昔、パパが歌ってくれた事がある。

バレンタインデーキッスーとかいうやたらピンクなバレンタインソング。

ねえねえ、日本人はどうして女の子だけ大騒ぎして、しかもチョコレートなわけ?謎!

(まあそれはともかく)

ここは日本、そして、明日がバレンタインデーなら、あたしも無論参戦せねば!というわけで。

(昨夜のうちに作りました、見よこのチョコレートの山!)

その数28個!

(えっと、まず双樹さんでしょ、阿門君と夷澤君、七瀬さん、夕薙君に取手君、リカちゃんと真里野君、墨木君、トト君、それから白岐さんにヒナ先生、劉さん、舞草さん、千貫さんと、あと黒澤君、えーっと、響君もいたっけ、あとあと神鳳君、タイゾーちゃんもか)

鴉室さんはわざわざロゼッタ経由で依頼って形でお願いされた、あの人そんなにモテないわけ?

(パパとママとクライスには空輸するとして、あとフィルにも送ってあげないと)

それと勿論カールにも!

まあ―――もっとも、何でチョコ?とか聞かれそうな予感はするけれど。

(郷に入ってはロキに従えって、日本のことわざであるもんね!)

そういうことだってメッセージつけとこう。

「あと誰か―――何で一個余ってるの?」

ううん、全然思い出せないぞ、これは自分用って事で、予備で作ったのかな。

「さて」

26個は全部同じチョコレート、どれも私の愛情タップリの、ドライストロベリーをクラッシュしてミルクチョコにまぜまぜした、ストロベリーテイストチョコレート。

かなり沢山味見しちゃった、仕方ないよねぇ。

色んな形で作ったから、どの形があたるかはお楽しみ、ウサギの形したヤツだけ中にイチゴジャムが入ってるからちょっと当りかな。

(そしてそして!)

1個は特製、形は勿論ハート型!ベリーのジャムから作ってみました、Sachertorte

(これはカールに贈るのぉッ)

あたし、一人きり、お部屋で「キャー!」

―――そんな時タイミング悪くドアノブが回って、やっぱり間の悪いモズク男がヌラリと入ってきた。

まあ、モズクってのはその、言い過ぎかもしれないけど。

「何騒いでんだ」だって。

「べ、別に!」

「おーおー部屋の匂いが甘い、お前も大概イベント好きだな」

うっさいな、ほっといてよ!ってあたしに構わず、甲太郎は腰を下ろした傍のテーブルに積み上げられたラッピングの小山をしげしげと眺めてる。

「材料費と梱包費、あわせて結構な額じゃないか、無駄遣いしやがって」

「自分で稼いだお金だもん、いいでしょ」

「フン、生意気だ」

「何がッ」

「こんなのは俺一人でいいだろって言ってるんだよ」

そう言ってそっぽ向く、機嫌悪そうな横顔の耳たぶがちょっとだけ赤い。

―――バカ。

あたしは特製をそっと箱にしまって、机の上に持ってく。

これから梱包して空輸便で送るんだ。

「ん?」

甲太郎が振り返る。

「何だそれは」

「カールの分だよ」

急に立ち上がって、甲太郎、のっしのっし近づいてきたと思ったら―――箱パカッて開けた?!

「あッ」

な、なにすんだ!バカ!

慌てて止めさせようとしたんだけど、あたし、片腕一本で遮られて、うぬぬ!こういう時体が大きいのって卑怯だよね!

(でもダメ!)

これは大事な大事な、カールにあげるためのチョコレートなんだから!

「ちょっとやめてってば、閉じて!」

「うまそうだな」

「は?」

「食ってもいいだろ?」

だ、ダメー!

本気で危険を察知した、あたしの動物的直感が考える前に体に反射!

速攻で甲太郎の後頭部を強打!

「ぐおッ?!」

よろめいた隙を突いて、素早くチョコの箱を閉めると、危なくない位置に遠ざけた。

見よ、この反射神経と危機回避能力!

(じゃ、なくて)

やっちゃったな、って思いつつ、頭抱えて唸ってる甲太郎に手を伸ばす。

「あーもう」

よしよしと手の上から殴った部分を撫でてあげつつ、あんなことするからだよって言ったあたしのこと、蹲った甲太郎の恨めしそうな目が睨んだ。

そんな顔したって悪いのは甲太郎なんだし、仕方ないよ。

「畜生、何だってんだよ」

「だって、やめてって言ってるのに」

「フン、あんなモン用意しやがって」

あらら、すっかりふてくされ?

しょうがないなあ、大体こいつ、いったい何しに来たわけ?

