「Girl on the Dish」
ペロリと雑誌をめくって、最近の流行を追っかけていたあたしに、甲太郎が訊いてきた。
「あきら、お前、女体盛りって知ってるか?」
「にょたいもり?」
何だそれ?
どういう字を書くのって尋ねたら、女の体を盛るって教えられた。
何だか不埒な響き、ちょっといやらしい気配がする。
(にょた、にょたー?)
とりあえず想像を巡らせてみた。
女を盛るんだから、食べ物ではないよね?
何に盛るんだろう。
もしかしてマット運動とか、そういうのじゃないんだろうか。
試しに甲太郎に言ってみると、惜しいって嫌な顔で笑われた。
うーん、ますますもって怪しい。
これは深く追求しない方がいい系統の話題なんじゃなかろうか。
(そもそもなんで唐突にそんな話が飛び出してくるわけ?)
唸って自分の手元を見て、納得。
雑誌の見開きページで躍っていた文字の列、秋の味覚満載、おいしい絶景旅館100選。
瀬戸内の海を一望できる座敷で頂く船盛りは絶品、旅の思い出に残る味?
(で、女体盛りが出てきたってわけか)
けど、船盛りって、これはお船の形をした容器に刺身を盛り付ける料理なのね、ふぅん。
(じゃあ女体盛りって)
そうか、船の上に女の人が乗って―――海女さん?
これ以上話題にしたくなかったんだけど、つい気になっちゃって、あたしの悪い癖だ。
「違う」
甲太郎はフーッとアロマを吹かす。
ちょっと小バカにしたような顔で、こんにゃろ、知らないと思って!
若干イラッときたから「もういいよ」って視線を雑誌に戻したら、甲太郎は「女の体に刺身を盛るんだ」なんてとんでもない事をサラッと言ってのけた。
「はあ?」
何だそれ、何料理?
っていうか刺身は料理?
(それはともかく、からかってんの?)
知らないからってウソ吐いて騙そうっていうのか、コイツ!
そんな事が許されるのはパパくらいだよ!ホント言えばパパのウソだって時々酷い目に遭ってるのに!
(まあ、パパは騙そうとしているわけじゃなくて、パパ自身の知識があやふやだから)
けど、甲太郎は間違いなく悪意。
だからジロリと睨みつけてやったら、本当だぞってアロマのパイプをスパスパ煙らせた。
「そうなの?」
「おう」
「でも、その料理って、ちょっと不潔じゃない?」
「何で」
だって、人の体に盛り付けるんでしょう?
「体温でお刺身みたいな生鮮はあっという間に鮮度が失われるだろうし、刺身もそうだけど、人の体だって、両方雑菌まみれになるよ、それに、そもそも人体って常に分泌物を出してるわけだから、皿として使うのは無理があるんじゃない?気持ち悪いよ、それ、日本の料理なの?」
あたしが一気に話したら、黙り込んだ甲太郎はつまらなそうにそっぽ向いちゃった。
やっぱりウソだったのかな。
雑誌のページをペロリとめくると、急に背中が重くなる。
「ちょ、何?」
甲太郎がお腹に両腕を回して、あたしにピッタリ張り付いてきた。
肩に頭を乗っけて、なあ、って、何?
「食いたい」
「は?」
「女体盛り」
「どこの」
「ここの」
何言ってるんだろ、マミーズにそんなメニューはないよ?
(まさか裏メニュー!舞草さんが―――)
そこまで考えて、あたしはようやく甲太郎が何を言っているかに気付いたのだった。
我ながらあまりにも鈍すぎる、うぅ。
気付けばシャツの裾からスルリと両手が潜りこんできて、あたしのなけなしの胸をムニュムニュと―――こんにゃろう!
「ちょっと、やめてってば!」
慌てて身を捩ったら、足の付け根に両足を乗せてがっちりホールドされちゃって、首と肩の付け根辺りをチューッと強く吸い上げられた。
だから、イヤなんだってば!
「やめーい!離れろ!コラ!ええい!このっ」
ジタバタしても甲太郎はカミツキガメみたいにがっちり食いついて離れない。
それでもあたしは必死で抵抗を試みていたら、耳の傍で「なら」って小さな声。
「女体盛りしてくれよ、そしたら勘弁してやってもいい」
「ふざけんなっ、このエロ!バカ!不潔だって言ってるでしょ!」
「お前は不潔じゃないだろ?」
それはまあ、毎日お風呂に入ってるからね―――入れる時はだけど。
「お前だったら、皿ごと食いたい」
それはあたしまで食おうっていう算段ですか!
(お断りだっての!)
ふざけんなーって甲太郎の頭をバシバシ叩いて、ついでに噛み付き返そうとしたら、逆にキスされた。
ちょっと、舌を入れるな!
だからもう!よだれ飲んじゃったじゃない!
