In My Room

 

 ふう、やれやれとベッドに腰を下ろして、晃は溜息を漏らした。

最近はなんだか色々とごたごたが続いていて、少し疲労がたまっている気がする。

殺伐としているのには慣れているけれど、慣れない学生生活とあわせて、体より心のストレスが強いようだった。

ぼうっとさまよわせていた視線を、不意に下に落として、腿の付け根付近を眺める。

「うーん」

そっと触れて、ボタンを外し、チャックを開いた。

「久し振りに、一人でするかなあ」

―――この頃は、よく甲太郎がやってきて、なだれ込むようにセックスしてしまうから、一人でなんてする暇もない。

身体を重ね合わせることに嫌悪感は無いけれど、時々のしかかってくる体温が息苦しく感じる事がある。

一応、男なのだし。

晃は下着の中に手を差し込んで、体の一部を取り出した。

挿れられることには、やはりどうしても慣れない。我慢できるのは相手が甲太郎だからだろう。

他の男に抱かれている自分など、想像するだけでゾッとした。

それならどうしてアイツに突っ込まれて揺すられても気持ちいいばかりなのか、わけがわからないけれど、とりあえずそれは横においておこう。

まだ弛緩している感触を掌に収めて、ゆっくりとしごき始める。

ふ、と溜息を漏らして、力を抜きながら、自身のぬるい体温を感じていた。

首周りを親指でスルスルと擦り、そのまま先端からなぞると、快楽が内側からじわじわと滲みはじめる。

「んん」

緩い吐息を洩らして、局部を握り、またゆっくりと擦る。

速度を速めたり遅くしたりしながら、与え続ける快楽に、柔らかな感触が徐々に強ばってきた。

熱を帯びていつの間にか勇ましくそそり立った男根に、やっぱり俺は男だよなあと感慨深く思う。

アイツの腹の下で、女みたいに鳴いてるばかりじゃないじゃないか。

リズミカルに手を上下させながら、熱い吐息を何度も洩らした。

しんと静まった、部屋の外は夜だ。

今夜も遺跡に潜るつもりだから、一回抜いたら依頼を受けてこよう。

煌々と輝く白色灯の下で、晃の吐息と局部だけが熱を帯びて、熱く震えている。

少し腰を上げて、結局下着ごとズボンを腿の中ほどまで下ろすと、もう一度座りなおして立ち上がった箇所を掌に収めた。

楽になった下肢の内側で快楽が渦巻いてる感じがする。

ん、んんと小さく声を洩らしながら、目を閉じて時折くっと息を詰まらせる。

「アッ、はっ、んンっ」

肩をすくめて、触れられている感触にグッと集中した。

くちゅ、と音がして、先端がヌルヌルと濡れている。

先走りの雫があふれ出して、すっかり怒張した様子を伺うと、晃は指先ですくってヌルヌルと塗り広げていった。

「ふあっ、うっ」

頭部と指の皮膚が擦れるたび、快楽が腹の底をグッと突き上げるようだ。

乾いた音ばかりだったのに、今はくちゅくちゅと、擦るたびに水音が指の隙間から鼓膜を揺らす。

頬を染めて、上気した身体を悶えさせながら、内側で渦巻いていた衝動が出口を求め始めていた。

(そ、そろそろ、イクかも)

