「R-style 17」
赤い。
どうしてこんなに視界が赤いんだ。
ああ、そうか、これはナビゲーションシステムの警告の赤だ。
心拍数低下、血圧低下、自発呼吸に異常発生。
わかってるさそんなこと。
そんな大声で繰り返さなくたって、まだ聴覚までいかれたわけじゃない。
現在地下六十メートル、天香遺跡最深部、四方を炎で囲まれた部屋はやけに寒い。
はるか上空に見える、あれは地の底の入り口だ。
降ってくる光は黴臭くて、薄暗い。
体中が痛い。
ゴーグルのアイモニタ越しに知った顔が覗く。
「晃、お前」
うん?
「―――わざと、避けなかっただろう」
バレたかと俺はニヤリと笑う
急所に食い込んだ一撃はかなり効いたぜ?
たぶん、首か脊椎が損傷している。
まあ仕方ないか、結局お前の言ったとおり、俺はバカだったんだ。
あの一瞬、そのまま攻撃を仕掛けていたら、たぶん本当に殺してしまっていただろう。
お前は死ぬ事を望んでいたみたいだけれど。
俺は、そんなのは絶対に嫌だったから。
まあ、最後の最後までワガママな友人だったと呆れてくれたらいいさ。
お前を亡くすくらいなら、俺が無くなってしまったほうがいい。
「バカ野郎」
伸びてきた手がゴーグルを外す。
それなのに、世界はまだ赤い。
なんでだ?
「バカ野郎」
冷たい指先だ。
頬に触れて、滴ってくる。
これは何だ。
これは―――お前の涙なのか。
「ゴメ―――な」
助けてやるって、そう決めていたのに。
「ホ―――と、に、ゴメ―――」
視界が歪む。
同時にたくさん、汚らしく吐き出してしまって。
真っ赤に染まった手を見つめる、お前の瞳から色が消えていく。
そうか、ここで終わるのか。
俺も、お前も。
―――でも、最高に楽しい三ヶ月間だったぜ。
このまま死んでも悔いが残らないほどに、最高の―――
最後にただひとつだけ、わがままを聞いてくれるというならば。
とっておきのがあるんだが。
でも、俺は思いなおして、その言葉を連れて行くことにした。
せめてもの慰みだ、生者には必要の無い言葉だ。
いつかきっと誰かがお前を助け出してくれる。
それは俺の役目でありたかったけれど、もう願いは叶いそうもないから。
だから。
「カ―――っこ、悪い、な、オレ」
ああ、暗い。
もう何も見えない。
どうしてここはこんなに寒いんだ。
最後に残された感触だけ、誰かに抱きしめられたような気がした。
痛いのと苦しいのに紛れて、それが現実かどうか定かじゃない。
遠くで誰か、何か聞こえる。
甲太郎、お前はどこにいるんだ?
「晃、俺ももう、疲れた―――お前と一緒なら、死出の旅路もそう悪いもんじゃないだろう?」
―――何も、聞こえない。
ゴメンと呟いた唇が、正確に動いてくれたかどうかだけが気がかりだった。
ゆるゆると暗闇が落ちてきて、世界は完全に途絶える。
調書は完成しないまま、再び闇に葬られた。
悪夢は醒めない。
(了)