生徒会室。

最近よくお邪魔してる。

あたしが、ってより、専ら甲太郎のお供でなんだけどね。

お仕事のお手伝いしたり、お茶酌みしたり、世間話したり、色々。

特に、事件が一段落着く頃くらいから、阿門君とよくお喋りする様になったんだ。

話してみたらあたしたちって、案外気が合うことがわかった。

しかも阿門君、頭が良くて、紳士で、そんで持って以外に面白キャラ?

あたしの中での印象は、ほぼ180度くらいがらりと変わって、今では結構な仲良しさんだ。

まあ、甲太郎はひたすら嫌がってるんだけど。

(ヤキモチくらい妬かせとけ)

それくらいコイビトの当然の役得、なんてね、イヒ。

とにかく、かつての敵の総本山、今は娯楽施設の生徒会室前に立って、双樹さんが数回ノックをすると、中から『入れ』って阿門君の声がした。

ドアノブをまわして、失礼します、と双樹さん。

「玖隆君をお連れしました」

失礼しまーす。

ドアを抜けたあたしは、見知った面々と、それ以上に見覚えのある姿に唖然として、そのまま硬直してしまった。

 

なんで?

どうしてここにいるの?

 

姉さん、の声に、背後で激しくドアの閉まる音がする。

大げさに仰け反った八千穂さんが、そのまま乱暴に手元を扱ったんだ。

双樹さんも目をまん丸にしてる。

向こうで夷澤君が口を半開き。

鳳君の驚く顔なんて、初めて見たかもしんない。

普段どおりにしていたのは阿門君ただ一人きりだった。

さすが、生徒会長。

(じゃなくて)

あたしはぽつりと唇を動かした。

「クラウス」

背の高いハンサム、銀髪、碧眼、眼鏡でスマートな男の子が、銀縁を細い指先でくいっと持ち上げる。

さらりと髪をかき上げて、ああ、なんて格好付けなんだ、自分の魅力をちゃんと把握して無いとできない仕草だよね、ヤだなー。

(何で、どうして、こんな所で)

「お久しぶり、ですね」

ニッコリ。

ぴしっと固まっているあたしとは対照的な、余裕の表情。

「お、久しぶり」

「姉さん」

直後に俯いて、クラウスは、何だか肩をワナワナと震わせている。

(ヤバイ)

そういえば、最後に会ったのって何年前だっけ?

懐かしいなー。

――― 一応、説明しておくと、奴の名はクラウス、正式名称水代クラウス、ここまで言えばもうわかるでしょ?正真正銘、血を分けたあたしの弟だ。

血統が同じだから顔がいいのは、まあ、当然なんだけど、これがまた、腹立たしいほど優秀で、学問、スポーツ、なんでもこいの、オールマイティキャラなんだから始末におえない。

でもハンターにはならずに、パパやママと同じく、学者の道を志した、我が家のホープ君。

今はどこかの国家研究施設に所属してるって聞いたっけ、何でも、人類の未来に関わる研究に取り組んでいるとか。

(胡散臭い)

最近のクラウスのことなんて、はっきり言ってよくわかんない。

ただ、性格だけは変わってなさそうだっていうのは、何となくわかった。

引く手数多の逸材は、あたしが所属している、たったそれだけの理由で、時々協会の依頼を引き受けているらしい、姉がお世話になってますって、まあ、お礼というより、今後の便宜を見込んでの工作活動なんだろうけれど―――いらん真似をしやがって。

そんでもってクラウスは、次に顔を上げたとき、あたしが予測したとおりの行動に出たのだった。

長い両手を大きく広げて、満面の笑みで、オスの孔雀の求愛のダンスみたいな姿のまま、勢いよくあたしのところまで―――うわわ、うわ、うわあー!

「ねぇさあああんッ」

ばちこーん!と。

激突する胸板。

目の前に星。

猛烈な勢いで抱きしめられて、ぎゅうぎゅう、ぎゅうぎゅうううーっと。

「ねえさん、姉さん、ああ僕の、僕の愛しの姉さんッ」

そのまま締め上げられる、ギブギブ!

