「R-style 51」
一体何なんだと尋ねるのも煩わしい。
ウンザリした顔で晃のベッドに寝転がり、うつ伏せの状態から両腕で上体を少し起こして、傍でホクホクと荷物を詰め込む様子を眺めている。
(弾丸、薬品、手榴弾、ベストまで着込みやがって、コイツ―――馬鹿だ)
事の発端は数時間前。
朝から秋だなぁと暢気な言葉を繰り返していた相棒が、昼頃どこかへ姿を消して、授業の開始と共に戻り、放課後、怪訝に思っていた甲太郎に声をかけてきた。
「ちょっといいか?」
晃からの呼び出しは大概厄介ごとの類だ。
もっと色気のある呼び出しをしてくれてもいいのにと常々思っている。
(夜中に埃臭い遺跡の中を散々引きずり回したりしやがるからな、日が落ちてお前と二人きり、したい事なんて一つに決まってんだろうって話だ、畜生)
今日は一体何だと思いつつ、屋上まで付き合った甲太郎は、晃から開口一番「甲太郎、芋掘りだ!」と告げられて、淡い期待を抱いていた自身を激しく嫌悪した。
苦い思いと共にどこでそんなことするんだと至極尤もな疑問を投げつけると、芋畑は廃屋街にあるらしい。
「一般生徒立ち入り禁止の場所だけに、そこを利用して、生徒会で密かに畑を作っていたんだと」
「マジか」
そんな話訊いたことないぞ。
晃にすら明かしていない身分―――生徒会副会長は、衝撃の真実に驚くやら呆れるやら。
以前から腹の読めない男とは思っていたが、流石にこの展開は無いだろう。
バカらしくて突っ込む気にもなれない。
阿門は何を考えているんだと内心呆れ返る甲太郎を尻目に、晃は聞いてもいない芋掘りに至った経緯を語りだした。
昨日、学園敷地内を探索中、籠を背負ってコソコソと廃屋街に向かう夷澤を見つけたことが、そもそもの切欠だったそうだ。
捕まえて問い詰めてもなかなか吐こうとしないので、からかい半分で締め上げていたら、浦島太郎の如くはせ参じた阿門が畑の所在を明らかにした上で、興味があるなら掘っても良いと許可まで出したらしい。
(そういや、案外気に入られてるんだよな、コイツ)
点数稼ぎのリップサービスは気に食わないが、ひとまず事情は理解できた。
ついでに最近出される菓子が芋ばかりだった理由にも合点いく。
(阿門が指示して、双樹が監督して、実働部隊は夷澤ってとこか、ならアイディアは神鳳辺りだろうな)
天香学園内部における最高機関、生徒会。
校内ほぼ全ての人間から怖れられる幹部の面々は、時折妙な方向に力を発揮することがある。
他の事ならいざ知らず、こういった行事には決して関わらない事を、副会長は今まで硬く貫き通してきた。
(そんなバカやっていられるか)
今では役員の肩書きすら煩わしく感じているのに。
常々距離を置いてきた生徒会の稀な遊び心に、しかし今回はあろうことか気の置けない相棒が嬉々として関わろうとしているなど、言語道断だ。
転校初日より散々遺跡に関わるなと忠告を続けて、今度はこんなことまで俺が忠告しなきゃならないのかと、いよいよ頭が痛い。
そんな人の気も知らず、晃は「一緒に掘ろう、甲太郎!」と鬱陶しい笑顔で誘ってくるものだから。
「嫌だ」
「どうして」
「俺はそんな面倒なことはしない、土いじりなんて冗談じゃない、第一、別に芋なんて」
「芋カレーを作ってやろう、飯にも芋を炊き込んで、秋の味覚満載のカレーだ」
「チッ!」
―――成り行きで手伝う羽目になった。
(しかし)
最後にシャベルを突っ込み、よしと呟いた晃の向こうで、窓の外は夕映えの名残が群青に塗りつぶされようとしていた。
何もこんな時間に掘りに行くことはないじゃないかと、甲太郎は呆れ気味にオイと声をかける。
「馬鹿」
「何だ突然!」
「じゃなかったら阿呆だ、お前、何でこんな遅くなってから芋掘りに行こうってんだ」
「明るいうちに出かけたら、誰かに見つかるかもだろう?」
