「ん、んん」
ゆっくり浮上してくる意識の先に、見えた世界は真っ暗だった。
少しして、それが天井だって理解する。
ここ、どこだろう。
ぼんやりしていたら、そっと前髪を撫でられた。
「あきら」
首だけ横を向く。
ベッドサイドから覗き込む、甲太郎の不安そうな表情。
「こう、たろ?」
「気分はどうだ」
掌の感触が優しい。
凄く気持ちよくて、掛け布団の下から手を伸ばそうとしたら、先に指先を捕まえられた。
「寝てろ、まだ、起きるな」
「甲太郎、あたし、どうしたの?」
「気絶した、寮まで俺が運んできた、ここは、俺の部屋だ」
ああ、だから。
スンスンと鼻を動かすと、仄かに香るラベンダーの香り。
何だか癒される。
指先を握る甲太郎の手はあったかくて、そのまま、指を絡ませて、ギュッと握り締められた。
「フフ」
嬉しくて何だか笑っちゃう。
また髪を撫でてくれて、何度も、何度も、優しい掌があやすように触れていてくれる。
「あきら」
甲太郎の声だ。
どうしよう。
(それって凄く、今更)
自分で呆れるほど鈍いと思うんだけど、でも。
気付いちゃった。
どうしよう。
あたし―――甲太郎のこと、好きだ。
嬉しくて涙がこぼれたら、指先が拭ってくれた。
電灯もついていない部屋の中で、体中ボロボロで、心までボロボロにされかけて、身じろぎすらできないくらい疲れ果てているんだけれど、あたしの中に幸せがひたひたと満ちてくる。
もう誤魔化せない。
好きなんだ。
どうしようもないくらい、大好きなんだ。
酷い奴で、最悪な出会い方をして、それから、たくさん、意地悪されたし、怖い思いも、辛い気持も、いっぱいいっぱい、あったはずなのに。
思い出全部ひっくるめて、あたしは、甲太郎のこと、好きだ。
気持ちが止まらない。
溢れ出す涙を、全部甲太郎が拭ってくれる。
何度も、何度も。
目尻にキスされて、もう大丈夫だからって囁かれた。
たったそれだけのことなのに、喪部にされた酷い出来事の、恐怖やショック、悲しい気持が、するするとほどけていく。
ますます胸が一杯になって、泣き続けるあたしのおでこに、頬に、指先に、降り注いでくるキスの雨。
「お前が目を覚ますまで、ずっと傍にいる」
だから、寝ろ。
「うん」
小さく答えたら、ほんの微かに笑った気配。
最後のキスは、瞼の上に落ちてきた。
あたしは、甲太郎の気配や、触れ合っている掌の感触に、自分でも驚くくらい安堵して、今度はゆっくりと眠りの淵へ落ちていった。
怖い夢は、多分、見ない。