熱で沸いた頭でぼんやり考えた、その時。

「っつ」

ビクン。肩が揺れる。

コンコンと、ノックの音、そして。

「おい、晃、いるか?」

知っている声。

直後にバクバク鳴り出す心臓の音にせかされて、慌てて下着とズボンを履きなおした。

―――すっかり充血した自身が擦れて悲鳴をあげそうだ。

晃はギュッと下腹に力を込めて、何度か深呼吸を繰り返して、ようやく常時の感覚を取り戻していた。

張り詰めた前がわからないように、シャツをだらしなくたらしてドアに向かう。

なんてタイミングの悪い奴なんだ。

僅かに唇を噛み締めて、とっとと追い出して続きをしてしまおうと意を固くしながら扉を開く。

「よお」

のん気な様子に、晃は唸り声を洩らした。

ドアの前に立っていたのはやっぱり甲太郎で、こちらを見た途端怪訝に眉を寄せている。

「どうしたんだよ、機嫌悪そうだな」

「別に」

誰のせいだと思ってるいと、胸の中で毒づきながら、用はなんだとぶっきらぼうに訊いた。

「ああ、お前の部屋に俺のアレないか?」

「アレ?」

「コイツ用の巻紙と、粉」

指に挟んだパイプを目の前で揺らしてみせる。

「後な」

それより少し小さな声で、下着、と付け足した。

晃はムカッときて、そんなもんは無いとつれなく言い捨てた。

「なんだよ、ちょっと探させろよ」

「無いものは無いって言ってるだろ、大体どうして俺の部屋にお前の持ち物があるんだ、いい加減にしろ」

「こないだ持って来てただろ、忘れたかよ」

「紙巻と粉なら持って帰っただろ?」

「下着は」

バカッと叫んで飛び掛って口を押さえた。

そんな事、誰かに聞かれたらどうするんだ。

「―――穿いて帰っただろうが、お前は痴呆の気でもあるのか、オイ」

晃に頭を押さえ込まれて、甲太郎は黙り込んでいる。

至近距離から見詰め返していた瞳が、急にフッと緩んだ。

口元にあてていた手をゆっくりと外される。

「晃」

するり。

「っつ?!」

背筋を稲妻が走りぬけた。

「お前、コレ、どうしたんだ?」

恐る恐る見下ろした先、甲太郎のもう片方の手が、股間に触れている。

晃の顔からサーッと血の気が引いていく。

「あ、や、こ、これ、は」

途端、急にぐいと肩を押されて、強引に部屋の中に踏み込まれてしまった。

甲太郎は後ろ手にガチャリと錠をかけると、そのままベッドまで晃を引きずっていく。

「うわっ」

ベッドの上に思い切り突き飛ばされた。

スプリングをきしませてバウンドする姿を、楽しげに顔をニヤつかせながら見下ろしている。

口元のアロマを机の天板でもみ消して、紙巻を胸の内ポケットから取り出した灰皿に突っ込むと、まとめて再びしまいなおした。

「機嫌が悪かったのはそういうことか」

「何、がっ」

「お前、一人で抜いてたんだろ?」

「うっ」

ぐうの音もでない。

甲太郎はフンと鼻で笑う。

「溜まってるならなんで俺に言わないんだ」

信じられない発言に、晃は一瞬自分の耳を疑った。

こいつ、本気で言ってるのだろうか。

「いっちょまえに照れてんのか?そんな柄でもないだろが」

「ふ、ふざけんなっ」

何で俺の処理をお前に頼まなきゃならないんだ。

大体、実際そんなことになったら楽しいのはむしろお前のほうだろうが。

(こっちなんか痛いばっかりで、毎回さんざんだっていうのにッ)

ギシ、と音を立てて、仰向けの体の上にラベンダーの香りが覆いかぶさってくる。

「おねだりしてみろよ、ホラ」

「お、お前なあ」

「ちゃんと可愛く出来たら、ご褒美にしてやるぜ?」

「今日は、イヤだ」

「なんだよ、生理か?」

ガッツンと思い切りのいい音を立てて、鉄拳が甲太郎の脳天に炸裂した。

「こんの色情魔、いい加減にしろッ」

出てけッとついでに足蹴りを食らわして、上から跳ね飛ばした体がそのまま後ろの机に背中をしこたまぶつけてウッと声を洩らす。

晃は肩で息をしながら、起き上がってシャツの裾をぐいぐい引っ張って足の付け根を隠した。

散々暴れたせいでもう限界だ、このままじゃ下着を穿いたまま達してしてしまう。

顔を真っ赤に染めて、苦しい息を吐きながら小さく身体を固まらせていると、何とか立ち上がった甲太郎がふらつきながら睨みつけてきた。

「てんめえ晃ァ」

「お、まえ、もう帰ってくれよ、頼むから」

「そんなに俺とやるのが嫌なのかよ!」

「―――そうじゃ、無くてッ」

悔しいけれど泣きそうだ。

様子に気づいた甲太郎が急に眉を寄せて、気遣うような表情を浮かべる。

(今更遅いんだよっ)

