転送機から降りると、途端に戦闘に突入したようだった。

通路を数歩進んだ先、奥詰まった場所に集中する敵影を眺めて、晃はアサルトベストの中から素粒子爆弾を取り出した。

振りかぶって、エイと投げつける。

目の眩むような閃光が部屋全体に弾けて、少し遅れて響き渡る轟音と共に、全ての化人は消滅していた。

「そうか、原理は稲妻とあんまり変わらないんだもんな」

晃は一人で納得している。

「これってちょっと怖いよな、こんなもん降ってきたら、命が幾らあっても足りないぜ」

「かもな」

感慨無く答えて、甲太郎は先に進もうと促す。

壁面の亀裂を粉砕して、その奥、蛇の杖を操作すると、現れた通路の先へ進んだ。

すでに慣れた作業だ。

目の前の扉を開くと、途端何かのスイッチが入ったようだった。

「お、ここってちょっと面白いかも!」

フロア内には壁を挟んで左右に坂が、互い違いに延びている。

そのずっと先、首を伸ばすと今いる扉の脇と同じように、蛇の杖が、向こうの扉の脇にも見えた。

一同はまずジャンプで隣の坂の麓へ降りて、一気に通路を駆け上って杖を操作する。

その先はまた上り坂で、入ってきた扉のある場所まで再び一気に駆けていった。

今度はこちらの杖も操作すると、物音がしてフロアの雰囲気が変わる。どうやらワナを解除できたようだった。

「何か、さっきからやけにラクチンだよな」

僅かに息を弾ませながら、振り返って微笑む晃に甲太郎はアロマの煙をふわっと吐き出して、笑う。

「お前、つまんねえんだろ」

「あれ、バレちゃったかな?」

「ったく、仕方ねえなあ」

二人の様子を見比べて、帝等も口元に薄い笑みを浮かべていた。

―――玖隆よ」

「ん?」

「そう案ずる事もない、じきに件の場所へ出るぞ」

「そりゃ、どこだ」

「闘技場だ」

晃の目の奥がキラリと光る。

横目で伺って、甲太郎は溜息を吐いていた。

まったく、本当に仕方ない野郎だ。

危険や、危地は、こいつの好奇心を掻き立てる程度のものでしかないらしい。

長生きできねえぞ。

内心呟いて、そんなつもりは毛ほども無いのだろうと、改めて思い直した。

いつだって只で済むと思っているんだ、こいつは。

それほどの強気、一体どこから湧き出してくるのだろう。

「そうか」

感慨深げに呟いて、晃は両腕をぐるんと大きく一回転させた。

「じゃー先行きますか!甲太郎、阿門、またまたサポートよろしくなっ」

「今更言われるまでもねえぜ、なあ、阿門」

帝等はフッと笑っただけだった。

力強く踏み出していく晃の後姿に、やれやれと呟いて、それでも甲太郎もどこか楽しげにその後に続く。

帝等が更にその後に続き、三人は扉の向こう側へ踏み込んだ。

 

