Border Line

 

 数回ノックを繰り返して、返事がないのでドアノブに手を伸ばしていた。

「おい、晃」

掴んでひねると、あっけなく開いてしまう。

「おいおい」

思わず甲太郎は呟いていた。

無用心にも程がある。

まあ、ここは天香高校の男子寮で、訪れるにしても生徒か教員か管理人くらいしかないのだが、こんな時間帯に鍵もかけずにいるとは。

晃には、だれかれ構わず知られては困る秘密がある。

もしこれが俺でなく、他の誰かだったら、たとえば一般の生徒だったら、勝手に部屋に入られて、家捜しされたら、非常に困るのでは無いだろうか。

そんな事を考えながらドアを開くと、中は白色蛍光灯の光で満たされていた。

視線をめぐらせると、床に座り込んだ後姿がくったりと隣のベッドにもたれかかっている。

胡坐をかいた足の前には薄汚れた木綿布、その上に、掃除の終わったマグナムと薬莢がいくつか転がっている。

散らばった器具の間にとぎ石のようなものが見えて、その脇にはコンバットナイフが無造作に放り出されてあった。

ベッド脇端のほうには彼がいつも遺跡で身につけているアサルトベストとゴーグル、ナビゲーションツール、一通り見回してみて、甲太郎は大きく溜息を漏らす。

「こりゃ、無用心なんてレベルの話じゃねえな」

部屋に入っても相変わらず晃が気にする様子もないので、隣にしゃがんで覗き込んでみるとどうやら眠っているようだった。

両の瞼は閉じられて、唇からは規則正しい寝息がすうすうと漏れている。

よほど疲れているのか、いまだ起きる気配は皆無だ。

益々あきれ返りながら寝顔を眺めて、甲太郎はいつのまにか魅入られるように視線を釘付けにしていた。

比較的長い睫毛と、程よく日焼けした肌。

十人並み以上には整った面立ちの、安らかな寝顔は普段の彼とは違い、急に幼い雰囲気だった。

部屋着のスウェットは少し大きめのようで、開いた襟元から鎖骨がわずかに覗いている。

すらりとした首筋にかかる髪質は柔らかくて、漆黒に見えるのは量が多いせいだ。一筋ごとはとても細くて、わずかに茶色味かかっている。

遺跡を探索している時は激しい炎のような、日常生活では、陽だまりのような彼が、今はまるで月下に咲く花のように静かな眠りの淵に落ちている。

鼓動が、大きく一つ鳴った。

甲太郎は喉を震わせる。

ふと、思い立ったようにドアへと立ち寄り、鍵を回していた。

照明の消えた部屋の中、カーテン越しの月明かりに照らされて、今ここにいるのは晃と俺の二人きり。

平素仲間に囲まれて楽しげにしている彼も、今は俺だけが独占している。

 

そう、思った途端。

考える間もなく両腕が伸びていた。

 

