「ちっくしょ、里中の奴!」

眼下で粟立つ茶色の髪は、まるで犬でも洗っているかのようだ。

溜息交じりに朋也は両腕を動かす。

豊かな乳房がワサワサと揺れて、飛散った泡が肌のあちこちについている。

 

あの後―――

撃沈された陽介はクマに連れられ外の世界へと退場し、朋也は少女たちの持って着てくれた洋服に着替えた。

肌のあちこちに散らされた痣は、まさかほんの少し前同級生の男子が残したものと思われるはずもなく、先輩怪我だらけだね、とりせの暢気な発言に多少胸が痛かった。

悪い事をしている。

罪悪感ばかりが増して、けれど拒みきれない自分もいる。

(俺は、自分で思ってる以上に、もしかしたら花村が好きなのかもしれない)

様々な思いが入り混じり、小さく吐息が漏れた。

着替えを済ませて、テレビの中から出て行くと、家電売り場の隅のほうで、いじけた背中がクマに慰められていた。

「クマだって見られなかったクマよ」

「うるせえ、ほっとけ」

―――馬鹿。

仕方ないと思いつつ、やはり手を伸ばしてしまう。

その繰り返し。

つくづく呆れる。

仲間達と別れて、どうしても付き合うといって聞かないクマを交えて夕飯の買い物を済ませて、その後、クマはやはり陽介によってテレビの中に追い返されてしまった。

(でも多分、誰かをコッソリ頼っていくんだろうな)

本日の献立はエビピラフ。

付け合せにトマトとセロリのサラダ、食後のグレープフルーツは一つを二人で半分にして食べた。

陽介は劇場での一件をあまりよく覚えていない様子だった。

「夢中だっただけだよ」と告げられて、照れたように笑うものだから、本当に困ってしまう。

(お前はどれだけ)

この感情を、何と言い表せばいいんだろう。

―――陽介みたいな相手に出会ったことがない。

一時に訪れて心を揺らす想いの波に、戸惑いながら朋也はただ優しいだけの笑顔に向かって尋ねたのだった。

「俺に何かして欲しいこととか、あるか?」

 

(―――それで今の状況)

風呂場でプラスティックの椅子に腰掛けた陽介は、立てた膝に両腕を乗せて猫背で楽しげだ。

その背後に立って、朋也は陽介の頭を洗ってやっている。

陽介からのオーダーは『お風呂に入れて』

子供っぽいおねだりに、何だそんな事かと快諾したが、後になって気付いた。

昨日今日と散々遭遇した状況じゃないか。

二日間、この場所で繰り返したっぷり愛し合ったというのに。

(俺は馬鹿だな)

内心グッタリ脱力している。

至らない自分に僅かに腹が立つ。

犬を洗うみたいなものだ、そう思い込もうとしたけれど、ハッキリ言おう―――こいつは犬じゃない。

「なー朋也」

「何?」

「右の方ちょっと痒い、掻いて」

「はいはい」

「あと泡が目に入りそう」

「ガマンしろ」

「ええーっ」

シャワーのノズルを手に取り、目と口を閉じろと告げて、洗い上がった頭の泡を流していく。

眼下に見下ろす陽介の股間の愚息が若干元気になっているのが鬱だ。

更に煩わしいのは、何か期待して潤み始めている自分の体、うんざりする。

(どうにも興奮するな)

困った。

(コイツも同じ気分なのかな)

