「If it can meet
in a dream」
「皆守ッ」
ニコニコしながら駆けて来る姿に目を細める。
今は、昼休み中だ。
皆守は屋上へ行こうとしていた。
「おう、どうしたあきら」
「エヘヘ」
目の前でピョコンと立ち止まって、くり色の髪の毛がふわりと揺れた。
暗い緑色の瞳がその下でキラキラ輝いている。
色白の肌に、淡いピンクの唇。
どっからどうみたって女にしか見えないだろう、なのに、何で他の奴らは気づかないんだ?
(いや、もしかしたら、もしかするのかもしれないな)
―――そんな事をいちいち確認しても仕方ないし、大体、そんなことをしたらバレてしまう。
こんな美味しい状況、あえて自分から壊すなんて馬鹿な事はしない。
当分は骨の髄までしゃぶらせてもらうつもりなんだ、誰かに横取りなんてされてたまるか。
「どうしたの?」
きょとんと小首をかしげる仕草が可愛らしくて、皆守はつい苦笑いを浮かべていた。
「いや、何でも」
それよりお前はどうしたんだと乱雑に髪を撫でた。
掌の下でクシャリと擦れて、乱れた髪形を一生懸命手櫛で整えている。
その姿もどうにも小動物じみていて可愛らしい。
「あっ、あのねっ、皆守、今からお昼なんでしょ?」
「おう、そうだぜ」
「じゃあ、一緒にご飯食べようよ!」
そうして、いつの間にか取り出したのか、二人前のカレーの乗ったトレイを得意げに皆守に掲げて見せた。
「あたしが作ったの、ね?おいしそうでしょ」
「お、おう」
一体どうしたって言うんだ。
(今日は何かあるのか?)
怪訝に思いかける自身を、いいやと直後に否定する。
何だって良いじゃないか、こいつがせっかくこんな事言ってるんだ、添え膳食わぬは何とやら。
(ここは、おとなしく波に乗ろう)
「いいぜ」
ニコリと微笑み返すと、更に嬉しそうに笑っていた。
「いこ、皆守!」
きゅっと手を握られて、駆け出す。
屋上へはすぐにたどり着いた。
そこで、皆守はすでに膝の上にカレー皿を乗せて、がつがつとカレーを貪り食っていた。
(う、うまい!)
非常に、恐ろしく、まるで夢のようにうまい。
うまくてたまらない。
こんなうまいカレーは食った事がない。
「あきら、お前」
「うん?なあに?」
あ、皆守、口の端にご飯粒ついてるよ?
長い睫がフッと降りて、唇を口元に触れさせる。
軽いキスのような事をして、離れるともぐもぐ何かを食べていた。
「しょうがないなあ、もう、落ち着いて食べなさい」
ニコニコと微笑むので、皆守はもうたまらなくなってカレーを更にがつがつ食べまくる。
「こらこら、そんなに慌てて食べたらダメでしょ?」
伸びてきた手が、不意にスプーンを取り上げた。
「ハイ」
ひと匙すくって。
「アーン」
(んなッ)
硬直して、それでも皆守は、すぐに口を開いていた。
馬鹿みたいに大きくあーんと。
「―――おいしい?」
「おう」
照れ臭くて少し視線を外しながら答えると、可愛らしい声がウフフと笑っていた。
ああ、なんていい天気なんだ。
カレーはうまいし、もう最高だ。
夢ならこのまま覚めなきゃ良いのに―――
「はッ」
目覚めて、何度か瞬くと、辺りは暗い。
息苦しくて顔を出すと、今は布団の中に埋もれていたようだった。
むっくりと起き上がった皆守は口元の涎をぬぐいつつ、辺りを見回す。
カーテンは閉じているけれど、その隙間から光が差し込んでいた。
暫らくボーっとして、それから、頭をボリボリ掻いていた。
「夢、かぁ」
ガクリ。
頭を垂れる。
(そうだよな、そううまく行くはずないもんなあ)
億劫げな仕草で腕を伸ばして、携帯電話を探した。
ここは玖隆の自室だ。
主はすでに登校してしまったのだろう。
液晶画面で確認した時刻はそろそろ正午を回る。二度寝した皆守に呆れて、置いていかれたのか。
うーと唸りつつ、メールを打っておいた。
―――今夜はカレーが食いたい。
そのまま再びベッドにバタリと沈み込む。
空腹だけれど、それ以上に眠い。
もう少し寝よう。
玖隆は、どうせ夕方には帰ってくるのだし。
「カレーくらい、食わせろ」
最後は寝惚けた声で呟いて、ものぐさ男はそのまま再び眠りの縁に落ちていった。
今見た夢の続きを見られるといいんだが、などと、柄にもなくロマンティックな事を考えながら―――
(終)