あたしより頭二個分以上背の高いクラウスは、当たり前のように体格も良くて、屈強な両腕と厚い胸板によって万力状態に挟みこまれたあたしは、モガモガともがくことしかできない。

(し、死ぬ!)

いい加減にしろ!

思い切り背中をつねり上げてやった。

力が緩んだ隙に、急いで抜け出して、そのまま思い切り体を両腕で突き飛ばして逃げる。

「おっと」

よろけただけで転ばないのが憎らしい。

「姉さん」

しかも、すぐに捕まえられるし!

「クラウスッ」

こんのバカー!

体を反転させて、殴りかかろうとしたあたしを、八千穂さんが慌てて止めにきた。

「あーちゃん、ダメッ」

「―――貴女、弟さんがいたの?」

「驚きました」

「先輩の、弟」

あたしは暫くジタバタ暴れもがいていたんだけれど、そのうちどうにか落ち着いてきて、やっと、振りかぶったままだった腕を下すことができた。

その間クラウスはっていうと、ずーっと涼しい顔で、ただ口元だけニヤニヤさせて、様子を眺めてたんだ。

(ムカつく!)

「姉さん」

「何だバカ!」

「バカとは何ですか、それより、少し痩せた?」

「何が?」

「ハンターの仕事なんて、やめてしまえばいいのに」

は?

「まったく―――」

溜め息吐かれた。

「貴女みたいな繊細な人のする事じゃないって、何度いったら聞き分けてくれるんだ、心配で仕方ない僕の身にもなって欲しい」

うっさい、黙れ!

やっぱ殴っとくかとグーを作ったあたしに気付いて、八千穂さんがその手をよしよしといなしにかかる。

「でも、驚いた、こんなに格好いい弟クンがいたなんて、驚いたけど、ちょっと納得だよー」

「目の辺りが似ているわね、可愛らしいわ」

「瞳の変化もあかりさんと同じ様に起こるんですか?」

「ええ、まあ」

鳳さんの質問に、素直に頷き返すクラウス。

何となく憎たらしい。

「へえ、格好いいねーッ」

ああ、八千穂さんはもう、こんなのの見た目だけに騙されてー!

「あーちゃんに似てるね、クラウスくん!」

「そうですか?」

果てしなく嬉しそうな笑顔で、クラウスは前髪をさらりとかきあげる。

「そう言われるのは、嫌いではありません」

「ウフフ、そうなの?」

「はい、僕は、あかり姉さんに似て、美形ですから」

「まあ、面白い人ね」

「確かに、実に愉快な人だ」

「お褒めに預かり光栄です」

あははーっ―――って。

(何これ)

雰囲気に飲まれかけていたあたしは、慌てて頭をプルプル!

「ちょっと!」

「姉さん、褒められたよ!」

振り返ってニコッと、このバカッ。

「いい加減にしろ、クラウス、そもそもあんた何しに来たのッ」

「御挨拶だな姉さん、貴女に逢いに来たというのは、理由にならないのか?」

「また、偉そうに!お姉ちゃんには口のきき方に気をつけなさいってあれ程」

「はいはい、姉さんの言いつけなら何でも従いますよ」

―――殴る。

三度拳を振りかぶるあたしを、今度は誰も止めなかった。

「おやまあ、殴るのかい?」

クラウスは相変わらずニヤニヤして、怖いですねえって。

「まあ、姉さんにだったら殴られても幸せだけど」

―――わが弟ながら、本気で気持ち悪いぞ。

「でも」

んん?

「あまり楽しんでばかりいては、本題を忘れそうだ」

クラウスは、こほん、と咳払いを一つした。

「そろそろ話すよ、姉さん、それに、皆さんにも、是非聞いて欲しい話があります」

ぐるりと見回して、眼鏡のフレームを押し上げる。

そんななんでもない仕草と一緒に飛び出してきた言葉は、あたしたちの度肝を抜く内容だった。

 

「天香遺跡が、再び起動しています―――僕は、貴女に調査依頼をするために、協会から派遣されてまいりました、詳しい話を聞いていただけますか?ID999berry

 

嘘?!

 

後編に続く!