そうして目覚めた朝は、少し気だるく、どこか甘ったるい気配を伴っていた。

ベッドからもぞもぞと這い出して時計を確認する。

そろそろ正午過ぎだ。

裸でいるには少し寒くて、和哉はクシャミを一つすると、用意されてあった肌着と部屋着に袖を通した。

昨夜の余韻がまだ残っている。

雨はいつの間にか止んでいた。

部屋を出て、廊下の影からコソリと覗き込んだキッチンから直哉が顔を出し、和哉を見つけた途端「おはよう」と声をかけてきた。

「起きたか、食事だ、席に着け」

「うん」

ダイニングテーブルに向かい、椅子に腰を下ろした和哉の前にパスタの皿が置かれる。

ミルクとオレンジジュース、どちらかと聞かれて、どちらもと答えた。

「相変わらず欲張りだな、お前は」

やれやれとぼやきつつ、和哉の席にグラスが二つ用意された。

ミルクとオレンジジュースを注いで、自分用にコーヒー、そうして向かいの席に落ち着くと、直哉は改めて紅い瞳を眇めながら「いただきます」と唇の端を吊り上げた。

「いッ、いただき、マス」

見詰められて急に恥ずかしくなった和哉の、俯いた頭上でクスリと笑う声が聞こえる。

「冷めない内に食べろ、腹が減っているだろう?」

「うん」

「お前くらいの年頃は食えば回復する、それに、食わんと持たないぞ」

「持たないって、何が」

そっと見上げると、直哉はニヤリと微笑み返してきた。

「母さんは今日の夕方まで戻らないんだろう?」

「うん」

「親父殿も留守で、お前と二人きりなら、都合がいいじゃないか」

「そ、そんな、昼間からっていうのは流石に、ちょっと」

「ククッ、何を勘違いしている?」

「え?」

「お前は受験生なのだろう」

直哉はフォークで上手にパスタを巻き取る。

「俺と同じ高校を受けるとはいい度胸だ、その心意気を買ってろう、勉強を見てやる」

「な、誰が!」

「まあ、頼まれずとも指導してやるがな、何せ、可愛い従弟のためだ」

「か、可愛いってッ」

「事実だろう?それに、ベッドではいつも自ら指導をねだってくるじゃないか」

「なッ」

ふざけるなと叫ぶ和哉を、直哉はパスタを食べつつ面白そうに眺めている。

「ああそうだ、和哉」

「何!」

「昨日のケーキの残りがあるぞ、どうする?」

「た、食べる、けどッ」

「ローソクもあるが、立てようか?昨日の続きだ」

「続きって」

「―――やれやれ、そういちいち反応されては白けるな、また今度、何度でも可愛がってやる、だが今日は食事が済み次第勉強だ、同じ高校を受けてお前だけ落ちては目も当てられん」

「な、何だよ!」

「もっとも、俺の志望動機は、近所だったから、だがな?」

「うッ」

「それとも何か」

ふと伸ばされた指先が、赤くなったり青くなったりしてフォークを握り締める和哉の顎をツッと撫でた。

「俺の可愛い弟君は、昨夜の続きをご所望か?」

「違う!」

手を払いのけ、そのままの勢いでガツガツとパスタを口に運んだ。

直哉は涼しい顔で笑って、ソースが飛ぶぞ、と余裕の表情を崩さないものだから、和哉も完全無視を決め込んでやった。

猛然と食事を摂る姿を、楽しげな様子が眺めている。

「和哉」

「何ッ」

「ケーキと一緒に、紅茶はどうだ」

「―――飲む」

「わかった」

(もう!ナオヤのバカッ)

下肢に残る甘く痺れるような感触に、まだ興奮が収まっていない。

昨夜体の奥深くに穿たれた直哉の熱。

もう一度、いや、もっともっと、同じように触れて欲しいと思う。

それでも、兄と共に在れる日がいつまで続くかなど、誰にも分からないから。

(俺は、今度ナオヤがいなくなったとしても、落ち込んだり悲しんだりしない)

他でもない直哉がそれを望まないから。

そして、和哉もこれ以上、甘ったれだと兄に馬鹿にされたくないから。

(俺の事は、俺が決める)

そうハッキリと思った。

同時に別の想いがふと脳裏を過ぎっていた。

(でも、兄弟って本当にあんなことまでするもんなのか?)

正直な話、昨夜の行為はまるで性交渉のようだったけれど―――

「和哉」

食事を終えた皿が片付けられて、目の前に煌めくルビーを擁いたケーキと香り立つダージリンが用意された途端、それはどうでもいい事としてあっという間に脳裏から吹っ飛んでしまった。

(ま、いっか、楽しかったし)

和哉の髪をさらりと撫でて、直哉は向かいの席に再び腰を落ち着ける。

胸を高鳴らせながら見詰めた姿は、相変わらず自信と余裕に満ち溢れていた。

(これが俺のナオヤだ)

頬張ったケーキの蕩ける甘さに心が和む。

差し出された直哉のフォークから皿に移されたいちごを見て、和哉は思わず笑ってしまった。

俺達の関係は何も変わらない。

これまでも、そして、これからも―――

 

「時に和哉」

「ん?」

「昨夜の件は他言無用だ、国内では普及していない類のスキンシップだからな、妙な勘繰りを受けかねん」

「そっか、向こうではよくしてる事なの?」

「まあ、随分と廃れてしまっているがな、仲の良い兄弟間で行う伝統的な行為だ」

「ふーん」

「和哉」

「ん?」

「―――だからこそ、俺の想いをよく汲み取れよ」

「はい、ナオヤ―――でも、そう教えられると、ちょっと照れ臭いなぁ」

「フフ、お前は素直なほうがいい、そのほうが可愛げがある」

「それ、そっくりナオヤに返すよ」

「昨晩も同じような事を言っていたな?まったく、暫く会わないうちに生意気になったようだ」

「意地悪な誰かさんに放っておかれたせいだよ、それと、俺も一応思春期だから」

「成る程、思春期、ね」

 

―――和哉が真相を知るのは一年後。

良心的な親友と知り合ってからの事となるが、それはまた別のお話。

 

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ちなみに直哉のプレゼントは例のネコミミですよ奥さん!

直哉が微笑んだり優しかったりしてますが、全部ネコちゃんの主観です。愛って怖い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アデュルトの皆様に朗報。

『ンなこと言ったって連続で読みてーよ馬鹿、いちいちリンク探さすなアホ』と私だったら思うので、

実はコッソリ繋いであります。超親切!

ヒントはおわりのはじまり、後は頑張れ、グッジョブ。

お子様の事は知りませんので悪しからず、何かあっても絶対責任取りませーん。