「ここは、確か休憩通路という名であったか」

―――嘘をつけ、嘘をッ」

途端戦闘に突入して、鞭を構えた晃が苦々しく笑う。

細い通路に敵影は5体。

先に進むためには各個撃破していくしかない。

近づいてきたヒルコ2体を鞭で迎撃して1ターン終了。

残りのサニワ3体を、間合いを取って2ターンで全滅させて、戦闘終了後、晃は急にきょろきょろと辺りを見回した。

「どうした、晃」

甲太郎に、ん、と短く答えながら、今度は壁に張り付いて、耳を押し付けつつじわじわとカニ歩きを始める。

何事かと見守る二人に構わずに、時折イヤホンの感度を調節しながら、硬い表面をコンコンと叩いて何か探しているようだった。

「オイ、晃?」

「ちょっと待ってくれ、さっき何か、荒魂剣を振るったときに妙な反響音が―――

あ、アッタと小さく呟いて、壁から離れた晃は、小型削岩機を装備しなおすとそのまま何もない壁を突然殴りつけた。

仰天する甲太郎の目の前で、壁面がガラガラと崩れ落ちる。

中に現れたのは、異様としか言い様の無い、けばけばしい原色使いの部屋だった。

「な、なんだこりゃ!気持ち悪いよなぁ、ここ」

さすがに晃もショックだったらしい。

と、言うより、こんな光景現実に目の当たりにすることなどまず持ってないだろう。

薄暗いのに、影が無い。光と色だけで構成された室内は、まるで悪夢の中の世界のようだ。

「8ビット機の画面だ」

「何だ、そりゃ」

「いや―――そんなことより、これは、アレかな、あの印の上にこの箱を置けってことかな?」

なにやら一人で納得して作業を開始するので、甲太郎と帝等はやむを得ず室内の出入り口に近い場所で待っているしかなかった。

晃は迷いもなく、的確に、実にスムーズな動作で箱を移動させていく。

まず奥を詰めて、最後に二つの入り口を塞ぐと、ボンと音がして宝箱が左右の壁際に合計6個も出現した。

「うぉ!」

「ヤッタ、ビンゴ!」

箱に飛びつく晃の様子にやれやれとアロマを燻らせる甲太郎の隣で、帝等も浮かれた背中に視線を注いでいた。

なかなかどうして、やはり侮れない。

ここまでこの遺跡を―――ここに眠っていた「神」を、開放しただけの事はある。

戦闘中にわずかな異音を聞き分けて、この部屋を探し出し、鮮やかに謎解きをこなしてしまうその腕前。

これが、トレジャーハンターというものなのだろうか。

多分、晃自身、持って生まれた才能自体も大したものなのだろう。

全てのハンターがこの男と同等の実力を持っているとは、とても思えない。

けれど、それを開花させ、自分のために最大限に活用させる情熱は、晃にとってこの仕事が天職である証明に他ならない。

いつのまにか敵だった人物を買っている自身に気付いて、帝等はフッと口の端を緩ませていた。

お前がもたらした変化は、どうやらこの学園の全てに及んでいたらしい。

それは俺とて例外ではなく。だからこそ、今ここにいるのだなと、改めて感慨深く感じる。

宝箱から取り出した獲物のことで、ハンターはバディと揉めているようだった。

「うわあ、納豆カレーなんて邪道だ!」

「カレーは食えよ」

「納豆がついてないところだけならいいよ」

「ッていうかこれはもうルウに混ざってるじゃないか」

「じゃあ甲太郎にやるよ、カレーマニアは全てのカレーに寛容なんだろ」

「なんだそりゃ、お前が食わなきゃ意味ねえだろ」

「いーやーだー、俺は俺の好きなように生きる、だから嫌いなものは食べない!」

「生き死にに関わってくるなら食うんだろうが」

「当たり前だ!そんなところで意地張ってどうする」

わっかんねえなあと髪を掻き毟る甲太郎にアハハと笑いかけて、晃はくるりと振り返った。

「次、行くか、阿門」

「うむ」

帝等はフッと笑う。

「甲太郎は、カレー食べてから付いて来いよ」

「だから、それはお前が食わなきゃ意味無いだろうって言ってんだよ、好き嫌いをするな」

「うるさい、甲太郎はいつから俺の母さんになったんだ」

「なってねえ、っていうかそんなつもりもねえよ、クソ、面倒だ、勝手にしろッ」

隠し部屋を出て、通路の先に進んでいくと、そこに見慣れた大きな扉が待ち構えていた。

無駄口を叩いていた二人がぴたりと足を止めて、蛇の彫りこまれた表面を見上げる。

「闘技場だ」

帝等の声に、晃の肩が微かに揺れる。

これまで遺跡の中で何度も見かけた、その扉の奥には、各区画最大の霊気の溜まり場が待ち受けている。

敵も、今までとは比べ物にならないほど強大な存在が潜んでいるのが常だ。

ましてやここは、遺跡の最終区画。

これまでとは明らかに違う、異様な雰囲気がすでにピリピリと伝わってくる。

「阿門」

晃の手は荒魂剣の柄を握り締めていた。

「闘技場のこと、知ってることとか何かあるか?」

「俺が伝え聞いた話は二つだけだ」

「何?」

「ひとつは先に話した、部屋ごとの時間制限はここまでだということ」

「もう一つは」

―――闘技場には、墓地に潜む真の闇が眠っている」

「真の闇?」

ラベンダーがほのかに香った。

気遣うような甲太郎の視線の先で、晃の体がぶるっと震える。

武者震いだろうか。

「行こうぜ」

ベストのポケットに片手を突っ込んで、ニヤリと。

振り返ったその顔には、不敵な笑みが浮かんでいた。

「真だか何だか知らないが、そこに壁があるなら、ぶっ壊して先に進むだけだ」

直後に甲太郎と帝等は顔を見合わせて、やれやれと苦笑いを洩らす。

本当に仕方ない男だ。

傍にいるだけで、こちらまで妙な気分にあてられてしまう。

特に強気なわけではなく、これが晃の常だから、おかしくなっているのは俺達のほうなのだろうと、改めて気付かされる。

「そうだな」

甲太郎の掌がポンポンと晃の頭を叩いた。

こいつなら、多分どれほど強大な敵が相手でも大丈夫だろう。

根拠のない過信ではなく、これまでの道程に裏づけされた確固たる事実からそう思う。

きっとまたいつものように、何とかしてしまうのだろう。そう思えるのはどこか嬉しくて、頼もしい。

「じゃ、とっとと行くか?」

ならば、俺達は―――俺は、せめてその背中を守ってやろう。

何も言わないけれど、それは多分今の帝等も同じ気持ちのはずだ。

覚悟はいいかと晃は扉に向き直る。

蛇の金具に両手をかけて、力強く引き開けた。

闘技場の奥に潜む闇が、その先に広がっていた―――

 

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