体を、ベッドを背中にするようにしてこちらへ向けさせて、そのまま呼吸が触れ合うほどに顔を近づけた。

こうして至近距離から見詰めていると、改めて腹の奥が熱くなってくるようだ。

結構好みの顔をしていると、くだらない事を考えてフッと笑みが漏れる。

そのまま唇を合わせた。

長く、吸い付くようなキスに、晃の喉がくぐもった音を洩らす。

離れた途端、瞼がすっと開いた。

「甲太郎?」

まだ少し寝ぼけているらしい。

構わずに、甲太郎は無言でキスをする。

二度、三度と繰り返すうちに、さすがに意識がはっきりしてきたのだろう、四度目のキスは直前で止められた。

「な、何だ?」

晃は驚いたように甲太郎を凝視していた。

「どうしたんだ甲太郎、今、何を」

それには答えず、両肩を掴んで強引に立ち上がらせると、そのままベッドに押し倒した。

短い髪がシーツの上に広がる。

見上げてくる瞳の色はどこまでも深くて、そこに映る自分の姿はゆらゆら揺れるようだった。

「―――その」

晃が戸惑った声を洩らす。

「用件を、聞いてもいいかな?」

返事はキスだった。

深く口づけて、拳が抵抗するように肩を叩くので、甲太郎はようやく顔を上げる。

「ちょ、ちょっとまて、お前、どうしたんだ、いきなりなにを」

「いきなりでこんなこと、すると思うか?」

また口付けされて、逃れるように身をよじるたび、いつのまにかベッドの上に全身が乗っていた。

シーツの上についた両手、両足の間に体を挟んで、甲太郎は拘束するように晃を見下ろしている。

困ったように顔をしかめながら、晃は何か考え込んでいるようだった。

そんな様子を見ても、甲太郎の内に生まれた熱は醒めない。

どくどくと体中を流れる血が中央に集まってくるようだった。

息苦しいほど熱いまなざしを向けてくる、甲太郎を見上げていた眼下の睫毛がフッと伏せられた。

「晃」

思わず呼びかけると、短い吐息が返ってくる。

「いいよ」

「何」

「いいって言ったんだ、何度も言わせるな」

見開かれた瞳が、今度は真っ直ぐに甲太郎を見詰めた。

そのまま少し視線を伏せて、首を斜めに曲げるように俯くと、滑らかなうなじが露になった。

「お前がしたいのは、多分そういうことなんだろう?」

ほのかに肌が染まっているように思う。

晃の仕草は妙に艶かしく、甲太郎の欲を掻き立てる。

唇でこめかみに触れると、全身がビクリと震えた。

行為に慣れての発言では無いらしい。それなら、どうして受け入れた?

