Secret exclusive possession

 

 皆守が訳わかんないのはいつもの事だけど、今日もそんな感じだった。

朝、起きて、一緒にご飯食べて、部屋から出るまでは良かったんだけど。

「お?」

ドアを開けた途端、ひらりと舞い降りた一通の封筒。

「何、これ」

拾い上げて封を切る。

中を読んで―――ちょっとだけ、絶句した。

「こ、れ?」

あたしがビックリしてる間に、皆守が、手元からその書面をぱっと取り上げて、中を軽く一読してからクシャクシャって丸める。

「って、あー!」

「煩い」

ポイッて廊下に投げ捨てて、直後にあたしの手を掴んで歩き出した。

引きずられるように歩く、あたし。

あれってば、あれってば!

「な、なあ、皆守?」

「何だ」

「この学校には、茂美ちゃん以外にもそういう趣味の人が多数いるんですか?」

「知らん」

「―――お、れの、その、(ゴニョゴニョ)は、ばれてないよ、ねえ?」

「多分な」

あうー

でも、そしたら何であんなものが届けられてたんだろう?

あんな―――ラブレター、だなんて。

(しかし、書面で告白だなんて、奥ゆかしいというか、古風というか)

日本の男の人はシャイなタイプが多いって聞いていたけど、これでも精一杯やってくれたんだろうなあ。

いや、お疲れ様。

というか、有難うございます。

(でも、あたしってばここでは一応男で通ってるわけだし)

うーん、ならなんであんな手紙をいただいてしまったのか。

男子寮には女の子は入れない事になってるし、代理で届けてくれたっていうんじゃないよねえ?

そもそも、差出人名が男の子の名前だと思うんですが、あれは。

まあ、お年頃だし、たとえ同性とはいえ羨望や憧憬が恋愛感情とごっちゃになることも、ありうるといえば、そうなのだけど。

(でも、あたしに憧れ?)

エヘヘ?

だったらちょっと―――鼻高々なんだけどなあ。

くだらない事を考えていたら、案の定皆守に見抜かれた。

「オイ」

「うん?」

「あのな、妙な勘違い、してるんじゃねえぞ」

「んなッ、そ、そんなもん、してないぞ!」

「大方部屋を間違えたか、からかい半分の手紙だろうよ」

「ええッ」

そ、そーなの?

皆守にずんずん引っ張られながら、何だかそっちの線のほうが濃いような気がして、あたしはだんだんションボリモードに切り替わっていく。

そう―――か。

(そうだよねえ)

あー

そう考えるほうが、自然だよねえ。

「うー」

くそう。

小さく呟いたら、皆守がふと足を止めた。

振り返ってあたしを見ると、口の端を吊り上げて笑う。

「ま、お前なんかがちょっかい出されるわけもないさ」

「な」

それをアンタが言いますか!

っていうか一番いらないちょっかいを出していらっしゃるのは、どこのどなた様ですか?

むくれるあたしの頭をポンポンと叩いて、皆守はあたしの背後に伸びる廊下に一瞬だけ視線を向ける。

「あきら」

「何だよッ」

噛み付くように怒鳴り返したあたしに、そのまま、いきなり―――

「―――んあー!」

直後にぱっと離れて、皆守がまた笑う。

あたしは真っ赤になってげんこつを握りながら、このTPOをわきまえないバカに殴りかかっていった。

「このッ、バカッ、バカッ、人に見られたら、どーしてくれるッ」

こんな公共の場所で、キスだなんて!

「ハハハ」

「ハハハじゃない、バカッ」

「いいじゃねえか、減るもんじゃなし」

「減るのッ」

「フン、見せしめついでだ、甘んじて受けろ」

―――へ?

「見せしめ?」

って何とか訊こうとしたあたしの背後をもう一回見て、何だか知らないけどニヤリとか笑って、気にしたあたしが振り返るより先に、皆守は強引にあたしの肩を抱いて歩き出していた。

な、何なのさ、本当に。

「皆守ッ、このバカ、放せッ」

フン、と呟いて、懐から取り出したアロマパイプを咥えながら、皆守は聞こえないふりでライターをカチンと灯す。

あたしといえばすっかりわけがわからなくて、ただ今度は何だか急に機嫌が良くなったこいつに疑問符を浮かべながら、見上げるばっかりしかできなかった。

だってさっきから、さっぱり要領を得ないんだもん。今日のこいつの天気模様。

「おい、あきら」

「何だよ」

「途中で売店よって行こうぜ、カレーパンが欲しい」

「さっき一緒に朝ごはん食べただろ?どーしてもうお腹が減るんだよ」

「お前の分も買ってやるから」

「いらない、俺はお腹いっぱいです」

「じゃあ、飲み物はどうだ?お前のお気に入りのアレ」

「んッ?」

イチゴの、パックの、ジュース!

「それ、買ってやるよ」

ホントに?とか聞き返して、頷く皆守に現金なあたしはすぐに機嫌が直っちゃった。

いや、もとよりあんまり気にしてなかったっていうのもあるんですけどね。

「安い奴だぜ」

「ふんだ、ジュース一本で調子に乗るような人間じゃありません」

「今乗っただろうが」

「いいの、おごりは別なの、あとイチゴに罪はないのッ」

「はいはい、そうですか」

「そうです」

フーとか息を吐き出しながら、あたしの肩に凭れ掛かって、皆守はいつものようにアロマパイプをプカプカと吹かしている。

あたしは、もうすっかり慣れたこの怠慢男の重みを乗っけたまま、ご機嫌な足取りで廊下を歩き出していた。

 

 

―――His Side

 

気をつけて、目配りしていたんだが、どうやら俺の包囲網を潜り抜けた野郎がいたようだ。

まあ、これだけあからさまに見せ付けてやれば、恐らく奴も諦めるだろう。

ついでにおかしな噂のひとつでも立ててくれれば上出来だ。

それを狙って、というのも、あながち考えになかったわけじゃない。

手紙を握りつぶし、視線を排除して、接触を阻止している俺を、こいつは知らない。

 

「まったく―――暢気なものだぜ」

 

 

「皆守、今何か言った?」

「別に」

 

 

Sie allein weiss nicht

 

(終)