「シグナル」

 

 危険だ、と、胸の内でシグナルが点滅する。

こいつの傍にいると危険だ。

それは何も、季節外れの転校生は怪しいとか、使命を全うするためだとか、そんなつまらない事じゃない。

もっと重要で、もっと大きくて、俺にとってはのっぴきならない、それこそ、人生すら左右してしまいそうな危機感。

 

玖隆の傍にいるのは、ヤバイ。

 

理由なんて判らない。

単なる直感に過ぎない。

人間に動物的本能なんて殆ど残っていないし、俺は元々それほど野性味溢れるタイプってわけじゃない。

どちらかといえば、都会育ちのもやしっ子だ。

(憎らしい表現だがな)

まあ、事実だろう。

 

ああ、あいつがいる。

 

背中が見える。

どれだけ多くの人に囲まれていても、どれほどの人ごみの中にいても、どれだけ遠く離れていても、たとえ、すぐには判らないような状況だったとしても。

玖隆なら見つかる。

見つけてしまうんだ、俺は。

そして、ためらう。

同時に期待する。

気分が上昇して、失墜し、平常を装う。

 

―――まるで道化だな。

 

魂は血潮を無くし、涙すら枯れ果てて、飢餓感ばかりを募らせていた俺の目の前に突然現れたオアシス。

困惑し、狂喜し、食い潰す予感に脅える。

だが、それはいずれ訪れる未来だ。

(そうに決まっている)

俺の孤独が、俺の飢えが、お前を殺すんだ、玖隆。

 

(けど、それまでは、せめて―――)

 

仮面を被りなおす、深く、深く。

幾らシグナルが点滅しようが、警告音が聞こえてこようが、そんなものは関係ない。

すでに壊れたこの身なら、完全に失せるまで悪あがきを続けるだけだ。

嗅ぎ慣れた甘い花の香りで肺を満たして、俺は背中に呼びかける―――

 

「―――」

 

救いの日は、来ない。

 

(了)

※男主、女主、どちらでも好きな解釈でどうぞ