勝手な思い込みでしか過ぎないのかもしれないけれど、尚更愛しくて、首筋に顔をうずめていた。

微かな声に、胸の奥が締め付けられるようだ。

肩との付け根辺りに含むようなキスを繰り返しながら、スウェットの内側にするりと手を滑り込ませる。

直に素肌に触れて、体のラインを確かめるように表面をなぞりながら服をたくし上げ、露になった胸元に再び顔をうずめた。

少し触れただけで、桜色の突起は硬く屹立した。

パーマのかかった髪を軽く掴みながら、晃が小さく名前を呼ぶ。

「こ、甲太郎」

答える代わりに舌先で突起を転がして、しゃぶりつくと両手が震えながら頭を押さえた。

その奥から早い鼓動が唇に伝わってきて、聞こえてくる心音が二人の温度をどんどん高めていくようだった。

甲太郎はいくらか性急に、片手で胸元をもてあそびながら、空いているほうの手をズボンの中に潜らせた。

引きつるようなうめき声の後で、震える指が肩を掴む。

「あ、や、やめっ」

構わず、下着で覆われた表面を布越しになぞる。

「ちょっと、ま、待ってくれ、甲太郎、そこは」

感触を確かめるように何度も触れて、するりと滑り込ませた指先で局部を掴むと、晃は微かに悲鳴をあげた。

「や、嫌だ、それは―――」

「構わないって、言っただろう」

首筋に口づけて、ゆるゆると彼を抜き始める。

晃の指先が爪を立てる。

体をわずかに折り曲げて、必死に羞恥や快楽を堪えているようだった。全身が、小刻みに震えている。

「や、嫌だ、嫌だ、やめ―――やめて、くれっ」

「嫌だ」

音を立てて繰り返すキスに、耳障りのいい艶かしい声が重なって、愛撫の指先を更に促す。

捕まえた晃自身はどんどん張り詰めていくようだった。

先端に触れると、先走りの体液が漏れ始めていて、キスをする甲太郎の口元が微笑を浮かべていた。

ぬめりを先頭全体に塗り広げながら、潤滑油の代わりにして擦ると息も切れ切れの嬌声が絶え間なく晃の唇から零れ落ちる。

もっと聞きたくて、動きを早めると、局部がビクビクと収縮を繰り返した。

「も、う―――ダメっ」

より強くしがみつかれて、直後に掌に熱いほとばしりが伝わり落ちてきた。

指先の感触にそっと手を放してやると、顔を上げた先の、涙交じりの晃の視線と目が合う。

甲太郎は柔らかな笑みを浮かべて、そのままキスをした。

シーツの波間に沈み込むように、晃はグッタリと脱力していた。

これで、終わったと思われては困る。

下着とスウェットの下を一緒に脱がせ始めると、瞳を閉じた声だけがわずかに怯えた声で問いかけてきた。

「や、やっぱり、そこまでやるのか?」

「当然だろ」

まぶたの上にキスを落とすと、晃が腰を少し上げて甲太郎の作業を促がす。

つい笑ってしまって、眼下の晃は不満げな表情のまま、まだ瞳を閉じている。

「晃」

瞳の色が見たくて、甲太郎は名前を呼んだ。

「晃」

長い睫毛がゆるゆると持ち上がり、潤んだ眼差しが困ったようにこちらを見詰めた。

綺麗な漆黒の瞳。

その深い色に魅入られて、俺は今までどれほど胸を焦がしただろう。

今ならはっきりと分かる、この感情は、友達なんかじゃ無い。

親友だ、気の合うやつだと思ってきたけれど、そんなものはただ異常な自身をごまかすための詭弁でしかなかった。

俺は―――晃に、惹かれている。

恋と呼ぶには激しすぎる感情に、つける名前など思いつきはしない。

ただ、ひたすらに全てが欲しかった。

欲しくて、欲しくて、欲しくてたまらない、何もかも欲望のままに飲み干してしまいたい。

それがただの依存であるかもしれないとか、逃げ道を求めているだけだとか、そんな事はこの際どうだっていい。

俺は、晃が欲しい。

それが真理で、今ここにある全てだった。細かな理屈なんかよりキスがしたい。

肌に触れて、想いの丈を注ぎ込んでやりたい。

強欲な俺を、何も聞かずに受け入れてくれた優しさに全力で応えたかった。

露になった下半身の、臀部の窄まりに指先で触れると晃ははっと目を見張った。

「こ、甲太郎!」

慌てた声が髪の一房を握り締める。

「今更、その、やめろとか言わないけれどっ」

「―――何だ」

「い、痛いのだけは嫌だ、本当に、できれば、何かすべりが良くなりそうなものを使って欲しい」

予想外の言葉に、甲太郎は一瞬唖然としてしまった。

晃はかなり本気のようで、必死の想いが滲み出している。

