朋也が出て行った後の部屋で一人、深々と溜め息を漏らした。
「あれは反則だろ」
つい先ほどの光景が頭の中でぐるぐる回る。
間近で見た朋也は、普段感じていた以上にずっと綺麗だった。
長い睫も、うっすら青味がかった瞳も、淡い色の唇も、何もかも。
認めた途端、心臓は爆発しそうな勢いで鼓動を刻み、咄嗟に大声を上げてしまったけれど―――
(勘付かれなかったかな)
それだけが唯一気懸かりだ。
(けど、平気かも)
その後、抱きしめられて更に困った。
まったく困り果てた。
興奮し過ぎて鼻血が出るんじゃないかと気が気でなかった。
そんな事になって、まかり間違って衣服や部屋を汚しでもしたら、案外綺麗好きだった相棒の事だ、暫く口をきいてもらえなくなるどころか、最悪気味悪がられて縮めた距離を一気に引き離されていたかもしれない。
けれど朋也からは警戒心の欠片も感じられなくて、お陰様で頭だけでなく、胸まで多少痛い。
つまり向こうには微塵も『その気』がないという事だ。
はあ。
溜め息ばかり漏れる。
朋也の、普段の何気ない言動にも最近は特別の意味を見出そうとしてしまう俺は変態か?
(でも黒沢はまだ俺にちょっと距離持ってるよな)
どれほどの言葉を重ねても誤魔化せない、それは(直感)に近い、肌で感じる(真実)だ。
飛び越えてしまえれば―――そう思わない日は無い。
同じ温度で心が繋がる日がいつか訪れるのだろうか。
(でも)
形こそ違うけれど、朋也は確かに俺のことを他の奴らより想ってくれている様だし、優しくしてくれる、頼らせてもくれる。
だからこそのバランスの崩壊を恐れて、あと一歩が踏み込めない。
自分でも持て余し気味の感情は恋と友情のラインをいったりきたりだ。
(大体、グラビア見てお前思い出して勢い抜いてる俺ってどうよ、かなりヤバいんじゃねーか?)
―――今日は是非布団の下に自分を落胆させる希望の形を見出したかった。
(こうなりゃ意地でもエロ本の一冊や二冊見つけてやる!)
朋也だって男だ。
きっとそれくらい持っている、いや、持っているに違いない、是非とも所有していて欲しい。
そして間違いなく野郎だと、同性なのだと俺に思い知らせてくれ。
(でないと、俺は)
「うがあああッ」
痛む頭を放り出して、陽介は、朋也の机の引き出しに手をかけた。
部屋の持ち主が戻るまで、多分そう時間も無い。
見つかれば間違いなく怒られる、しかも、布団の一件を窺うに、恐らくはかなり厳しく。
(ま、まあ、最悪殴られるくらいは覚悟しておくか)
タンスに気持ちが向かうけれど、そちらはどうしてもパスだ。
間違って下着でも見つけてしまったなら、色々と自制心が抑えきれない予感がある。
(俺は、お前に逢うまでは、フツーに女の子が好きな健全男子だったんだぞっ)
なんだか情けなくて涙が出てきそうだ。
気を取り直した陽介は、部屋の主が戻るまでの短い間、心踊る探索に夢中になっていた。
引き出しを覗く理由が徐々に朋也の私生活を覗き見ることに摩り替わりつつあることに気付かずに―――
その後。
案の定、陽介の暴挙は朋也の知るところとなり、予想通りに怒られた。
けれどそれ以上に優しく手当てなど施されてしまったものだから―――結局、見つけられなかったエロ本の件も含めて、もてあまし気味の感情は更に膨れ上がり、陽介は心底困り果ててしまったのだった。
今日日のヤングはかつてエロ本がビニ本とか呼ばれてたの知らんのだろうよ、自販機で売ってたんだぜ!