「銃創にキス」
着替えを眺めている。
広い男の背中だ。
肌は浅黒くて、その表面に無数の傷。
切り傷、刺し傷、そして―――銃創。
平和な島国日本の、ごく平均的な男子高校生の身体には、あらざるもの。
こいつが、この痕にツッコミが入るのがイヤで、いつも入浴時間ギリギリに風呂を利用しているのを知っている。
運動部や汗臭い野郎どもが使ったあとの湯だ。
あまり気持ちのいい状態じゃないはずだってのに、湯船には必ず浸かるらしい。
こいついわく。
「お湯に浸かれるってだけで贅沢なんだぜ、これが入らずにいられますかってんだ」
だが、俺はまだその感覚を実感として理解できない。
想像くらいならできるんだが、そこまでだ。
こいつは仕方ないよと笑っていたが、そんなものは癪だ、自分が甘いと言われたようで尚更悔しい。
(いや、実際)
こいつに比べたら、甘いんだろう。
壊したモノたちの重さに押しつぶされて、何もかも捨てて逃げ出した俺は―――
「ん?」
「どうした、こうたろ―――」
誰もいない脱衣所。
傷だらけの肩を捕まえて、おもむろに。
背中に残る銃創に、キス。
「お?おおっと!」
「随分情熱的だな、風呂に入ってのぼせたか?」
顔にかかる濡れた髪をかき上げながら、俺は、唇にほんの僅か笑みを滲ませた。
「ぬかせ―――」
(了)