更に困る。

女の体になってから、二人きりのときはもれなくいやらしい行為に精を出している気がする。

―――男だった時も結構頻繁に睦み合っていたようにも思うけれど。

トリートメントを施して、オレンジ色のナイロンタオルに手を取った。

折りたたんでボディソープを付けようと陽介の脇から腕を伸ばすと、髪に触れられる。

振り返った朋也に、陽介が唇を重ねた。

「―――風俗でもしてるみたいだ」

「へへッ、俺今すっごい楽しい」

「お前の趣味が段々分かってきたぞ」

「そりゃ良かったな」

こいつ、と思いながら、朋也は泡立てたタオルで陽介の体を洗い始めた。

背中を擦り、腕を擦り、首を擦ってから、背中越しに体の前に腕を回す。

胸の辺りをタオルで擦ると陽介が変な声を出すものだから、咄嗟に頭を平手で叩いていた。

「った!?何すんの」

朋也はつんとそっぽを向いて、構わず作業を続行させる。

腹から腿へ移り、足を洗って、そして。

「―――で?」

急に動きを止めた朋也に、期待を孕んだ背中越しの声が呼びかけてきた。

朋也は、今、陽介の背中に胸を押し当てるようにして、伸ばした両腕の先を陽介の腿に置いている。

片手で肌を掴み、片手には泡立ったタオル。

暖かな肌に頬を押し当てて決断をためらう。

「とーもやくんっ」

陽介の両掌が朋也の手の上に重ねられた。

「いっちばん大事なところがまだキレイになってませんよー?」

「うるさい」

「ひっでえなあ、ココが汚いと、お前も病気になっちゃうんだぞ」

「ならない、なんでだ」

「わかってるくせに」

「―――握りつぶしてもいいか?」

重ねられた両手がビクリと震えた。

「―――勿論冗談ですよね?」

答えない朋也に、お前にとっても大事なトコでしょ!?と半泣きの声が浴室に響く。

「なあ朋也、黙ってると怖いから、何かするか言うかしてよ!勿論触ってくれてオッケーだけど、握り潰されるのはちょっと、っていうか真面目にヤバイから止めて、ホント死んじゃうから絶対止めて!」

(するわけないだろ、馬鹿)

陽介は何をそんなに興奮しているんだろう。

(俺も、もう十分興奮してる)

信じられない事だが、女の体になって以来、この異常な状況を楽しみ始めている自分もいて、けれどそれはどうしても認められない事だから、朋也の内側でジレンマが渦を巻いている。

陽介が悪い。

多分、切欠としてはそうだ。

しかし自覚していた以上に嵌り込んでいた自分を思い知らされて、多少の自己嫌悪も感じている。

暢気にこんな事ばかりしていいような状況でもないのに。

―――頭がズキリと痛んだ。

「なあ、朋也ぁ!」

(ああもう、うるさい)

絡まり、もつれきった状況と心にいい加減嫌気が差して、朋也はパッとタオルを手放すと、そのまま両手を陽介の股間に進めた。

探り当てた半立ちの男根を掌に収め、泡塗れの手でにゅぐにゅぐと洗い始める。

「うおっ」

途端陽介はビクリと体を震わせておとなしくなった。

「っは!」

熱い吐息と共に朋也の腕に手を這わせる。

「あ、ハァ、はッ、と、とも、やッ」

「―――気持ち良い?」

「ん、ふッ、ぅあ、はぁ、ア、スゲー、いいっ」

しなやかな掌が熱を帯びた表面をスルスルと擦り、もう片方の手の指先で亀頭をこね回す。

先端部の窪みを指の腹で擦って、広げるようにクチュクチュと刺激すると、陽介は喉を鳴らしながら体中震わせた。

「あっ、や、だ、ダメ、朋也、それ、ヤバイッ」

元は自分にもついていた器官だから、何をどうすれば気持いいかは、手に取るように判る。

(悪乗りしてるな、俺)

陽介の反応がいいからかもしれない。

わざと背中に乳房を押し付け、いきり立った陽介の性器を弄るように洗う。

本当に風俗サービスのようだ。

朋也の手の中で硬くなった陽介の男根は、今にもはちきれそうな様相を呈している。

白い泡にまみれ、股間でビンと立ち上がる赤黒い姿。

背中越しに覗き見て、思わずゴクリと喉が鳴ってしまった。

陽介は荒い呼吸を繰り返しながら、眼下の光景を目の縁まで赤く染めて食い入るように見詰めている。

指先で男根の下の柔らかな部分を探り当ててそっと揉んでみると、陽介は朋也の腕を握り締めて、泣き出しそうな声で喘ぐ。

「と、ともや、それダメ、イッちゃう!」

「いいよ、イッても」

「ヤ、ダ、俺、お前にして欲しい事あるから、だからっ」

「何?」

肩越しに陽介が振り返った。

「俺のちんちん、お前のおっぱいで挟んで」

―――は?

「えっ」

何?