その様子がなんだかおかしくて、つい笑いそうになってしまった。

なんだか少し激しさがそがれて、やれやれと指を解きながら、ならどうして欲しいんだと穏やかに尋ねる。

「そこの引き出しに、スポーツジェルが入ってる」

運動後の間接部などを冷却するあれかと、甲太郎はすぐに察した。

「それを使うのか」

「た、多分問題ないはずだと、思う、こんなことに使った事がないからよくはわからないけれど」

「わかった」

唇に軽く口づけて、甲太郎は指示された引き出しからジェルのチューブを探し出し、再びベッドに戻ってきた。

おとなしく横になったまま待っていた晃を軽く眺めて、再び体の上に乗る。

震える吐息が晃の唇からこぼれた。

蓋を開けて、ジェルを掌にとると、それを指先に乗せて改めて窄まりを探り当てた。

内側に先端を差し込むと、ヒッと小さく悲鳴が上がった。

「痛いか?」

「い、や、きつい、だけ」

でも、できるだけ慣らしてくれという、掠れた声に微笑みながら耳元で分かったと答える。

人差し指を出し入れして、括約筋を馴染ませて、少し緩んできたら、もう一本指を足していく。

行為を繰り返していく間に、強ばっていた晃の全身からもだんだんと余計な力が抜けていくようだった。

いつのまにか首にまわした両腕で抱きつきながら、熱い呼吸が首筋に触れている。

晃の甘やかな鳴き声に、甲太郎の雄はすっかり力を持って硬く屹立していた。

先走りの体液を滲ませる、部分に当たる下着の感触がなんとももどかしい。

けれど、あまり性急にしすぎて晃の好意を無碍にしてはいけないと、堪えながら受け入れ準備を入念に整えていく。

すでに指は三本、第二関節まで、すっかり出入りするようになっていた。

これならもう大丈夫かと、新たに搾り出したジェルを窄まりによく擦り込みながら指を引き抜いた。

「晃」

耳元で名前を呼んで、腿に触れると晃はすぐに察したようだった。

震えながら顔を上げて、微かに瞳を細くする。

「い、いぞ、入れて」

ゴクンと喉を鳴らして、甲太郎はズボンを下着ごと腿まで下ろした。

覗いた局部はすでに臨戦態勢に突入している。

ちらりとみて、晃が息をのむのがわかった。

甲太郎はキスをしながら両腿を押し上げて、目当ての箇所を露にさせる。

そのまま先端を定めて、ぐっと突き上げると晃がしがみついてきた。

唇を離した途端、苦しそうな声が喉をついて飛び出してくる。

「くっ、あ、ああっ、そ、ンな大きいのは、入らなッ―――」

「大丈夫だ、静かにしてろ」

下準備は十分施した。

それでもまだ大分きつい、晃の内側に膨張した甲太郎の一部がずぶずぶと入り込んでいく。

その間止まらない声の、聞くに堪えかねて甲太郎は唇をふさいでしまう。

晃は鼻を鳴らしながら、必死で痛みを堪えているようだった。

ジェルでぬめった内側は狭いだけで進入を拒むようなものは何もなく、ほどなくしてすっかり飲み込まれた局部の、付け根の部分が臀部に当たる。

クチュッと濡れた音がして、唇を引き離すと、銀糸が間を伝って落ちた。

程よい圧迫感に深々と息を洩らして、腕の中の晃を見詰めると改めて胸の内が息苦しいほど愛しさで膨れ上がる。

ギュッと抱きしめて、腰を揺らすと、晃は濡れた声を上げた。

「あ、や、嫌だ、嫌だ、甲太郎、ぬ、抜いて」

「バカ言うな、今更そんなことできるわけないだろう」

「でも、きついし、痛いっ―――」

「すぐ慣れる、我慢しろ、今良くしてやるから」

グイグイと腰を動かして、突き上げると掠れた悲鳴が唇からこぼれる。

様子を伺うようにしてゆっくりと、甲太郎は律動を始めた。

骨張った両肩が激しい呼吸を繰り返して、苦痛の表情にやがて恍惚の色が差し始める。

「あっ、あ、アウッ、アッ」

晃の鳴き声にあわせて、甲太郎は徐々に動作の速度を上げていった。

すがり付いてくる両腕に、腰をしっかりと抱きかかえながら体の奥を繰り返して突く。

そのたびに、こぼれる嬌声に、たまらなく欲情を駆り立てられながら、もっと、もっとと甲太郎は晃を欲した。

男同士の情交に抵抗を覚えている暇もない。

互いに求め、奪い合い、より深い部分でのつながりを求めて、気付けば晃も腰を揺らしながらぶつけられる思いに答えている。

それが嬉しくて、甲太郎も益々晃を求めた。

愛しさが結ばれていく。

解けない、固い絆で混ざり合っていく。