というか、気遣うくらいなら出て行ってくれ、本当に、今すぐに。

「挿れられんのは、ヤなんだ」

「おあずけってことか」

「二度としないって言ってるんじゃない、今日は一人にしておいて欲しいんだ」

もう、いっそこいつの見てる前で続きをやるか。

半ば崩壊しかけた理性がとんでもない提案をしてしまう前に、わかったと静かな声が聞こえてきた。

助かった、と肩を撫で下ろす。

その途端。

「じゃ、挿入はしない、けど、このままお前を放って帰るほど、俺も冷淡じゃない」

「はあ?!」

甲太郎は構わず晃のシャツを捲り上げて、ズボンのボタンに手をかけた。

「ば、バカ、今しないって言ったじゃ」

「しない、挿れない、けど、させてもらう」

「それって」

不意にポケットから何か取り出すと、晃の目の前で振ってみせた。

「何?」

男前がニヤリと笑う。

「通販購入、50枚入り、味つきコンドームだ」

「へ?」

「何味かは言わずもがなって奴だな、ほら、脱げ」

すでにうまく力の入らなくなっている手足が言う事を聞いてくれるわけも無くて、抵抗むなしくズボンはあっさり脱がされてしまった。

下着の前が染みになってしまっている。

甲太郎はそれも性急に脱がして、内側から現れたものを見て、ゴクリと喉を鳴らした。

「晃―――相変わらず、やらしい色してんな、ヌルヌルじゃねえか」

「み、るな、バカッ」

「フン」

指先で弾かれる。

それだけで、悲鳴をあげてしまう。

クスクス笑いながらコンドームの包みを破いて、骨張った指先が手際よく局部に被せた。

「カレー味のうまい棒か、駄菓子より断然こっちのほうが好みだな」

「う、うまい棒って、何だよ」

「日本の安っぽい菓子さ、今度買って食わせてやるよ」

不意に近づいて、キスをされた。

甲太郎がニヤリと笑う。

「さて、気持ちよくしてやるぞ」

そのまま局部を掴むと、口の中に含んだ。

思わず、ヒッと引き攣れた声を上げてしまった。

「お、お前、何やって」

ジュポジュポとしゃぶって、顔を上げる。

「野郎にフェラなんてお断りだがな、ま、味はそこそこ、カレーと言えなくもないか」

「そ、そんな、え、何が」

「訳わかんねえなら黙ってろ、お前にだけしてやるスペシャルだ、せいぜいよがっとけ」

「や、やめ、アッ」

甲太郎は唇と舌を使って上手に晃自身をしゃぶる。

普段散々奉仕させられている身としては、複雑な所だ。

眼下の奇行に唖然としながら、与えられる快楽がたまらない。

全身がビクビク震えて、とてもまともじゃいられない気分だった。

「や、やめ、ろよ、甲太郎、や、アッ」

シャツの下で揺れる髪をキュッと握り締める。

直後に痛いかもと思って慌てて手放して、それからそんな気使う必要なんてないと思いなおして束で掴みなおした。

「いてて、おいコラ、じゃれるな」

「お前、この、変態ッ、いい加減に」

ねろりと舌で舐められて、すっかり敏感になっている体が大げさに反応してビクリと跳ねる。

甲太郎が笑う。

「お前だって、男になんてしゃぶられて感じてるなんて十分変態だ、おとなしくしてろ、可愛がってやるから」

「嫌だっ」

「フン、そろそろ本当に限界だろうが」

コンドームの内側が先走りの露でヌルヌルになっている。

再び口に含んで、今度はさっきより激しく、上下の唇でしごかれて、言葉にならない喘ぎ声だけが絶え間なく喉からあふれ出した。

晃は甲太郎の両肩に捕まって、ギュッと両目を閉じる。

暗くなった内側で、快楽がぐるぐると廻る。

上下するたび吐息が下腹をくすぐって、半端な脱がされ方をしたズボンが苦しい。

