Midnight Kiss

 

 MP5A4の銃口が火を噴き、死の額を吹き飛ばしていた。

カァとなって飛翔していく様子を眺めながら、スコープの敵影が全て消滅した事を告げるアナウンスが耳元に流れる。

振り返ってバディとして同行してくれている甲太郎の安否を気遣おうとした途端、背後から抱きしめられていた。

「わ、ちょ、ちょっとオイ!」

慌てて声を上げると、スコープのマイクが収集した機械的な音声が囁きかけてくる。

「やりたい」

「は?」

「やらせろ」

そのまま壁に押し付けられて、強打した背中から肺が圧迫されて息が漏れる。

顔を上げようとした途端、下からすくい上げるようにキスをされていた。

口腔内にもぐりこんでくる舌先に、息苦しくて必死で抵抗を試みる。

「ちょ、ちょっと待てよ、いくらなんでも唐突過ぎだろう?!

慌てて引き剥がしたその先、甲太郎の真剣な眼差しと視線がぶつかって、晃はすっかり弱り果ててしまった。

「急にどうしたんだ、一体何が」

「そんなもんにいちいち理由なんているか、ただやりたくなっただけだ」

そんな、動物的なと、半ば呆れ気味に突き放そうとすると、強引な唇が再び求めてくる。

息を継ぐ暇もないほどキスを繰り返されて、壁と体の隙間で学生服がじたばたと暴れた。

ようやく開放されて、直後に晃は観念した眼差しを甲太郎に向ける。

「わかった、わかったから―――」

「晃」

「で、でも、ここじゃ危ないし、いつ化人に襲われるかわからないから、こんな場所じゃ無理だ」

「寮までなんて持ちそうもない、それこそ無理だ」

またキスをしようとする顔をぐいと押しのけて、ああもうと泣き言めいた声が上がる。

「もう、わかったよ!じゃあ近場に場所を変えよう、それならいいだろう?」

「どこだ」

「そこ」

指を差した先、両開きの碧のドアが視界に飛び込んできた。

振り返った甲太郎の腕を解きながら、晃は溜息混じりに呟いていた。

「魂の井戸がある、あそこなら、化人は出ないし、入ってもこれない、だから―――」

 

分厚い扉をしっかりと閉ざして、振り返った晃の姿は緑色に染まっている。

甲太郎の姿も緑だった。

井戸から漏れている光がその原因で、ここはもっぱら遺跡探索中の拠点のようにして利用している。

傷の治癒や、弾薬の確保、充填、物資の移送や引き出しを行うための部屋は、静かで、清廉な気配に満ちていた。

伸びてきた両腕に抱きしめられながら、晃は深々と溜息を漏らす。

「まさか、ここでこんなことする羽目になるとは思わなかった」

耳元でフンと鼻を鳴らすような笑い声が聞こえた。

「良かったじゃないか、新しい使い道が見つかって」

「お前ね」

「ちょっと黙ってろ」

唇を重ねられて、今度こそ本当に観念しながら晃は全身の力を抜いた。

時と場所を考えれば、こんな行為、正気の沙汰じゃない。

甲太郎はもちろんそうだが、自分も随分肝が据わってきたものだと、アサルトベストの前を開かれながらぼんやり考えていた。それは、トレジャーハンターとしてどうなのだろう?

(でも危機感が足りないことだけは事実だ)

