結構時間が経ったような気がする。
「聞かせられる用件は一つだけだったはずだぞ」
隣で寝そべったまま、こちらを向いて不満げに顔をしかめる龍麻に村雨はキスをした。
「これは一つじゃない」
「まあいいじゃねえか」
「よくない」
近づいてくる顔を「やめろ」と押しのけて、龍麻は仰向けに姿勢を直してしまった。
負けずに頬に唇を押し当てると、容赦のない手が額をパンと平手で殴る。
「いってえ」
「黙れ」
少し体を動かしてみて、もう動けそうだと判断して、半身起き上がろうとすると村雨が「おいおい」と情けない声で呼びかけた。
「もうちょっと休んでろよ、そんなにすぐ動けるほど手加減した覚えは無いぜ」
「当たり前だ、あんなのが手加減だったって言うなら、お前とするのはもう二度とお断りだ」
「それは」
またしてもいいってことなのかい?
聞こうとしてやめた。どうせ龍麻は怒るだろうし。
(まあ、次の機会はお楽しみにしておくか)
起き上がって彼は一瞬苦痛に顔をゆがめるようなそぶりを見せたが、息を吐いてベッドサイドに慎重に足を下ろした。
「く、力が入らないな」
「そりゃ当然だろ」
見かねて手を貸すと、汗ばんだ肌の感触に再び股間が熱くうずく。
「センセ」
支えるためにまわした両手で脇腹を掴み、肩に口づけると龍麻は無理やり立ち上がった。
「うっ」
ぐらりと傾いだ体を慌てて抱きとめて、目をやると腿に白濁とした液が伝って流れ落ちるのが見える。
いやらしい光景だった。混ざり合った体液の幾らかが、ポタポタ垂れて床を汚した。
「だ、大丈夫だから、離せ」
腕を振って逃れると、首だけで振り返った龍麻は僅かに頬を赤らめている。
「おい、ここって風呂は?」
「あ、ああ、そこのドアだ、便所と一緒に置いてある」
「そうか」
そのままふらふらと歩いていく後姿を見送って、バスルームのドアが閉まるのを眺めながら村雨はため息を漏らしていた。
「ったく、あんなに可愛かったのに、終わってみりゃ冷たいもんだぜ」
まあ、それは仕方の無い事なのだろう。
元々強引に賭け事を持ちかけたのは自分なのだし、ここまで上手く事が運ぶと思ってはいなかったが結果オーライだ。行為自体に不満が残ったわけでもない。
村雨の口元が僅かに緩んだ。
(不満どころか、大満足だぜ、先生)
少し前の龍麻の乱れ具合を思い出すだけで、勇ましくそそり立つ愚息を眺めながら苦笑する。
「お前の出番も、また今度、だな」
ややしてバスルームから出てきた龍麻はすっかり立ち直っていて、バスタオルを渡しながら村雨は複雑な心境だった。
「なあ」
どんどん衣服に包まれていくしなやかな肢体を名残惜しげに眺めつつ、全裸のままベッドサイドに腰掛けて口を開いた。
「なあ、先生よお」
「何」
「これから―――その、蓬莱寺の所に行くのは、ちょっとやめたほうがいいんじゃねえか?」
龍麻は振り返って村雨をじっと見た。
体を心配しただけの発言でない事など、とうに見透かされているような気がする。
意心地の悪さに眉根を寄せた村雨の側に、もうほとんど着替えの終わった龍麻が無言で歩み寄ってきた。
「せん」
その先をキスで打ち消されて、離れた美貌をまじまじと見上げた。
龍麻は、驚くほど艶やかな笑みを唇にだけ乗せていた。
「俺はもう帰るよ、お前も、今日は稼ぎに行くなよ?気は済んだだろ?」
予想外の反撃で固まった村雨を放置して、彼は軽やかに踵を返した。
「じゃあな」
学ランを羽織ながら靴を履き、ドアを開ける。
最後に一瞬だけ振り返って一言
「おやすみ、祇孔」
バタンと閉じる音で我に返り、沸き起こった笑いの感覚に村雨は半身を屈めた。
「クッ―――クク、ク!」
やってくれるじゃないか、あの美人は。
これでもう忘れられない、快楽を身に刻まれたのは間違いなく俺のほうだ。
「クク、ミイラ取りがミイラになっちまった、深入りはするもんじゃねぇなあ」
途切れない笑いをこぼしつつ、復活した自身を処理するために村雨は濡れたバスタオルを手繰り寄せた。
「まったく」
ベッドに残るしっとりした余韻と、あたりに漂う残り香に目を細くする。
たまらない、なんてヤツだ、緋勇龍麻という男は。
あの体を思い出しただけで、生唾を飲むような野郎にたった一回の行為で調教しやがって。
「京一のバカにゃ、ちいっとばかり勿体無いぜ」
こぼれた言葉が確信に変わるのに、そう時間は要らなかった。
花泥棒は罪にならない―――
村雨は乱れた龍麻の姿をつぶさに思い出し、今の自分の処理に取り掛かった。
ってどんな終わり方やねん(苦)なにはともあれしゅーりょー、ゲフ(吐血)