「幻聴」
室内でぼうっとしていると、ありもしない声が聞こえてきたりする。
『―――いったでしょ?これからは、私があなたを守るって』
足を組み替えながら、だらしなく、凭れていたベッドの淵をさらに滑り落ちた。
あのおせっかい焼きのせいで消し損ねた俺の過去の呼び声だ。
忘れたいのに、忘れられない。
伸し餅みたいな格好で、咥えたパイプを上下に揺らす。
(ダルい)
俺なんかとっくの昔に狂っちまってるんだから、ならばいっそどうして本格的にキチガイになれないのかと胸の奥の方が焦れる。
痛みだけ失せたって無意味だ、こんなにも重く息苦しいのに過去は無くならない。
どうして変化は訪れる?
何故、俺に滅びはやってこないんだ。
重ね続けた咎の重みが、終わりの日を先延ばしにして、苦しみを与え続けているとでもいうのか。
『ねえ』
「ん?」
『皆守は、バカだけど、でも悪い奴じゃないよね、多分』
俺は両目を見開いた。
僅かに起き上がって、首だけで、隣に座る銃身の掃除に余念の無いあきらを振り返る。
「おい、あきら」
「うん?」
「今何か言ったか?」
「―――別に、何も」
気が散るから話しかけないでと言われて、俺は暫く横顔を見詰めてから、またずるずるとベッドサイドに崩れ落ちた。
都合のいい幻聴だ。
俺はやっぱりイカれてる。
両目を閉じて、嗅覚だけに集中すれば、ラベンダーの香りに混じって、ガンパウダーと、それからあきらのシャンプーの匂いが、ほのかに鼻腔をくすぐった。
『ホント、仕方の無い奴なんだから―――』
(了)