何とか解放されて、このやろうって睨みつけたら、何だよってちょっとふてくされた顔。
「なあ、おい」
「ダメ、ヤダ」
「何で」
「訊くまでもないでしょ、それに」
「何だ」
―――こういう時は、情に訴えてみよう。
あんまり間を開けると、またチューされそうで危ない。
そういう訳には行かないぞと、私を見詰める目を見て一所懸命に。
「そんな鮮度の落ちたお刺身食べて、甲太郎がお腹壊したらイヤダヨ」
さ、最後、ちょっと片言になっちゃったけどダイジョブかなー?
そしたらあたしの体のあちこちを触りまくっていた甲太郎の手の動きが急に止まって、ジッと見詰められた後で、急にキュウって抱きしめられて―――バカって苦笑い。
「何言ってんだ、妙な心配しやがって」
(バ)
バカはお前だ、バーカ!
(よし絆された、ちょろいちょろい!)
とりあえず、女体盛りの危険は去ったような、でもまだ安心できないような?
ウソは言ってないもん。
本当にそんな鮮度の落ちた刺身なんか食べたらお腹壊すし、気持ち悪いでしょ?人が皿だなんて。
少なくともあたしは絶対にイヤだ、甲太郎をさらにして刺身なんて食べたら、いや、食べる前に吐く。
(最初に考えた人、よっぽど悪趣味か、物凄い変態だったんだろうなぁ)
恐ろしいよね、ホント。
まあ変態ぶりじゃ甲太郎も負けてないように思うけど。
しかし―――このエロ助はいい加減外れないだろうか、重いし鬱陶しいし、雑誌読みたい。
(邪魔だ、果てしなく)
「なあ、あきら」
「うん?」
何の気なしに応えたら、ほっぺにチュってされた。
「それなら双樹辺りに抗菌仕様の水着持ってないか訊いてみようぜ」
「は?」
「それ着て盛れば安全だろ、裸のお前に皿でも乗せて、そこに刺身を盛り付けるってのも、アリかもしれないな」
(な、ナシですよ、ちょっと!)
待った待った!何だか話が妙な方向に!
「体温で悪くなる前に食っちまえばいいんだ、そんなに時間のかかる食い物でもないし、そうだな、皿の方がイイかもな、刺身食ったら、皿どけるだけで、デザートまでいけるもんな」
その、デザートって誰のことでしょうか。
(名案出たみたいな顔しちゃって、もー!)
あたしの体のあちこちを、甲太郎の手がまたワサワサと触り始め―――うわ、ちょっと、そこはダメッ
「あんっ」
甘ったるい声を鼻で笑い飛ばして、甲太郎はあたしの肩にがぶりと噛み付いた。
「俺の事心配してくれて有難うなぁ、あきら」
ジンジン痛む噛み痕を、舌でペロリ。
「だがなぁ」
「ふえ?」
「そんなことで諦める俺じゃない、覚えとけ」
いーやあー!
わざとらしく「ハッハッハ」ってダンディな笑い声が更にいやあー!
背後のおんぶオバケを今すぐ射殺に処してやりたいっ
いよいよ必死でジタバタするアタシをがっちり押さえつけて、甲太郎はセクハラなんて甘っちょろい言葉で済ませらんない様な際どいアレコレを、アレコレを!
(助けて!)
「大体なんで、こんな話になってるのよー!」
「フン、俺を退屈にさせるからだ」
「ざ、雑誌くらい好きに読ませてよね、バカ!大体ちゃんと支払いしてるじゃない!いい加減にしてよね!」
「女体盛りと支払い三日分を引き換えてもいいぞ」
「えっ」
そ、それは。
(ううーッ)
―――だがしかし!人として、捨ててはならぬ領分がある!って前に時代劇で将軍様が言ってた!
「やっぱダメぇー!」
なんだよって口を尖らせる甲太郎は、裏腹に実に楽しげ、コイツ、いつか覚えてろ!
あたしはすっかり雑誌どころじゃない。
絡みつく甲太郎の腕の中で、抱かれるのが嫌いな猫みたいに怒って暴れて、けどこれ、どうやっても外れなさそう、ああもう。
モガモガしながら自分に刺身が盛られている姿を想像してみて、そうだ、私も食べていいのかな?
皿が中身を食べるなんて、ちょっとシュールな光景だよねぇ。
とりあえず、いざそういう事になったら、まず魚を釣って来いって言ってみるつもり。
(終)
タイトルは是非直訳で、あとちょっとオマケです(想像してね★)
裸の腹の上に皿乗せて刺身持って、醤油小皿片手に刺身を食うあかりと、傍らで一緒に刺身を摘む甲太郎の姿は、きっとエロスとは微妙に違うと思います―――甲太郎も若干ガッカリに違いない。
案外萎えちゃって本分を果たせない予感、皿は中身を食っちゃいけないの心得。
未成年の飲酒はオススメできませんが、ワカメ酒は甘酒と同じなので可!本番はここから(するんかいっ