R-style 39

 

 目の前で悶える姿を見つめながら、時折ふと思う。

こいつ、男にこうされるのが好きなんだろうか?

 

「なあ、晃?」

腕の中でううんと声がして、狭いベッドの中、くっつきあって眠っていた晃が薄目を開ける。

「何だ?」

日焼けして、ガタイもいい、おまけに自分より一センチも背が高くて、どこからどう見ても男にしか見えない、そして結構男前の部類に入る彼は、同じ男である甲太郎の胸元で、まるで女みたいに抱かれて眠る。

いや、正確には甲太郎が抱き枕代わりにしているのだ。

散々繋がって、楽しんで、気持ちよくなって、最後はこうして安眠の供にする。

なんて幸せなひと時。

この瞬間だけ、しがらみ全部忘れられる。

触れ合う体温をただひたすらに愛しいと思う。

髪の感触や、熱い吐息、低い喘ぎ声、同じように感じて、同じような生理現象を催して、その全部が心地よいと思ってしまう俺達は多分どこかおかしい。

恋は盲目なんていうが、全くその通りだ。

実際甲太郎は男色では無いし、晃も多分違うだろう。

俺は晃以外の男なんて抱きたいと思わないし、抱かれたいだなんて万が一にもありえない。

そんなものは断固お断りだ。

けど、ならなんで晃は俺に女みたいに扱われても、文句一つ言わずされるままになっているんだろう。

こいつだって、男なら抱かれたいとは思わないはずだ。

それにきっと本気で抵抗されたら、多分俺は何もできない。

いざという時の攻撃力は驚くほど高いし、何せ目的のためには手段を選ばないタイプだから、下手を打てばとんでもない逆襲にあうだろう。これまでのバディ同行で、甲太郎はつくづく実感させられていた。

けどじゃあなんで本当に、おとなしく抱かれているんだ?

腹の下で喘ぐ姿を見るたび、それが不思議で仕方ない。

いつもは愛しさと快楽に溺れてつまらない考えなんてすぐ吹っ飛んでしまうのだけど、今日は晃も疲労と眠気で朦朧としているみたいだし、いい機会だ。

漆黒の短い髪をゆっくり撫でながら、甲太郎は額に唇を寄せて囁いた。

「お前、さあ」

「ンン、眠い、後じゃダメか」

「ダメだ」

「うー、ケチ」

「いいから」

キスを落とすと、呻いて寄り添ってくる。

変な話―――こういう仕草をたまらなく―――可愛い、と、思ってしまうのだが。

同年齢の男が可愛く見えるなんて、やっぱりまともじゃない。俺は恋で目が眩んでいる。

「何だよ」

「なあ、お前さ、男に抱かれるの、好きなのか?」

半目だった瞳が急にぱちりと開いて、直後に容赦のない平手打ちが掛け布団の下から甲太郎の頭に炸裂した。

「った!」

「何言ってんだ、殺すぞてめェ」

眠気が勝っている晃はとことん凶悪だ。

俺のほうがまだ平和的だぞと、甲太郎はムッとしながら殴られた部分をさする。

「おい、コラ、まだ寝るな」

「んだよ、お前ェ、ライフル突っ込んで5.56ミリ弾ぶっぱなすぞ」

「どこに突っ込むんだよ」

鎖骨にがぶりと噛み付かれて、ぐあっと叫んだ甲太郎を見上げて、晃がクスクスと笑い声を洩らした。

「男に抱かれるのなんざ、好きじゃねーや」

ムニャムニャ。

胸で前髪がこすれる。

やれやれと溜息を漏らして、再び寝入ろうとしている晃の髪をもう一度撫でた。

「じゃあ、何で俺に抱かれてんだよ」

「ンン、お前がやりたいって言うからだろ」

「俺が言ったらお前、何でもやらせんのか」

「バカ、限度ってもんがあるぜ」

もう眠いから、勘弁してと、すがりついてくる身体をよしよしとあやして、甲太郎は所構わずキスの雨を降らせた。

「ヤるの、好きなのか?」

「うー、お前とだったら、スキ」

やはり可愛い。

素直な下肢が反応しかけている。

―――甲ちゃんはな」

「甲ちゃん?」

「オウ」

もう殆ど酔っ払いの域だ。

たぶん、このまま眠ったら、目覚めた時晃は確実に話の内容を覚えていないだろう。

「抱きたいって、言ったから」

「は?」

「抱かれたいって、言われたら、そうしたけど」

抱きたいだったから、抱かれたんだ。

もっさりした口調で晃は呟く。

そして大きな欠伸を洩らして、甲太郎に擦り寄って、そのままスウスウと寝息を立て始めてしまった。

甲太郎はなんともいえない気分で、晃の背中を撫で続けていた。

俺が抱きたいと言ったから抱かれた。

(なら、俺がしてくれって言ったら、こいつは俺の上に乗ってきたのか?)

見下ろすと、自分よりよほどしっかりした骨格と筋肉の持ち主は、子猫のように丸くなっている。

―――可愛いだなんて、とんでもない錯覚かもしれない。

ここにいるのは、俺と同年齢のただの男。

俺好みに染まるといえば聞こえはいいが、結局晃にとってはどちらでもそう変わりないのだろう。

謎が解けても、なんともスッキリしない気分で、甲太郎はもう夢の世界に出かけてしまった抱き枕をギュッと抱き寄せて囁いたのだった。

 

「俺は、女役は絶対イヤだからな」

 

口元がフニャリと微笑んだのは、聞こえたからなのか、眠りに落ちているせいなのか。

どこまで理解しているのやらと溜息を漏らしながら、甲太郎も瞼を閉じた。

 

―――それからしばらくの間、晃に嫌がられるほど念入りに、甲太郎が自分自身の「男らしさ」を激しく誇示する夜が続いたとか、何とか。

 

(了)