命のやり取りをしているはずなのに、生殖行為など、ましてや同性なのだから、これは間違いなくただの快楽の追求に他ならない。

けど、でも、だからなのかなと、ふと考えが脳裏を横切っていた。

命を掛けているからこそ、刹那の結びつきを欲しているのかもしれない。

自分も、こいつも。

そして晃は首を振る。

どっちにしたってやる事は一緒なんだし、難しい理由をつけること自体がバカらしいじゃないか。

甲太郎はどうあってもこの手を止めてくれないだろうし、俺だって要求を受け入れた、なら、後はなるようになるだけだ。

顔を上げた甲太郎がなんだと聞くので、パーマのかかった彼の髪をポンポンと叩いた。

「横になろうか?そのほうがやりやすいだろう」

背中に手を差し込まれて、抱えられながらゆっくりと石畳の上に寝かされる。

上になった甲太郎はキスを繰り返しながら、制服とワイシャツのボタンも外し、下着をたくし上げて、露になった素肌の上を掌で何度もなぞった。

胸の突起を弄ぶ指先の動きに、ビクリと体を震わせながら微かに声を洩らす。

甲太郎の唇は首筋を這っていた。

「ほ、他に誰も連れてこなくて、正解だったな」

荒い呼吸の合間に呟くと、耳元でフッと笑い声がする。

「まあな、誰かいちゃ、こんなことできやしないか」

「当たり前、だろ、さすがに俺も勘弁しないぞ」

「なら今は勘弁するのか?」

「じゃなかったらお前を殴って、ここに縛り付けて奥に進んでるよ」

実際晃にはそれくらいできるだけの実力がある。

おとなしく抱かれているのだって、結局は他でもない彼自身が行為を望んでいるからだ。

事実として知っているから、甲太郎はわずかにむっとした視線を向けて、強引に唇をふさいでいた。

ひび割れた石の床と、散乱した重火器、ナイフに囲まれるようにして、前だけはだけた晃の姿は妙に艶かしく映る。

甲太郎の指先がベルトを外し、チャックを下ろして、ズボンの奥へするりと潜り込んだ。

局部を柔らかく握ると、切ない鳴き声が上がる。

「あ、ちょ、ちょっと、待て」

キスで返事をされて、待つ様子もなく慣れた手つきが表面を擦り始めた。

「や、あっ、バカ、待てって言ってるだろうが、なんで、そんなっ―――アッ」

先端を爪でくっと押して、箇所の括れや頭部の形を確かめながら触れていく。

そのたび熱を帯びて膨張していく部位の変化に合わせて、晃の呼吸も上がっていくようだった。

求める激しさとは別に、繊細な部分を丁寧に、執拗に攻め立て続けると、頬を染めた彼の気持ちよさそうな表情に甲太郎もだんだんと興奮が高まっていく。

キスをしながら様子を伺って、動きを早めると程なくして晃は絶頂を迎えたようだった。

「こ、甲太郎っ、アアッ」

ビクビクと表面が収縮して、吐き出された精が衣服や肌を汚す。

付着した部分を晃の胸にこすり付けて拭き取った。

あからさまに嫌そうな顔が甲太郎を睨む。

「おまえ、なあっ」

「自分のものは自分で始末しろ、当然だろう?」

先ほどの暴言の仕返しはこれくらいで勘弁しておいてやるか。

そう思いながら笑うと、どうやら察したらしい彼は少し悔しげだった。

つむじを曲げられても困るので、キスをして、肌の上の残りを舌先でぺろりと舐め取ってやる。

生臭いのはこの際ご愛嬌だ。

晃のでなければ、死んだって口に入れたくなどない。

愛情のごまかしに際限は無いのかと、異常な心理に苦笑いが漏れるようだった。

ズボンを脱がせて下半身を露出させると、晃はふと思い出したように不安げな表情を浮かべた。

「こ、甲太郎」

「何だよ」

「お前、ローションとか持ってるのか?」

ああと呟いて、制服の内ポケットを探ると、取り出した小瓶を鼻先で振って見せる。

「準備は万全だ」

晃はそれを唖然と眺めていた。

「まさか、そんなもの、いつでも持ち歩いてるのか?」

「だったらどうだってんだよ」

「―――変態」

ペンと額を叩いて、甲太郎はキスを落とす。

「お前だって人のことが言えるか」

両腿を掴んで、秘所が見えるように開脚させた。

脱がせ途中の制服が邪魔でそれほど大きく広げる事はできなかったが、構わずにローションを落として指を這わせると、晃はビクリと全身を震わせた。

何度抱かれても行為に慣れない、初々しい仕草に思わず笑みがこぼれる。

「何、笑ってんだよ」

「お前がいつまでたっても変わらないなと思っただけだ」

