そして遂にその日は訪れてしまった。

3月14日、ホワイトデー

そっけなくお返しをする男、デレデレになっている男、年貢のように収めて回る男、さまざまな姿を校内のあちこちで見かけた。

篤郎も先ほどお礼参りを終えたばかりだ。

コンビニクッキーとはいえ、この時期の出費は本気で切ない。

(ホワイトデーだけはいらねえよなぁ)

今から贈答の練習しても仕方ないだろと机に着いたまま目を向けると、教室の入り口付近で和哉から小さな包みを手渡された柚子が大はしゃぎしていた。

他の贈り物は義理以外お礼のしようもないだろう、罪作りな奴等だと溜息が漏れる。

(まあ、一番悪いのはやっぱレンだよな、アイツホント何なんだろうなぁ)

それでも、柚子の喜ぶ姿を見てニコニコしている和哉は可愛い。

ふと目が合った途端、それまでと違う雰囲気でニコッと微笑みかけられた。

途端篤郎は机に突っ伏して、耳まで赤く染まった顔を誰にも気取られまいと隠した。

(このタイミングでんな顔すんなッ、バカー!)

―――鞄の中身はいつ渡そうか。

とりあえず放課後までは無理だろう。

後の予定を立てながら、早くなった心臓収まれと、篤郎はぎゅうと瞼を閉じて本当に困り果ててしまった。

 

 放課後。

いつものように途中で柚子と別れた後、並んで歩く帰り道。

「コレ」

鞄から取り出した包みを差し出した。

受け取った和哉は中を見て、それから篤郎を窺うように見た。

「あー、えっと」

篤郎は困り果てた表情で自分のつま先を見下ろしつつ、照れ隠しに後頭部をガリガリと掻く。

「な、悩んだんだ、凄く」

ここ数日は本当に何をしていてもお返しの事ばかり考えていた。

パソコン関連以外でこれほど悩み倒したのは、もしかしたら初めての経験かもしれない。

「俺、正直言うと、本命チョコとか貰った事なくて、だから経験ないっていうか、その、何だったら40倍くらいになんのか全然分かんなくて」

それでも、和哉の喜ぶ顔が見たい一心で、ひたすら必死だった。

「でも、考えるほど、どんどんワケわかんなくなって、だからさ、その」

「コレか」

和哉が包みの中から透明なラッピングを取り出す。

キューブ型のカラフルなキャンディ、そして、透明なケースに入ったオルゴール。

即座に篤郎は顔を真っ赤に染めながらやめろバカと両手を振り回した。

「か、帰って開けろよ!恥ずかしいだろッ」

「虹の向こう」

「タイトル言うな!早くしまえ!」

慌てふためく様子を眺めて、和哉がクツクツと笑い始める。

包みを元に戻して、それでもまだ笑っている。

「性格悪いぞ」

赤い顔で睨み付けた篤郎に、全然悪びれない様子でゴメンゴメンと言葉だけ返ってきた。

「で、これが40倍?」

「そ、そーだよッ、俺の精一杯だよ!」

「なるほどね」

不意に、照れたように笑う、和哉の様子に篤郎も強張りかけた心がゆっくり解けていく。

嬉しそうな目元が仄かに色付いていて、気付いた途端ドキンと胸が高鳴っていた。

「有難うアツロウ」

「えッ」

「これ、大事にする」

「い、いいのか?」

「何?」

「だって、あの、それで40倍って」

「十分だよ」

和哉はフフと笑った。

「アツロウが俺のために選んでくれたんだろう?だったらそれで十分、40倍以上貰ったよ」

「な、なんだよぉ」

途端肩を落として、悩んで損した、と篤郎は呟いていた。

和哉がそんなことないぞと返す。

「気持ちが伝わったから満足したんだ、コンビニなんかで済まそうとしたらただじゃおかないつもりだった」

「んなわけあるかよ、お前からのチョコ、凄ぇ美味かったし」

「そうだろう?悔しいけどナオヤ直伝だからな、結構自信あったんだ」

「マジかよ、あの人ホント何でもできるなぁ」

和哉と篤郎は笑い合う。

足元に夕陽の影が伸びる。

「なあ、レン?」

何、と答えた瞳の中で、オレンジの光が踊っていた。

「あのさ」

篤郎は少し視線を泳がせながら、照れ隠しに指先で頬を掻く。

きっとこの赤色は夕陽でも隠せない。

和哉の赤く染まった頬が自分にばれているように。

「サンキュ」

―――男相手に胸をときめかす、今の心理はやはりちょっとおかしいと思うけれど。

(でも好きなんだから、仕方ない)

手作りのトリュフはとてもおいしかった。

それは単に上手い下手の問題だけでなく、和哉が作ってくれたからあんなに甘い味がした。

「その、よければ来年も頂きたいなあ、とか」

呟くようにしてそっと視線を戻すと、一呼吸置いてから、和哉はうん、と頷いてくれた。

そして花開くように笑う。

その姿が篤郎は大好きだ。

照れ笑いで返すと、突然目の前に拳を突き出された。

「うぉッ」

仰け反ったアツロウの前で一本ずつ指を立てていって、最後に掌が見える。

「じゃ、来年は、50倍返しっていう事で」

「は?」

「レート同じじゃつまんないだろ、期待するからな」

「うええええッ?!」

楽しげな様子は、やはりちょっと意地悪でこれからも手が焼けそうだ。

勘弁してくれと泣きつきながら、それでも篤郎は次のお返しに想いを巡らせ始めていた。

別れるまで残り数メートルの帰り道。

二つの影はじゃれあいながら、綻び始めた春の大気をゆっくり進んでいった。

 

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来年なんかねーよ!東京異界化でンなノホホンとしてらんねーよ!とか(笑

でも魔王様がバレンタインチョコ作ってたら萌える…