アサルトベストに弾薬を詰め込み、銃器の最終チェックをおこなう。
コンバットナイフをホルダーに収めて、部屋のPCから追加の爆薬をいくつか注文しておいた。
まだ、殆ど荷物の開かれていない部屋の、出入り口から見えない辺りにいくつか置かれたトランクの中には装備品が詰め込まれていた。
銃刀法が施行されている日本の、しかも首都東京の一学園の寮の一部屋に、これだけの火器や刀剣が隠されているだなんて誰も思わないだろう。
中東や南米ならいざ知らず、我ながら怖いもの知らずだなと苦笑いを洩らす。
時刻はすでに深夜に差し掛かる頃、今なら、気付くものなど誰もいないはずだ。
女の子をこんな夜中に呼び出すなんて少し気が引けるけれど、約束した手前、八千穂には連絡をつけておいた。
皆守は、と考えて、端末に触れる指先が惑う。
昼間、彼にも呼んで欲しいといわれたけれど、皆守自身に巻き込むなとキッパリ拒絶されてしまった。
探索に同行するつもりがあるというのに、どうして取手には関わりあいたくないのだろう。
保健室では取り立てて仲が悪いようには見えなかったのに。
複雑な彼の精神構造が、やはりよく分からない。
(それとも何か、理由があるのかな)
他人の思いに触れたくないという、彼にも傷のようなものがあるのだろうか。
物憂げな様子には理由があるのか。
それは、一体―――
「っと」
H・A・N・Tから着信音が鳴り響いた。
中を覗くとメールが届いていた。
「皆守?」
帰り際に教えたアドレスに早速送ってきたらしい。
開くと、昼間の態度についての謝罪と、墓地へ同行させて欲しい旨が書き込まれていた。
何度か繰り返し読んで、玖隆の口元に笑みが浮かぶ。
「まったく、何なんだかなあ、あいつは」
ぶっきらぼうな文面には彼らしさがよく滲んでいた。
本当に、何を考えているのかさっぱり分からない。
ただ、彼は自分なりに折り合いをつけたのだろう。それとも折れてもいいほど遺跡探索に同行したいのか。
(そういうタイプではないよな、多分、あいつは)
八千穂と違って皆守は自ら積極的に物事に関わることを避けているように思う。
それでも、わざわざこんなものまで寄こしてきているので、詳しい事情はともかく玖隆は返信メールを送ることにした。
八千穂に告げた約束の時間までには後二十分くらいある、皆守も、支度を終えられるだろう。
「迎えに行ってやるか」
送信ボタンを押して、端末を閉じながら、フウと吐息を洩らしていた。
ノックから間を置くことなく、扉はすぐに開かれた。
「―――よお」
どこか気まずそうな皆守の様子に、玖隆は気付かれないようにクスリと笑う。
「早速呼び立てて悪いな」
「いや、俺が言いだしたことだ」
「急だけど、これから行くぞ」
「ああ、分かってる」
八千穂は、と聞かれて、もう連絡してあると答えた。
皆守は微かに苦笑を洩らす。
「ったく、仕方のない女だ、お前、せいぜい面倒見てやれよ?」
「言われなくてもそのつもりだ」
踵を返す玖隆の後ろから、制服姿の皆守がついてくる。
「―――なあ、玖隆」
寮の裏口から人目につかないように抜け出して、墓地へ向かう途中、暗闇の中でぽつりと声が響いた。
「お前さ、あの穴の底には―――何があると思っているんだ?」
「さて、それをこれから調べに行くんだ」
そうだと玖隆は振り返る。
「後で八千穂さんにも言うつもりだったけれど、皆守にも、頼んでおかなきゃならない事がある」
「何だよ」
本来ハンターに同行するバディは、それなりに経験を積んだ者か、でなければ協会が派遣した案内役だ。
よほどの緊急事態でもない限り、出会ったばかりの民間人を連れて遺跡探索することなど出来ない。
彼らには何のスキルも無く、また身を守る術もない素人なのだから。
自身の仕事のため、というより、互いの生命に関わることとして、いくつか注意を促す必要があった。
「あのな、まだ、実際踏み込んだわけじゃないから、何があるかなんて断言できないんだけどな」
「ああ」
「まず、第一に自分の身の安全を考えて欲しい、他の事はいいから、危なそうなら迷わず逃げろ、誰の事も構わなくていい」
皆守は黙って聞いている。
「退路は極力切り開くつもりだけれど、もし俺に何かあったら、俺の持ち物を奪ってでも構わない、全力で逃げ出せ、後の事は考えるな、いいな?」
「お前にしちゃ、随分薄情な物言いだな」
昼間の事を暗に揶揄しているのだろうか。
玖隆は苦笑する。
「本当は連れて行きたくないんだって、わかってもらえないかな」
できれば、誰も危険になど晒したくない。
自分の事だけでもまだ手一杯なのに、他所まで気が回せるのだろうか。それが一番不安だ。
「―――まあ、そうだろうな」
ラベンダーがほのかに香った。
「分かった、言われなくてもそのつもりだ、俺達の事は気にするな」
「よろしく頼む、余裕があったら、八千穂さんの事も守ってあげて欲しい」
「言ってる事が違うぜ」
「女の子に優しくするのは男の義務だよ、俺達は、そのために彼女達より力や体力があるんだから」
義務ねえとぼやいて、皆守は横顔で笑う。
「大したフェミニストだ、八千穂も喜ぶだろうよ」
「俺はヒューマニストなんだよ、そこら辺間違えてもらっちゃ困る」
「はいはい」
墓地が見えてきた。
所在無げに佇んでいた影が、二人を見つけて大きく手を振っていた。
「やれやれ、こんな夜中に元気なこった」
「皆守」
「ん?」
玖隆は、もう一度振り返って、皆守の顔をじっと見つめた。
眼差しの奥、月の影が揺れている。
「同行してもらう以上、お前も八千穂さんも相棒だ」
わずかに視線を逸らす仕草に、にっと笑って付け足した。
「よろしく頼む」
「―――ああ」
駆け寄ってくる八千穂を見ながら、玖隆はゴーグルを被った。
探索体制は整った。少し肌寒い風が、衣服の合間から覗いている肌を撫でていく。
降り注ぐ月光に照らされて、朧に浮かび上がる墓地のその奥に潜む暗闇が、彼らをじっと待ち構えているようだった。