「こ、こんなこと、慣れて堪るか!」

慌てて言い返す様がまた愛しくて、沸き起こる欲望に窄まりに差し込んだ指先を動かすと、鼻にかかった甘い声が応える。

直後、赤面してそっぽを向いてしまうので、クックと笑いながら部位を慣らしていった。

「わ、笑うな、バカッ」

「悪い、そんな状況じゃないな」

そうだと応える声の合間に、淫らな吐息が混ざりこむ。

「こ、ここ、どこだと思ってんだ、アッ―――こ、こんなことしてる場合じゃ、う、クッ、ないんだぞっ」

それも確かにそうで、学園下の胡散臭い遺跡の中で情事に及ぶ自分たちははっきり言ってまともじゃない。

けど、とりあえず安全なようだし、ムラムラした気分は晃の体でないと発散できそうもないので、甲太郎はまあいいかと結論付けていた。

とんでもなく図太い根性に、またいくらか笑いがこみ上げてくるようだ。

晃は、完全に身をゆだねる覚悟ができないようで、溺れかける自身を必死に抑制しようとしているようだった。

そうでもなければこんな仕事をしていられないのかもしれない。

いわいる、トレジャーハンターの本能というヤツだ。ならば。

「おい、晃」

「ンっ」

そんな事を考える余裕もないほど、お前の内側を俺で満たしてやる。

宣言の変わりに口づけを落として、まだ馴染ませきってない内側から指を引き抜いた。

すべりを良くするためにローションを大量に落として、すっかりいきり立った局部を晃の臀部の窄まりに押し当てる。

潤んでいた瞳がはっと大きく見開かれた。

「ちょ、ちょっと待てよ、まだそれは」

言葉の途中で入り口を強く突き上げた。

無理に広げられた括約筋が甲太郎の侵入を阻む。

痛々しい悲鳴が、石室内に響き渡った。

「い、イタッ、い―――ヤメッ」

ぐっと押し込む。

晃が更に大きな声で叫ぶ。

「痛い、こ、たろ、無茶だ―――入らなッ―――っつ!」

ローションの助けを借りて、入り口部分を抜けると内側はそれほど窮屈でもなかった。

懇願する声を無視して、ズブズブと奥まで沈みこませていく最中、もがく晃の両腕が何度も宙を掻く。

その手を捕らえて、自分の両肩につかまらせると、夢中でしがみついてきた。

背中を支えて抱き起こすような姿勢を取りながら、じわじわ侵食していき、甲太郎の局部は根本まで晃の内側に納まった。

いまだ続く痛みと圧迫感に苦しげに呼吸を繰り返して、絶え絶えの喘ぎ声が耳元で怒りを露にする。

「無理、しすぎだっ、このバカッ」

甲太郎は首筋にキスを落として、様子を伺うようなこともせず初めからいきなり腰を揺すり始めた。

抱きついている両腕に更に力が込められて、晃が悲痛な叫び声を洩らす。

「イヤッ、や、嫌だ、ヤダ、甲太郎、ヤメッ、ろっ」

「やめてもいいのか、本当に」

「っつ!」

音を立てて内壁を擦りながら、ぶつかり合う肌の間でローションが飛沫になって散る。

晃はまともに息も出来ないようで、獣じみた呻き声が甲太郎の荒い吐息と交じり合って部屋全体に響いていた。

突き上げるたび、全身を上下させながら、快楽が体の中心を稲妻のように駆け抜けていく。

膨張した彼自身を受け入れた体内は本人の意図に反して徐々に馴染んでいき、程よい締め付けでさらなる律動を促がした。

昂ぶった興奮のままに、乱暴に出入りする甲太郎の動きに、瞳の端に涙が滲む。

今、ここが遺跡の中であることも何も、晃には考えられなくなっていた。

真っ白に染まった頭の中で、彼の呼吸や、時折聞こえる呼び声、その動きと、内側を攻め立てる膨大な圧迫感と熱に、全てが支配されている。

内側には、今、甲太郎のことしかない。彼の思うように。

願いは強引に成就された。

「そろそろ―――だなッ」

揺さぶる耳元で囁く声に、無心で頷き返していた。

晃も、再び限界を迎えつつある。

さっきまでより更に激しく二度、三度と突き上げられて、押し寄せる快楽に堪らず精を吹き上げていた。

直後に臀部に根本を押し当てて、最奥を突いた甲太郎も中に精を放つ。

ほとばしる熱い奔流に、深々と息を洩らしながら、晃はズルズルとその胸にすがるようにして崩れ落ちていた。

上下する肩の動きを掌で何度も撫でて、ねぎらうようなキスが頭上から降り注いでくる。

結ばれたまま、横にされて、そのまま上にのしかかってくる重みに全てを投げ出して息を吐く。

ぼんやりと開いた視界に、緑色の天井が映っていた。

 