―――いっそのこと全部脱がせて欲しい。

「も、もう、だ、ダメッ」

クット小さく声を洩らして。

頭の中が、弾けて真っ白に染まった。

大きな波がブルリと身体を震わせて、それは自分が震えたのかベッドが震えたのか、それとも甲太郎が震えたのかよくわからない。

けれど、そろそろと瞳を開くと、目じりに浮かんだ涙をチュッと吸い取って、甲太郎の吐息が深く絡みついてきた。

「気持ちよかったろ?」

「あ」

ぼんやり呟いて、直後に我に返りかける。

その隙を逃さず深いキスをして、吐息ごと全部持っていかれながら抱きしめてくる腕におとなしく身を任せた。

二人でベッドにバタリと倒れこんで、離れた顔が息の弾んでいる晃をウットリと見詰めて、緩く微笑んでいた。

「ったく、お前って時々どうしようもない顔してるよな」

「―――どうしようもない顔って、どんなだよ」

「今の顔だよ」

スルリと髪を撫でて、キス。

うっとりと瞼を閉じる。

非常に悔しいが、またもやこいつのいいようにされてしまった。

(うまい棒ってなんだ、いい感じのシャレでも言ったつもりか)

「バカアロマ」

「何?」

「うるさい、この仮性親父め、お前なんかペットボトルの裏の川柳にでも投稿してろよ」

「―――何でまた機嫌悪くなってんだ」

「なってねえよ、バカ」

そのままシャツを掴んで胸元に頭をこすり付けると、よしよしと背中を撫でられた。

晃はもぞもぞと、邪魔なズボンと下着を脱ぎ捨てる。

裸になった下半身がスースーして、むっくり起き上がって布団の端を捲り上げた。

コンドームに溜まった体液に一瞬顔をしかめて、ズルリと引き抜いて口をぎゅっと縛る。

「おい、このバカアロマ」

それをそのまま甲太郎に押し付けてやる。

「捨てとけ」

「お前ってさ、終わると大体不機嫌だよな、今日は挿れなかったじゃないか、約束守ったぞ?」

「俺だって照れるんだ、それより」

ゴミ箱にフリースローを決めた後、はたと動きを止めて、直後に甲太郎は晃を凝視していた。

顔が赤い。

「―――照れる?」

「うるさい、それより、続きとかやりたいのか」

そのまま起き上がって、ベッドの端に退けながら、男前は間を置いてニコリと微笑んだのだった。

「いや」

ベッドにもぐりこんだ晃の頭部をポンポンと叩く。

「勘弁してやるよ」

「じゃ、出てけ、俺はひと休みするから」

「今夜も行くのか」

「そうだ」

「相変わらずご盛んな事だ」

「ほっとけ」

フッと笑う声と、掛け布団をめくる気配。

晃が振り返るのと、甲太郎がもぐりこんできたのは殆ど同時だった。

「何入ってきてんだ、帰れって言ってるだろ」

「いちいち戻ったんじゃ、面倒くせェ」

「何」

「俺も行くって言ってんだ、それまで俺もここで寝る」

伸びてきた腕が強引に抱きしめてくるので、背中を向けて抗議する。けれど、甲太郎はどこ吹く風で、結局そのまま首筋に顔をうずめて落ち着かれてしまった。

裸の足に、ズボンの感触が絡みついてくる。

「晃ぁ」

「なんだよ、エロ」

「―――あのコンドームな」

「うるさい、黙れ」

「さっきも言ったが、50枚入りなんだ」

「だから何だよ」

49回だな」

「は?」

ぎゅううと抱きしめて、もう一度。

「さっき一枚使ったから、49回」

「―――何、言ってんだ、お前」

「せいぜいいい声で鳴いてくれよ、なあ」

「っつ―――!!!」

バカッの怒鳴り声と、低い笑い声。

そして―――

 

翌日、登校してこない二人に八千穂が頬を膨らませていたのは言わずもがな、である。

 

何これ最悪(笑)