Wir werden mit der gleichen Nahrung gebildet

 

 日曜日。

朝は目覚めがいいほうだけど、今日みたいになかなか起きられない日だって、たまにはある。

ベッドの中でむにゃむにゃしてたら、いい匂いが漂ってきた。

(んん?)

柔らかいマットとシーツ。

素っ裸で寝てるっていうのに、何だか妙にあったかい。

肌の上をサラサラと滑る布の感触に、うっすら目を開けたら、部屋の中が朝の光で白く染まっていた。

きれい。

そのままボーっと眺めてる。

(んー)

いい匂いがするなあ。

(お腹、減ったな)

髪の毛がこすれてクシャって音が聞こえる。

あたし、あくびをして、もぞもぞと起き上がった。

 

「―――ん?」

まず見えたのは、皆守の姿。

薄紫色のシャツに、ジーンズを穿いて、黒いエプロンをつけてる。

あれって奴の自前のエプロンだ。

そんでもって、片方の手にお玉、もう片方の手は腰。

「よお」

何だかやけに柔らかい笑顔。

「やっと起きたか、珍しいな、お前がこんな時間まで寝てるなんて」

「あたひだって眠い日もありまふ」

あくびしながら返事した。

おはようって言われて、そこでようやくおはようのご挨拶。

「皆守」

「ん?」

「何してんの」

「朝メシ」

お鍋をぐるっとかき混ぜる。

―――この匂い、ちょっと嫌な予感がしてきたぞ。

「皆守」

「どうした」

「カレー?」

振り返った皆守が、あたしを見て、苦笑した。

それは多分、今のあたしが思い切りしかめ面をしていたせいだと思うんだけど、でもまあ察して欲しいよね。

(朝っぱらからカレーなんて、やだもん)

まあ、職業柄、いつ何時でもどんなものでも食べる必要があれば食べるけど、こんな日の朝くらい、朝食らしく軽いスープとかパンとかフルーツが食べたい。

「違う」

皆守はお玉でお鍋の中身をすくって一口啜る。

「うん」

満足げな表情。

あたしはまだぼんやりしてる。

「―――おい、あきら」

「なによぅ」

「まあ、俺は一向に構わないんだがな、暖房もついてるし、多分風邪もひかないだろう、けどな」

「何?」

「起きたなら、服でも着とけ、そろそろメシだぞ」

言われて視線を落としたら、あたしのなけなしのふくらみが二つ、無防備にさらけ出されてる。

おへそから下は掛け布団の中に埋もれたままだったけど、そこでようやく裸だっていう事を思い出して、あたしは胸を片腕で隠しながら、あたふたと布団を肩まで引き上げた。

「バカ、変態、見るんじゃないッ」

「お前が勝手に見せたんだろう?俺は不可抗力だ」

「見せてない、もう、皆守は!」

「はいはい、何でもいいから早く着ろ、よし、できたぞ」

ガスコンロの火を止めて、お皿を用意している間に、あたしは慌てて近くに落ちていた下着を穿いて、服を探す。

「しゃ、シャツが」

「ん?」

あれ、昨日どこにやったっけ?

(確か)

「皆守ッ」

「何だよ」

「あたしのシャツ!昨日、どこに投げたのッ」

「ああ、アレな」

えーと、ええっと。

探しているあたしの背中に、何かがバサッと掛けられた。

「ほら」

袖があって、白くて、とりあえずシャツだってことだけは確認できたから、慌ててそれを着―――たんだけど。

「あれ?コレってあたしのシャツじゃないよ」

流しから戻ってきた皆守が、そりゃそうだ、それは俺のだとか何とかいいながら、用意してあった簡易テーブルに持っていたお皿を置いた。

「お前のシャツは、さっきまとめてランドリーに突っ込んできた、今頃は回ってる最中だ、諦めろ」

「な、何でそんな勝手な事するのよッ」

「汚れてたからな、本当は下着も洗いたかったんだが」

ちら、とこっちを見る視線に、あたしはぶかぶかのシャツの裾をギュッと引っ張って大事な部分を隠した。

「み、見るなッ」

「はいはい、じゃ、食おうぜ」

そのままテーブルの向こう側に腰を下ろしちゃう。

皆守のシャツはあたしの体型よりも随分大きくて、袖から指の先しか見えない。

それとぱんつ一丁。

(何なの、この間抜けな格好は)

ちょっとショックを受けてるあたしを見上げて、皆守が、何だかやたら楽しそうに左手に持ったスプーンを振ってみせる。

「ホラ、冷めないうちに食うぞ、お前も早く座れ」

「うー」

「着替えならこれ食ったらお前の部屋からとってきてやるよ、だから、とりあえずメシだ、座れ」

「命令、しないでッ」

あたしはストンってテーブルの前に腰を下ろした。

左側においてあったスプーンをそのまま掴む。

右手でも食べられるんだけど、まあ両手利きっていう話。

ボウルみたいな形のお皿の中に入っていたのは、薄い黄色のスープみたいな何かだった。

「これ、何?」

「カレーリゾット」

ミニトマト、ブロッコリー、アスパラ、ナス、インゲン、たまねぎ、セロリ、それと。

「パプリカだ」

よくわかったなって皆守が笑う、それは、野菜がいっぱい入ったカレーテイストのスープ。

まあ、ご飯がちょっとだけ入ってるから、リゾットって言えなくもない。

一口飲んでみたら、優しい味が口の中に広がっていく。

「どうだ?」

様子を見ていた皆守に、あたしは思わず、自然な笑みが口元にニッコリ浮かんできちゃう。

「美味しい、これ、凄く美味しいねえ」

「だろう?」

フフンって笑う、皆守は何だか得意げだ。

「風味付けがまろやかだよ、ベースはコンソメ?」

「あたり」

「皆守って案外料理上手だよね」

「恐れ入ったか」

「こんなもんじゃ恐れ入りません、でも美味しいのは本当だよ」

うん、凄く美味しい。

飲んでる内にお腹の中からぽかぽかとあったかくなってきて、何かちょっと幸せかも。

いつもよりずっと遅い朝ごはん。

変な格好してるけど、髪の毛もくしゃくしゃで、まだ顔も洗ってないんだけど。

(でも、こういうのもいいかも)

スープを全部飲み干して、皆守にお皿を突き出しながら『おかわり』の意思表明をした。

苦笑いして、お皿を受け取って、歩いていく。

奴の背中も朝の光で、何だかぼんやり光って見える。

(えへへ)

変な気分。

まあ、いいか。

窓から見えてる空の色は寒々しい冬の色だけど、ここだけ、小春日和の室内で、ターメリックやサフランの匂いと、ラベンダーの匂いが、あたしのまわりをふわふわ漂っていた。

 

(終)