(今日、あたしの部屋にさえ来なければ、全部丸く収まってたわけじゃない)

なんとなーく感じてるんだけど、甲太郎ってやっぱりちょっと不幸体質かも。

よしよし、ってあやしつつ、あたしは教えてあげちゃうことにした。

―――本当は、明日、サプライズにしたかったんだけどね。

「甲太郎にもあるに決まってるでしょ」

口をへの字に結んでる甲太郎。

ちょっと可愛いかも。

「しかも特別製だよ?あたしが愛情タップリ込めて作った世界に一つきりのチョコ、甲太郎のために命かけたんだから」

えへん!どうだ!愛の深さを思い知れ!

「そ」

「うん?」

「―――それは、妙なモン入ってないだろうな?」

がつん!

「うッ」

このやろ!

「殴る事ないだろ!」

「失礼な!」

「お前が命がけとか言うからだろうが、ハンターが命がけで作ったチョコなんてろくなもんじゃない、普通警戒するだろ!」

おっと盲点、そっかそっか。

あたしの命がけって、大概お仕事がらみだもんねえ。

(でも愛にも命かけてます!)

「命がけで愛してるから命かけたって言ったんだよ!」

甲太郎は一瞬ポカンとして、それから首まで真っ赤に染めて、ムスッとしたまま俯いちゃった。

どうしたのかなって思ってたら、急にギュって抱きついてきて、あたしのお腹に顔を押し付けながら「バカ」って小さく呟いた。

「―――どんなチョコレートなんだ?」

「それは明日のお楽しみ、甲太郎に喜んで欲しくて、一生懸命作ったんだよ」

「そうか」

「あ、今更だけど、甲太郎、チョコ好き?」

「お前が作ったのなら、好きだ」

「そっかー」

えへへ、えへへへへ、なんだもう、バカッ

ニヤニヤしながら甲太郎の頭をハグして、あたしも何だか赤くなっちゃう。

日本の2月はまだ寒いけど、今だけ、ここだけ、ポカポカして幸せ、凄く気持ちイイ。

「あかり」

「なーに?」

「―――俺のは、この中で一番美味いヤツなんだろうな?」

あーハイハイ。

「当然でしょ」

ぐりってお腹におでこ擦り付けてきた、どうやら納得したみたい。

(はー、疲れる)

やっとひと心地ついたとき、トントンってノックの音が聞こえてきた。

「はーい」

って、コラ!甲太郎のハグで動けない!

離しなさいって体を揺すって、どうにか抜け出してドアに走った。

甲太郎はあたしに無断で合鍵作っていつでも勝手に進入してくるけど、入る時と出るとき、必ず鍵をかけるクセがあるみたいなんだよね、まあたまに忘れたりもするみたいですが。

ドアを開けるとニコニコした明日香君が立っていた。

「やあ」

「どうしたの?」

「うん、おいしい紅茶が手に入ったから、あーちゃんと一緒に飲もうと」

言いながら、部屋の中を覗き込んだ明日香君、急に何かに気づいたような顔になる。

「ゴメン、上がるよ」

え、え、ええッ

実は結構今忙しいのにーッ

これ以上の千客万来は困るって、鍵かけて、振り返って、ってちょっと!

「皆守、来てたのか」

「何用だ八千穂、間に合ってるぞ」

何が?

ちょっとピリッとした空気が漂った後、やれやれって明日香君がため息を吐いて甲太郎の傍に腰を下ろした。

どうやらこの二人、暫く帰るつもりはないみたい―――空輸の準備しなくちゃいけないってのに、もう!

「ところであーちゃん」

「何?」

「凄いチョコレートの山だね、明日皆に配るの?」

「そうだよ」

「そっちの机のは?」

「アレは特製、カールにあげるの」

ってアワワ、ちょっとコレ明日香君の前でも禁句だったんじゃ!

案の定、明日香君「へえ」とか言いながら小箱にめっちゃ集中してる!あたしのチョコ本日二度目のピーンチ!

―――うう、仕方ない、これも明日のサプライズにしておきたかったんですが。

「八千穂君の分もあるよ!」

え、と振り返った明日香君と、あたしを見上げる甲太郎。

「明日香君のために作った特別製、すっごく美味しいんだから!」

「本当?」

「オイ!」

―――声はサラウンドで部屋に響いた。

物凄い剣幕の甲太郎が身を乗り出してくる!

「お前、八千穂のも特製だってのか?!」

だ、だって、八千穂君の事も大好きなんだもん!

 

日本のバレンタインデー事情、みんな、もっとおっきな愛を持ったほうがいいと思うよ?

 

(終)

 

ちなみに甲ちゃんはラブ、メンズやっちは限りなくラブに近いライク、カールはライクの最上級です。

気が多いと思っていただいて結構だよ!ハッピーバレンタイン!!