Love Life 1

 

 ドンドンと激しいノックの音に、多少イラつきながらドアノブをひく。

「こおたろおおお!」

殆ど同時に、うわあんと泣きながら晃が飛び込んできた。

「なっ、なんだ、何事だ?!」

正面から受け止めて、なにやら錯乱しているらしい彼を抱きかかえながら甲太郎は立ち尽くしてしまった。

そろそろ寝るつもりでいたから正直迷惑なのだけれど、抱きつかれたこと自体に関しては悪い気がしないから、結局難しい顔でなんだどうしたと理由をただした。

「と、とりあえず、部屋に入れてくれ、頼むっ」

晃はかつてないほどの必死の形相で懇願してくる。

「まあ、落ち着け、わかったから」

答えながら、内心首を傾げていた。

晃は、こんなに背が低かっただろうか?

それになんだか抱き心地も―――こんな風に抱きしめた事はなかったけれど、なんだか違うような気がする。

結局押し切られるような形で部屋に入り込まれてしまった。

後ろ手にドアをパタンと閉じて、施錠してから晃はおもむろにすがっていた両腕を外す。

「こっ、甲太郎」

「一体なんだってんだ、お前、今何時だか分かってんのか?俺はそろそろ寝る時間」

「これっ」

着ていたスウェットの裾を持って、いきなり上半身を露出させる。

突然の行為に驚いたが、それ以上に驚異の物体が晃の体に出現していた。

「あ、晃、お前―――」

甲太郎は硬直する。

一瞬、なにがなんだか、訳がわからなくなる。

「お前、お前、それは、一体」

「甲太郎、俺」

急に涙目になって、再びうわあんと泣きつかれた。

晃は。

 

「どっ、どーしよ、甲太郎、俺、女になっちまった!」

 

 

「まあ、落ち着け」

とりあえずベッドに腰掛けさせて、自室のポットからお湯を注いで作ったインスタントの紅茶を渡す。

晃は苦いものが苦手で、コーヒーなどは飲めなかったから最近用意するようになったものだった。

甲太郎はもちろんコーヒーをブラックで飲む。

「悪い」

ションボリと俯きながら、カップの湯気を吹く様子を、机の椅子に腰掛けて伺っていた。

具体的に聞き出した事の経緯はこうだ。

晃は、最近遺跡で手に入れた食料品などを使って、自室で一人調合大会を開いていたらしい。

初めのうちこそ普通の料理や薬品などを作成していたらしいが、そのうち段々これとあれを混ぜてみたらどうか、これとこれはどうなるかと試行錯誤が始まって、その末に一つの薬品めいた何かを作り上げたらしいのだった。

そして、こともあろうにそれを、思わず飲んでみてしまったらしい。

(こいつ絶対子供の頃、味の素とかシリカゲルとか舐めて酷い目にあったタイプだ)

話を聞いた直後、甲太郎は確信していた。

その事実に関しての確認は取れなかったのだが、ともかく薬品を試飲後、猛烈な眠気に襲われて、数時間気を失い、目覚めたら性別が入れ替わっていたらしい。

「胸が腫れただけなんじゃねえのか」

甲太郎の疑問に、晃はちゃんと下も確認したと強い口調で反論した。

「鏡で見た、どうみても俺は男じゃなくなってる」

言いながら頬を染めるので、つい可愛らしいななどと感じてしまった。

(いかんいかん、俺はなにを考えてるんだ)

慌てて自分を制してみても、やっぱり視線は胸元や、晃の表情に向いてしまう。

もとより彼に友情以上のおかしな感情を抱きつつあった自分だ。

男の姿でも触れたい、抱きしめたいと幾度となく強烈な欲求にさいなまれてきたというのに、今更女になりました、ではいつ箍が外れたっておかしくないじゃないか。

(それに)

ちらりとまた様子を伺う。

女になった晃は、かなり好みのタイプだ。

白い肌も、気の強そうな目元も、黒く短い髪も、ひどく気持ちをそそられる。

おまけに巨乳、ほぼパーフェクト。

(いっ、いかんいかん!)

