「こーんばーんわ!」
白いモヤモヤした空間に立っていた。
声が聞こえたので振り返ると、そこは見覚えのある街角で、知り合ったばかりの少年が朋也を見ていた。
「こんばんは」
応えると、嬉しそうに近づいてくる。
「昼間はどーも」
「ああ」
「まっさか、知り合ったばかりの奴に腹ン中覗かれるとは思わなかったけどさ、でも、結構まいってたし、色々腐ってたし、ムカついたり割り切れなかったりしてたからさ、正直ぶっ飛ばしてくれて助かったよ、こじ開けてくれてスッキリした、アリガトな」
差し出された手を握り返すと、少年は懐っこく笑う。
「俺、さ」
その上に更に少年の手が重ねられた。
「こんな風に腹割って話した相手、初めてかもしんない、お前のコト気に入っちゃった」
「そうなの?」
「うん」
キラキラ輝く金色の瞳と見詰め合っていると何かの面影が浮かんでくるようで、ぼんやりしていた朋也は、その正体がはっきりした途端ついアッと呟いてしまった。
コイツ、犬に似てるんだ。
「そうだよー」
少年も頷き返してくる。
「自覚あるぜ、俺、犬っぽいから、懐くと絶対服従だけどしつこいしウザイし絡みまくる!」
「そんなの迷惑だ」
「お前は猫っぽいよな」
「知らない」
「そういうトコ、素っ気なくって猫っぽい、カワイイ」
男相手に何言ってるんだ、コイツ。
呆れていたら、突然ガバッと抱きつかれた。
少年はくるんと丸めた尻尾をめいっぱいに振って、朋也の肩に顔を擦り付けたり頬を摺り寄せたりした挙句、背中をバンバン叩きながら「これからよろしくな、相棒!」と一人ではしゃぎまくっている。
「お前に会えて嬉しい!俺ら、もう友達だよな!」
「えっと」
「俺、もうダッセエばっかりの卒業して、町を救う格好いいヒーローになるんだ!」
「面倒だな」
「ンなこと言って!実はお前も面白くなってきたって思ってんだろ?」
「少しは」
「だよな?そうだよなー!それにさ、先輩の仇も絶対討たねぇと―――」
俄かに声のトーンが落ちる。
けれど、すぐまた元の調子に戻って「ってなわけで、よろしくな!」と抱きしめる両腕に力が篭められた。
「おい!」
息苦しくて背中を叩き返すと、急に起き上がった少年と目があって―――軽く微笑みかけられると、そのまま、チュッと唇が触れ合う。
「俺らはもう友達!俺、全力でお前ンこと好きになるから、お前も全力で好きになって、それと、もし裏切ったら―――容赦しないからな?」
「俺はまだお前にそこまで興味がないよ」
「俺があるからいーの!これから楽しくやろうぜ!」
大事にするから。
再び抱きしめられて、頬をスリスリと擦りつけられる。
「ずっと一緒だからな」
額が肩に乗せられた。
「離さねーから、お前のこと」
「束縛されるのは苦手」
「ヤダ、俺は束縛する、だから、俺に優しくして、俺の事甘やかして、絶対に俺を裏切らないで」
「裏切ったりはしないよ」
「ん」
―――周囲のもやが濃くなってきた。
「なあ」
合わせて、少年の声と感触も曖昧になっていく。
「俺さ、一人ぼっちはイヤなんだ、ここじゃ優しくしてくれる奴なんて殆どいねえし、だから、ずっと傍にいて」
「それは約束しかねるな」
「何で」
「でも、本当を言えば、俺も一人は苦手なんだ」
「じゃあ俺も傍にいてあげるから、二人でずっと一緒にいようぜ、ずっと、ずっと、なあ―――相棒」
離れないから―――徐々に意識は遠くなり、闇に吸い込まれて、消えた。
―――翌日、放課後。
いよいよ厄介ごとに巻き込まれてしまったぞと、隣で自転車を引きながら楽しそうに話している陽介を眺めていたら、不意に「そうだ」と話を振られた。
「お前さ、昨日」
「ん?」
「あ、いや、テレビの話とかじゃなくて、何つーか、えっと、夜なんだけど」
しかし陽介自身要領を得ていないらしく、「うーん」と唸って、しまいには「あれ?」と首を傾げた。
「お前さ」
「うん」
「昨日、寝てから俺と逢わなかった?」
「夢で?」
「―――んなわけねえよなあ」
アハハと笑う陽介の顔がうっすら赤く染まって見えるのは気のせいじゃないだろう。
朋也も妙な心地がしていた。
何故か分からないが、下腹の奥の方がムズムズするような、セクシャルな感覚。
でも、その理由が全く分からない。
(それに)
昨晩、確かに―――陽介と会ったような気がする、そんな筈無いのに。
微妙な空気を払拭すべく、努めて明るく振舞う陽介に調子を合わせてやりながら、予感めいた感覚はなかなか消えてくれなかった。
夢の逢瀬で結び合った糸は、果たして胡蝶の夢であったのか。
それを知る者達は、今は口を閉ざし、ぎこちない二人の行方を見守っていた。
陽介と朋也のシャドウでも、宿主と同じレヴェルで仲良くなると思います。
スサノオとイザナギ大神でいちゃついてるのってロマンだ。