嫌な予感って、大体外れないんだよねー
事、皆守に関しては。
あたしはコソコソと、室内プールの裏口の鍵をかけなおす。
開錠は簡単だけど、ロックってなるとこれが結構手間がかかって面倒臭い。
まあ、手先の器用さには自信があるから、その辺の泥棒なんかよりずっと手際は良いんだけどね。
「うーでも、さすがに寒いなあ」
まだ濡れたままの髪の毛をタオルでワシワシこすりなおして、そのまま夜の闇に紛れて一目散に寮へと戻る。
往復で大体40分くらい掛かっちゃうから、シャワー使うのも一苦労なんだ。
そんな羽目になったのも、もちろんあのバカ男のせい。
あたしは、自室に戻って仕度を整えながら、まだ気だるい下半身を時々さする。
だってさ、夕方から、5時間だよ?!
(ありえない)
ねっとりたっぷり頂かれて、ベタベタになっちゃったから、やむを得ずシャワーと、まあそういうことで。
あちこちつけられた痣は消せないけど、でも色んなモヤモヤした気持ちや、体の外や内側に残っていたものを全部洗い流して、さっぱりして戻ってきたあたしは探索準備を完了させた。
髪の毛ももうすっかり乾いちゃった。
時刻はそろそろ深夜をまわる。
あーあ、今日も徹夜かなあ。
教室で寝るのって、ちょっとはばかられるのに。
「でも、あれってどういうことだったんだろ」
思わず言葉が口をついて出ていた。
例の、お支払いの時、もういい加減くたくたになってたあたしを抱きしめながら、皆守が耳元で囁いた一言。
「嫌なんだよ、面知ってる奴が、死ぬっていうのは、もう―――」
あの時はそれどころじゃなかったから殆ど聞き逃してたけど、意味深な台詞で珍しく覚えてたんだよね。
もしかして、皆守は誰か知り合いが死んじゃってるのかなあ?
あたしも結構いろんな人が死んじゃってるけど、やっぱり知ってる人が死ぬのって辛いし、嫌だ。
ふと、チェックしていたマシンガンの銃身を下ろす。
特に、さ。
―――好きな人が死ぬのは、やっぱり嫌だよねえ。
「あーあ」
あたしは窓の傍に近づいて、何気なくカーテンを開いて、夜の景色を眺めた。
昼間の光も好きだけど、夜の暗闇も、あたしは大好き。
特に、月だけが出ているような夜が好き。
今夜もそんな感じで、ぼんやりと霞むような輝きが静かに地面を照らしている。
あの人は、今もどっかの遺跡を元気に走り回っているんだろうか?
「あたしの事知ったら、なんて言うかなあ」
チェッと呟いて、カーテンを閉じた。
メロウな気分になってる場合じゃない、今は、お仕事お仕事!
荷物チェックよし、武器のチェックよし、弾薬のチェックよし。
「体調良好、ツールの感度良好、オールグリーン、ではでは参りましょうか!」
窓を開いて金具をかけて、そこから目にも止まらぬ鮮やかさで夜の闇へと躍り出た。
降下して、ロープを引いて、ちょっとだけ開いてる窓の状態を確認して、よーし、大丈夫ッ
そのまま駆け出そうとした、その時。
「オイ、玖隆」
―――この声は。
(うわ、また?)
振り返れば、暗闇に隠れていたのはやっぱり皆守だった。
「墓地に行くんだろう?」
「そうだけど」
「まあ、その格好見りゃ一目瞭然だな」
皆守は不愉快そうにパイプを燻らせている。
「俺が行くなって、言っても聞くようなお前じゃないとは思っていたがな」
「何だよ」
「行くんなら、俺も行くぜ」
「ついてきてって、言ってませんけど」
さっきの今で、よくもまあそんな普通の顔で登場できたもんだ。
こいつ、相当ねちっこい性格してるなあ。
立ち止まってジトッと睨みつけてたあたしの顔を覗き込んで、皆守はちょっとだけ真面目な顔をする。
「ちゃんと乾かしてきたのか?」
ムッとするあたしの頭をポンポン叩いて、大丈夫みたいだなと口元でアロマのパイプが揺れた。
ムギーッ!
あたしの髪の毛の心配するくらいだったら、もっとほかの心配をしてよ!
「誰のせいだと思ってるんだよ、バカッ」
どうせ何言ったってついて来るんだろうしと、あたしは半ば諦めて、改めて足を踏み出した。
風を切って駆けていくあたしは結構足が速いほうだと思うんだけど、皆守は全然問題なく追いついてくるもんだから、正直参っちゃう。
墓地についたらもう一人誰か呼ぼう。
こいつと二人きりじゃ、たとえ遺跡でも何されるか分かったもんじゃないし。
夜闇に紛れるあたしは今日も元気だ。
父さん、母さん、クラウス、見ててくれてますかーッ
(負けないッ)
こけても、めげても、苛められても、それでも生きてるから。
生きている限り、明日は絶対いい日に違いないもの!
後からすぐ追いつきそうになる足音に、なんともいえない気分にさせられながら、それでもあたしは地面を蹴って走り続けた。
皆守の言葉とか、椎名さんのこととか、ほんのちょっとだけ考えたりしながら。