「阿門に許可貰ってんだろうが」
「俺、夜型だから」
「暗い中で芋掘ったって見えねえじゃねえか、馬鹿かお前」
「そのためのライトとカンテラさ、照明機材はバッチリだ」
「可哀想な奴だな、お前、俺はつくづく呆れた、寧ろ軽く失望した、お前のスキルはそんな場面で使うモンじゃないだろう」
「フフン、お前こそ馬鹿だな甲太郎、いつ如何なる時でも最善を尽くす、それが俺のハンター魂」
「ならこれからは芋だけハントしてろ、この芋ハンターめ」
ため息混じりにごろりと反転して背中を向ける。
立ち上がる気配がして、行くぞ甲太郎とお呼びがかかった。
「やっぱり無理だ、面倒臭い」
「コラ、待てよ、お前の協力を当て込んで計画立てたんだぞ、今更代わりなんて頼んだら、そいつに迷惑がかかるだろう」
「俺の迷惑はいいってのか」
「そんなこと言ってないだろ?―――しょうがないなぁ、うーん、よし、そうだ」
何だ、と思った矢先、ベッドの端が沈みこんで、気配がそうっと忍び寄ってくる。
甲太郎、の呼び声と共に首筋に息がかかり、思わず見上げたらすぐ傍で覗き込む晃の顔が見えた。
「手伝ってくれたら、カレー以外にも報酬を出す」
「何だ」
「秘密、けど、きっと気に入るぞ」
「例えば?」
「オイ、がっつくなぁ」
苦笑いを見詰めて、甲太郎は不意に晃の首に両腕を回すと、強引に引き寄せて無理矢理唇を重ね合わせた。
薄い感触にウットリ目を閉じていたら力尽くで引き剥がされた、晃の頬が僅かに赤い。
咎める眼差しにフフンと笑い返して、甲太郎はゆっくり起き上がった。
「コラ」
「ん?」
「俺は、先払いはしない主義だ、不意打ちなんて卑怯だぞ」
「知るか、お前みたいな胡散臭い奴、素直に信じろって方が無理なんだよ、確かに頂いたぜ、仕方ないから手を貸してやろう」
「畜生、覚えてろ」
「忘れるもんか、済んだら残りもきっちり貰うぞ、気に食わなかったら、追加料金も徴収してやるからな」
「守銭奴め」
「お前にゃ負ける、さっさと行くぞ」
ベッドから降りた甲太郎は、そのままブラブラと玄関に向かう。
間を置いて付いてきた晃が、隣に立ってふと「甲太郎」と思い出した様子で声をかけてきた。
「何だよ」
「一つだけ、報酬はお前の働きに応じて決めさせてもらうぞ」
「なんだそりゃ、働きなんてイモ掘るだけだろ、ま、一応まともに付き合ってやるよ」
「そうか、なら、まともに付き合えなかったら、前払いも払い戻しを要求するからな」
「お前からのキスでもくれるってのか?」
「ふざけろ、もっと別の形で返して貰う」
「そりゃ何だ」
晃は意味深な視線を寄越しただけで、質問には答えなかった。
夕食まで微妙に間の空いた今頃は廊下に生徒の姿も無く、誰にも見られずに寮の外へ出ると、秋の月が夜空で煌々と光を放っていた。
「さて、芋をハントしにいきますか」
「大げさだな」
笑ってアロマを燻らす傍ら、ただの芋掘りだというのに、何故晃はこんなにも浮き足立っているのか。
僅かな胸の引っ掛かりを、けれど間の悪い副会長は気のせいだと一笑に付した。
―――生徒会直轄の芋畑は、周囲に盗難避けの罠が幾重にも張り巡らされ、更には地下深く潜った先、遺跡の一部に通じる通路を抜けた、古代の恩恵にあやかる畑だという事を、甲太郎はまだ知らない。
晃が昼休みに呼び出されたのは、阿門の戯れに気付いた双樹から、地図と諸注意を授けるためだった。
芋泥棒には死の鉄槌を。
常に全力で事に当たる生徒会の底意地の悪さを、これまでボイコットし続けてきた副会長はその身を持って思い知らされる羽目になる。
芋掘りはまだ始まったばかり。
(了)
報酬がらみのアレコレは全てご想像にお任せします。
生徒会産の芋は普通においしい芋ですが、それとは別にイモ型の化人が出る天香遺跡クオリティ