元気になりそうな愚息をしかりつけて、甲太郎は必死で平常心を装う努力をした。

でも、何でこんなことで俺が苦しまなきゃならないんだ、バカらしい。

(嗚呼―――)

額を掌で押さえて、俯きながら嘆息すると、晃は勘違いしたようだった。

「ごめん、甲太郎、迷惑かけて」

「ああ?」

「いきなりこんな相談事持ち込まれても困るよな、お前がどうにかできるわけでもないんだし」

「そりゃ、そうだが」

「俺、すっかり慌てちゃってさ」

コクン、と紅茶を飲む。その仕草すら可愛らしい。

背の縮んだ彼は、甲太郎よりも低い目線になっていた。丸みを帯びた全身の質感がたまらない。

「とっさにお前のことが頭に浮かんで、そしたらもう居ても立ってもいられなくなって」

それで頼りにしたって言うのか。

(晃っ)

甲太郎は心の中でガッツポーズを決めていた。

とりあえず、他の誰でもなく俺のところにきてくれてよかった。

こんなおいしい姿、他の奴らに気取られてたまるものか。

「でも、お前だって迷惑だよな、こんな非常識なこと」

すっかり落ち込んでいる姿が自制心の臨界点を突き破って、もうそろそろ我慢も限界かもしれない。

伏せた睫が震えている。

声も、少し高くなっているようだった。

(間違いない、これは―――)

女だ。

なら、これまで辛抱してきた事も、もう必要ないんじゃないのか?

(男同士なら変態だが、男と女なら話は別だよな)

この際過去は問題でなく、考えるべきは今だ。

そして、現在、非常に常識はずれな状況ではあるが、晃は女になっている。

この気に便乗して暴走すれば、もしかしたら彼を傷つけかねないという懸念も多少あったけれど、それ以上に男としての本能が勝っていた。

第一こんなに我慢していては、精神衛生上非常によろしくない。

「ごめん甲太郎、俺、部屋に戻るよ」

晃は立ち上がりながら弱々しくニコリと微笑んだ。

甲太郎の心の箍が外れた。

「紅茶、有難う、しばらく出て来れないと思うけど、心配しなくて大丈夫だ、学校には行けないけど、遺跡には潜らなきゃならないから、その時は同行を」

「晃」

差し出されたマグカップを受け取って、立ち上がった甲太郎はそれを机の上に置きながら晃の手をとる。

「甲太郎?」

いつも一センチ上にある瞳が、今日は三センチも下にある。

く、と引き寄せると、易々と腕の中に納まってしまった。筋力も落ちているのか。

「こ、甲太郎?なんだ、どうしたんだ」

「晃」

抱きしめると線が細かった。

華奢な体つきと、ほのかに香るいい匂いに、腹の奥底から欲求が突き上げてくる。

「晃」

首筋に顔をうずめて、唇を寄せると表面は滑らかだった。

「ちょ、ちょっと、甲太郎、何考えてるんだ、オイ、やめろよっ」

構わずキスを繰り返して、突き放そうとする晃の動作にあわせて少しだけ体を離す。

睨みつけてくる頬が赤かった。

「甲太郎、落ち着け、あ、あのな、俺は今女になってるけど、元は男なんだ、だから、お前がしようとしている事は」

「それくらい分かってる」

目を見開いて唖然とするので、甲太郎はつい笑ってしまった。

そんな事は百も承知だ。大体、今まで堪えていたのだって、下手をうって晃に変な目で見られることが嫌だったからに他ならない。

けれど今の晃は女だ。以前がどうであれ、事実は変わらない。

なら、男と女が抱き合うのは、取り立てておかしな行為でもないじゃないか。

顔を近づけると、ますます驚いたように開かれた瞳が途中でギュッと閉じられた。

愛しくて、唇に笑みが浮かぶ。

そのまま表面を重ね合わせて、深く、キスをした。

震える体を抱き寄せると、まだ強ばってはいるもののすんなりと胸の中に納まった。

(いける)

キスの最中、確信する。

これは、ヤれる。雄の本能がそう告げている。

「晃」

離れて耳元で囁くと、トレーナーの胸元をきゅっと握り締められた。

「こ、甲太郎」

甲太郎の掌が、スウェットの内側にするりと滑り込んだ。

 

長いので続きへ