―――間。

きょとんと見上げる朋也を切なく見下ろす陽介。

鳶色の瞳は小さな子供がおねだりをするような雰囲気でじっとこちらを窺っている。

朋也はもう一度、え?と訊き返した。

「だから、お前が今洗ってくれてる俺のチンポ、お前の巨乳で挟んで欲しいなーって」

「俺の?」

「そう」

スルリと手が解けて、陽介はハッとしたような表情を浮かべる。

そのまま項垂れる様にして座り込んでしまった朋也を見詰める気配があった。

(これは)

―――どう応じるのがいいんだろうか。

その一、怒鳴りつけて浴室を飛び出す。

その二、勢い殴って納得行くまで謝罪させる。

その三、先案を実行して、二度と復活できないようなダメージを与えてやる。

「朋也?」

戸惑いを孕んだ呼び声。

―――優しい響き。

最近は耳に一番馴染む声。

朋也は自分の乳房をそっと手で持ち上げてみた。

(でかいよな、やっぱり)

規格外のサイズだ、多分知り合いの少女たちの誰よりも大きいに違いない。

フニフニと柔らかな感触を確かめて、やれるな、と、結論付けていた。

不本意だが、これは、挟めるサイズの乳だ。

陽介を見上げる。

目が合った途端、顔全体を、それこそ擬音がつきそうなほど真っ赤に染めて、あたふたと慌てる様子を眺めながら立ち上がった。

「と、と、朋也ッ」

陽介の正面に回りこんで、脚の間に膝をつく。

乳房を両手で持ち上げると、ゴクリと喉の鳴る音がした。

そのまま暫く陽介の股間を眺めて、見上げたら、完全に期待していた表情の姿がビクリと震えながら僅かに仰け反り、息を呑む。

「陽介」

「な、何?」

「位置が低すぎる」

「へ?」

「ちょっと立ってみてくれないかな」

わかった、と答えて、あたふたと椅子から立ち上がった。

目の前に性器を突きつけられるような格好になり、今度は高すぎる、と、小さくぼやきながら朋也はどうしたものかと考えをめぐらせる。

(高さ合わせがネックになるとは)

「と、朋也ッ」

余裕をなくした陽介の声。

小刻みに震えている。

恐らくは―――興奮のし過ぎで、あと少しのところまで追い詰められているのだろう。

目の前でプルプル揺れる男根の先端を、ふと思いつきで舐めてみた。

僅かに苦味を孕んだ雄の臭気に顔を顰めた途端、頭をグッと押さえられて、陽介が「あ、あ、あッ」と小刻みに声を漏らしながら戦慄く。

まずいと思う間もなく、張り詰めた先端からビュッと劣情が吐き出されて―――朋也の顔面を直撃した。

熱くて青臭いトロッとした精液が、閉じた瞼の上や、鼻、唇を汚し、顎を伝って喉に滴り落ちていく。

多少鼻腔や口に入ってしまった。

射精が落ち着いて、溜息交じりに顔を拭う朋也に、頭上から「ゴメンなさい!」と必死の声が降ってくる。

「ご、ごめん!朋也、ホントゴメン!すんませんでした!俺さ、その、その、俺ッ」

とりあえず手をどけろと促して、半泣きで抱きつこうとした陽介を視線で牽制する。

出鼻をくじかれた陽介の両手は、朋也の肩に乗せられた。

「いいよ、もう」

「ふぇ?」

ヌルヌルする陽介の精液を指先で拭い取っていく。

「今更だし―――それより陽介、バスタブに腰下ろしてみてくれないか」

「は、はい?」

丁度高さが合うような気がするんだ。

気持ち、目線を逸らしつつ、告げた朋也をじっと見詰めて、陽介が「わかった」と答えた。

フラフラとバスタブの縁に腰を下ろし、足を広げる。

今射精したばかりの陽介の男根は多少クッタリしているものの、まだ有り余る精力を全体に漲らせていた。

(頭がおかしくなりそうだ)

―――ここ数日の性交渉。

陽介の性器を間近ではっきり見た回数は少ないけれど、体に刻み付けられた快楽の記憶が目の前の光景と結びついて体の奥に熱い疼きを呼び起こす。

細い朋也の喉がゴクリと鳴っていた。

陽介の両手がバスタブの縁を握り締めている。

脚の間に入り込んで、両手で乳房を押し上げ、その谷間に―――陽介の男根を挟み込んだ。

「うっ」

小さく声が漏れた。

 

:長いので分割します、長いなあ…