どちらがより欲しているのか、それすらわからなくなるくらい激しく求め合って、抱きしめるからだのぬくもり分、大切なものが増えていくようだった。

互いに、絶頂の先が見えつつあった。

溺れかけている晃が、甲太郎にしがみつきながら必死の思いを喘ぐように伝える。

「こ、甲太郎っ、お、俺、も、もうっ」

「解かってる」

荒い囁きと共に口づけると、濡れた瞳が真っ直ぐに見詰め返してきた。

甲太郎は微かに微笑んで見せた。

汗ばんだ背中に、シャツが張り付く。

「俺も限界だ、このまま行ってもいいか」

「あ、ああ」

もう一度唇を重ね合わせて、一番深いところを突き上げながら、直後熱い奔流を内側に叩きつけていた。

晃は固く瞼を閉じて、声にならない悲鳴をあげる。

殆ど同時に甲太郎の腹の辺りを噴出した精が汚していた。

ゆっくりと離れた視線の先、弛緩した表情を眺めて、甲太郎の瞳がすっと細められる。

「晃」

大切な、愛しい名前を呼びかけて、頬と瞼に口づけを落とす。

つながったままシーツに沈む体を見下ろして、満足の吐息を洩らすと、晃は少しだけ笑ったようだった。

「バカ」

見開いた漆黒の、どこか緩んだ眼差しと、気だるげに伸びてきた掌が額を指先でピンとはじく。

まだ熱く疼いている局部を引き抜いて、甲太郎は微笑みながら眼下の麗人に口づけたのだった。

「ごちそうさん―――」

 

「それで、実際なんの用だったんだよ」

男二人では狭すぎるベッドの中、二度目の行為を終えて、全裸の腕に同じく裸の晃を抱きかかえながら、甲太郎はああと気のない返事を返す。

「ああ、じゃないだろ、勝手に部屋に入ってきて、用があったんじゃないのか」

「部屋に入れたのはお前が鍵をかけてなかったからだ、大体無用心すぎるだろう、ちょっとは気を使えよ」

「なんだと」

晃は明らかに不満げな視線を向けてくる。

「言わせて貰うけどなあ、そのおかげで今こんな状態なんだろ?少しは感謝しろよ」

「お前が抜けてただけだろ?何で俺が感謝しなきゃならないんだ」

「こんなことでもなかったらエッチなんてできなかったくせに」

「バカ言うな、俺はいざとなればやる男なんだよ」

どうだかと明後日を見ながら言われて、甲太郎は言葉の代わりにキスをした。

見詰め返す晃がクスリと笑う。

「それで、実際の所どうなんだ」

「ん、まあ―――その、腹が減ってな」

「腹?」

「ああ」

甲太郎は眠そうにあくびをした。

興奮のあまり張り切りすぎてしまった。

たった二度しか求め合ってなくても、全身全霊を注ぎ込んだおかげで妙に疲れている。

気だるい、甘い眠りの気配が忍び寄っていた。

「あいにく部屋のカレーが切れてて」

「お前の部屋にはそんなものがあるのか」

「当然だろう、急に食いたくなったらどうするんだ」

どうもしないよと声がした。

甲太郎は聞こえないフリをした。

「だから、お前誘ってマミーズにでもいこうと思ってたんだ、消灯にはまだ少し時間があるからな」

「ふうん」

晃は納得いったのだかよくわからないような返事を返す。

「それで?」

「うん?」

「腹は?もういいのか?」

「ん」

抱きかかえていた頭を引き寄せて、髪を撫でながら甲太郎は笑った。

「気が紛れたから、もういい」

「なんだそれ、俺は空腹のついでか」

「バカ」

そんなわけあるかと、髪の合間にキスを落とすと、ぬくもりが身を寄せてきた。

二人でくっついて、クスクスと笑い合う。

なんてバカらしい光景かと思う。

誰かに見られたりでもしたら、それこそ言い訳する間もないほどの大事だ。

一握りの人々だけが知っている彼の秘密。

けれど、この秘密は、俺とお前が共有するだけでいい。

友達とか、恋人とか、そんな括りで分け切れないような関係。

俺と、お前は―――

「甲太郎」

「ん?」

「俺と、お前は、友達、なのかな?」

掌が髪を撫でる。

降り注いでくる声はとても親密で、優しげだった。

「―――一応、そういうことにしておくか、まだ」

気恥ずかしさでごまかした彼の提案が不本意でなかったから、晃も笑いながら快諾していた。

「そうだな」

なによりも、深く、近しいつながり。

それはまるで個々を成す根源の結びつきのように。

愛しい思いは、静かに、胸の奥底に降り積もるようだった。

 

ボーダーの境界はいまだ曖昧でも、それで構わない。

いつかはっきりわかる日だって来るのだろうから。