラケットにヘルメット姿で駆けて来る八千穂さんの姿がだんだん夜の闇に浮かび上がるのを見つけて、とりあえずは明日からラケットだけにしてくださいって言おうと決めながら、あたしは気合を入れなおした。

もう、こうなったらバッチリ成果を上げるしかないもんね。

甲ちゃんはライバルの同業者だけど、今は一緒にいてくれるのが凄く心強い。

「甲ちゃん」

「ん?」

「頼りにしちゃうから、ヨロシクね」

「―――おう」

やっと到着した八千穂さんが、あれどうしたの皆守クン、顔が赤いねとか言って覗き込んで、甲ちゃんはソッポを向いてた。

どうしたんだろ。

「じゃあ、行こうか」

「うんッ」

元気に頷く八千穂さんと、ラベンダーの紙巻を煙らせる甲ちゃん。

あたしは、墓石をどかして開いた穴の脇に手際よくアンカーを打ち込んで、潜入準備を整え始めた―――

 

(終)

※甲ちゃんの吸っているのはアロマじゃなくてラベンダー風味の紙巻煙草、カートリッジはナシ、先生やうるさい生徒に見つからないようにこっそり吸っています(不良ってスタイルをとって)