「NO-Title13」
「紅葉ぁ!」
制服の裾を翻してかけてくる光に、紅葉は一瞬だけ目を細くする。
図書館へ続く廊下の、他に誰もいない景色の中で色鮮やかな彼と、軽やかな靴音が響いている。
すぐ目の前まで来て立ち止まり、膝に両手を置いて呼吸を整え終わるまで紅葉は黙って待っていた。
「光」
「うん?」
顔を上げた光の額に、大きな手がぽんと置かれる。
「う、わ」
口元だけ見えて驚いたように一言漏らすのを、紅葉は構わず言った。
「廊下は走らない、学生手帳を読んでいないのか、君は」
何も言わない光は、そのままの姿でじっとしていた。
手を放した途端、顔を両手で覆って身を縮こまらせてしまう。
紅葉は少しだけ動揺して、何事かと様子を伺っていた。
そのままくるりと後ろを向いてしまったので、泣かせたのかと思い一瞬ぎょっとする。
(バカな、これしきの事でか?)
最強の名をほしいままにする少年が、ちょっと注意されたくらいで?
予想外の展開に動揺して困っていると、指の隙間からこちらをちらりと見た光の頬が僅かに赤かった。
「光?」
「・・・ちゃった」
「え?」
光はエヘヘと笑って、次の瞬間紅葉の胸に思い切り飛び込んできた。
衝撃で崩しかけたバランスを生来の敏捷さで踏みとどまると、見上げた顔が嬉しそうに笑う。
「紅葉におでこ触られちゃったー!」
キャー!と叫ばれた紅葉は一瞬硬直して、それから大慌てで光の口を手で塞ぐ。
「ひ、ひか、そんな事を大声で・・・」
コソコソ喋る彼の顔が赤い事を発見して、光はますます喜んだようだった。
「フゴフゴ(照れたの?)」
「ば、まさか、ちが」
「フゴフゴフゴ!(照れたんだ!)」
「違う!」
「フゴゴ、フーゴゴゴ、フゴフゴフゴ!(嘘だ!ぜーったいに照れたんだ!)」
「違うといっているだろうが!」
叫んだ声は廊下全体に響き渡った。
残った余韻にくらくらしつつ、しでかした衝撃に硬直している紅葉を光はニコニコと見上げている。
墓穴に自ら突っ込んだ彼は、やがて青ざめた顔で深々とため息を落とした。
「・・・もう、いい」
声がなんとも情けない。
「君には負けるよ」
「フゴフゴ(エヘヘ)」
可愛らしい様子を恨めしげに睨んで、口を押さえていた手を放すと光はプハッと息を吐き出した。
「くーれはっ」
憔悴しきった紅葉の首に、いきなり両腕を回す。
そして。
阻止するまもなく。
「んっ・・・!」
キスをされた。
「ひ、光〜〜〜〜〜!」
「エヘヘ、紅葉、図書室行くんだろ?早く行こうよ!」
そうして軽く腕を引っ張られて、思いのほか可愛らしい仕草にやっぱり何も言えなかった。
それでもその・・・悪い気のしない自分自身が、一番たちが悪いと思う。
(まいった)
彼を一番甘やかしているのは誰なのか、知っているのでますますうんざりする。
グッタリと肩を落として、けれども全然抵抗するそぶりも見せずになすがままに連行されていく紅葉の後ろ、隣を歩く光の影と、二人の影は寄り添いながら廊下に長く長く伸びる。
図書室にたどり着く直前、影はまた抜き打ちキスをしたのだった。
「ひ、光っ」
「ダーメ、好きなんだから、諦めなさい」
どうやら。
今日はまともに、読書など出来そうに、ない。
(完)
甘ぬるさの限界にトライ(笑)バカップル・・・か?