アサルトベストの着用を確認して、よしと小さく確認の声が聞こえた。

甲太郎は部屋の隅で胡坐をかいて座っていた。

シャツと制服の所々が染みになってしまったから、明日は全部クリーニングに出す必要があるだろう。

彼は、着々と仕度を整えていく晃の姿をつまらない気分で眺めている。

「おい」

呼ばれて振り返ると、晃はムッスリしたまま甲太郎を睨みつけてきた。

「お前とはしばらく口もききたくない、この乱暴者め」

「悪かったって言ってるだろ、そろそろ勘弁しろよ」

「嫌だ」

また背中を向けられてしまうので、男前は困って溜息を吐いてしまう。

行為の後、少しして、ようやく動けるようになった晃は勢いに任せて散々甲太郎を罵ったのだった。

無理やりの要求がよほど腹に据えかねたらしい。

この部屋に満ちている光には、人体の自然治癒力を高めてくれる効果がある。

おかげであれほど無茶をしたにもかかわらず、晃の出血は程なくして納まり、状態も何とか回復したようだった。

切れ痔にならずに済んでよかったなと冗談半分で言った途端、甲太郎は本気の鉄拳を喰らって、その傷跡もあっという間に治ってしまった。

晃の機嫌だけが未だになおらない。

そっちの治癒効果もあったらよかったのにと、都合のいい考えが脳裏をよぎる。

「おい、晃」

マシンガンのベルトをたすきがけにして、コンバットナイフをホルダーにしまい、後はゴーグルを被るだけでここに入る前と同じ姿に戻ってしまう。

甲太郎は何となく面白くなくて、難儀そうな素振りで立ち上がっていた。

背後から近づくと、晃が振り返りざまマシンガンの銃口を構えた。

ビックリして足を止めて、まじまじと様子を伺う。

彼はまだ眼が三角だった。

「あのなあ、さすがにそれはやめとけ、心臓に悪い」

「黙れ、今の俺なら本当に撃ちかねないぞ」

「んなことはわかってるよ、だから機嫌直せって言ってるだろうが」

「よくもそんなことが言えたもんだ、お前の神経を、俺は疑いたい」

「疑いたきゃ勝手にそうしろ」

人の気も知らないで、と思う。

好きな人間を独占したいと思って何が悪い。

ここに来て、何かに夢中なお前を見ていて、振り返らせたいと思うのはいけないことなのか?

大体いつだって無神経に人を魅了しておいて、晃にだって問題がある、と思う。

(それは俺の勝手か)

オチがついて落ち込んで、ついでに何だか面倒くさくなった甲太郎を見て、晃はふと銃口を下げていた。

溜息交じりに俯くと、そのまま傍まで歩み寄ってくる。

「お前の、気持ちは嬉しいけどさ」

顔を上げると殆ど同じ高さの目線の、二人はしばらく見詰め合って、不意に掌が甲太郎の額をペシリと叩いた。

「な、何すんだ」

「さっきの仕返しだ、ざまみろ」

言いながら悪戯な笑みを浮かべるので、拍子抜けしてしまい、甲太郎は間抜けな表情のまま立ち尽くしてしまった。

ほんとうにらしくない。なんなんだこれは。

晃の笑顔を見ていると、生ぬるい、落ち着かない気持ちがぐんぐん胸に広がっていく。

俺ばっかり夢中で、やっぱり何だかずるいじゃないか。

たまには―――少しぐらい、無理を言って、お前を独占させて欲しい。

何だか悔しくて、甲太郎は強引に晃を捕まえていた。

引き寄せてキスをすると、困り顔が仕方ないなと苦笑を浮かべる。

「怒られたばっかりなんだから、ちょっとはしおらしくしてろよ、お前は」

「黙れ、お前こそ」

少しは人の気を知れ。

最後は口を閉ざした、甲太郎の唇に晃からキスを落とす。

離れてニコリと微笑んで、手にしていたゴーグルを被りなおした。

「さて、大分時間をロスしたからな、どんどんいくぞ」

「つれない言い方だ」

自分の唇に触れて、甲太郎もニヤリと笑う。

扉を開く途中の肩を掴んで、振り返りざまキスを交わした二人の目の前に、異形の影達が立ちはだかっていた。

ナビゲーションの声を聞きながら、周囲を見回した晃は不敵な笑みを浮かべた。

「やれやれ、どうやらお待ちかねっていった所かな」

「お前の声がでかかったからだろ、相当デバガメだな、こいつら」

「つまんないこと言ってるな」

マシンガンを構えて、勇ましい声が暗鬱とした空間に響き渡る。

「行くぞ!」

駆け出していく姿はとてもまぶしくて、忘れかけている何かを呼び戻してしまいそうだった。

晃と共にありたい。これからも、ずっと。

それがこの身の内にある想いの全てで、今だけは、それでいい。

闇深い遺跡を駆ける輝きはますます強く瞳に焼きつくようだった。