四月某日―――初めて降り立った無人駅に軽く衝撃を覚えたものだ。
都会では考えられない、人の善意のみによって成り立つまさかのシステム。
まあ、多少の無賃乗車も発生しているだろうとは思うけれど。
それでも収益が上がる程に利用者の数が少ないのだろう、むしろ人を配置するコストの方が割高に違いない。
(今、何時くらいだろう)
稲羽の駅に降り立つと星が綺麗だった。
夏特有の緩い夜闇が纏わり付き、時折抜けていく風が火照った肌に気持ちいい。
電車を降りたとき、他に人がいたように思う。
朋也は陽介に抱えられるようにして駅を出たすぐの自販機の傍に連れて行かれると、ジュース飲む?とろくに返事も聞かず買い与えられた炭酸飲料をひと口、ふた口、飲んでいた。
(静かだ)
―――あまりに非日常が続きすぎて、徐々にまともな感覚を失い始めているような気がする。
(っていうか、そもそもまともってどういう事だ?)
世間一般的に、それが当然と思われている事象?
(それなら今の俺は、まとも?)
これまでがむしろ常軌を逸脱していたのだろうか―――わからない。
(この花の匂いは何なんだろう)
甘く官能的な香り。
知っている気がする。
昔植物園で見た、両親と過ごした数少ない思い出の一つ。
不意に腕を引かれた。
朋也はゆっくりと顔を上げた。
「陽介?」
「ちょっと向こう行こう、来て、朋ちゃん」
「ふあッ、は、ああッ」
ずっ、ずぽ、ズッ、と。
「あッ、あッは、あッ、アッ、はあああんッ」
闇が揺れる。
「朋也、朋也ッ」
背後に圧し掛かった陽介の荒い息遣い。
(何で、こんな)
八十稲羽駅の―――駅前にある駐車場の、一番奥に停めっぱなしにされた車の、陰で。
「やッ、はッ、や、やだ、やだッ、ヤダぁッ」
スカートを捲り上げ、ショーツを膝まで下ろされて。
「んッ、朋也、朋也ぁ」
ぱちゅ、ぱん、ぱん、と。
「ひ、ああッ」
臀部に腰を打ち付けられる。
外気に晒された陰部に、陽介の雄が何度も出入りを繰り返す。
漏れ出した愛液は腿を伝い落ち、陰茎の根元が花弁にあたる度、ぱちゅん、ぱちゅんと露を散らす。
背中に乗り上げた陽介が深々と性器を朋也の内側に収めたまま、服の内側に忍ばせた掌でブラジャーを押し上げ、乳房をグイグイと愛撫する。
うねるように腰を動かされて、中をかき混ぜられて、朋也は埃っぽい車の側面に爪を立てるように掴まりながら、ああ、ああと艶やかな声を漏らしていた。
「や、めろ、陽介、こんなの、ホントに、誰かに見られたら」
「今更無理でしょ、朋也の中、俺のことキュウキュウ締め付けてんのに」
「ダ、メ、抜い、て」
「一回イッたらね」
ちゅ、と頬にキスされた。
乳首をコリコリと揉まれて、ひああんと声が出る。
「やッ、は、はあ、お願い、もう、いい加減に、してッ」
「俺も限界、はちきれそう」
「抜いて、外で、出して」
「いい加減諦めなさいッ、んッ、パンツぐちょぐちょなんだから、今更同じだろ、家帰って洗濯しよ、な?」
「そういう、問題じゃ」
「あッ、ダメ、朋也、そろそろイクッ」
首筋に強く吸い付いてから、体を起こした陽介が、朋也の尻を両手で掴んで激しく腰を打ちつけ始めた。
「やあッ、ヤッ、あッ、あッ、あッ、ああッ」
暗闇に、水の泡立ち、飛沫飛ぶ音と、肌を打ち合うパンパンという音が秘めやかに響き渡る。
膣壁を擦り上げて、朋也の中を出入りする陽介の雄が、何度も奥を突き上げる。
腹の底を穿たれるたび、足がガクガクと震えてまともに立っていられない朋也は、車に縋りつくようにして最早意味を成さなくなった言葉を垂れ流しながら荒い呼吸を繰り返していた。
(熱い)
頭の奥がジンジンする。
(痛い)
耳鳴りがする。
花の香りが漂う。
陽介の動きにあわせて、乳房がユサユサと揺れている。
唇から零れた唾液が顎からコンクリートに伝い落ち、朋也はキュッと目を閉じた。
陽介に一際深く貫かれ、そのまま、ビュクビュクと腹の底に吐き出される劣情を感じ取りながら身震いをする。
蕩けた陰部は精を放つ雄を歓喜とともに締め付け、朋也も熱く満ち足りた息を深々と吐き出していた。
射精が落ち着くと同時に車に縋りつくようにしてへたり込んだ背中に陽介が圧し掛かってきた。
「朋也」
前に廻された両腕でキュッと抱きしめられながら、肩で息を繰り返す。
「しちゃったな、外で」
「しん、じ、らん、ないッ」
「帰るまで我慢できなかったんだもん、許してよ」
「結局今日ってお前が愉しむために俺を連れまわしたんだろう?」
「違うって!ホントに気晴らしさせたげたかったのッ」
チュ、と首筋に口付けされて、今度は呆れた溜息が漏れていた。
―――流された自分にも問題はあると思うが。
(今日はもう、疲れた)
最近余り眠れていないせいかもしれない。
陽介はどうしてこんなに元気なんだと多少うんざりする。
状況だけ見れば、同じ様に過ごしていて明らかにこいつのほうが精力漲っている。
(それも、全部、そうなのかな)
―――この事が理由なのか?
朋也、と囁かれながら、内側に納められていた質量がずるりと引き抜かれた。
同時に溜まっていた精が零れだしてきて、朋也は思わず花弁に触れると、指を汚した青臭い汁を口に含んだ。
間を置いて、蕩けた笑顔の陽介が「舐める?」と覗き込んでくる。
「いい、いらない」
「じゃ、家に帰ってからしてよ」
「この上まだ俺に奉仕しろって言うのか」
「まだ、じゃない、今日はまだ貰ってないよ」
さ、パンツ穿こっかと手を貸されながら、朋也はボンヤリ陽介と背後の夜空を眺めていた。
濡れた下着の感触が気持ち悪かったけれど、それ以上に不気味な何かが胸で蠢いているように思う。
(何だろう、これは)
花の匂いがする。
(誰なんだろう)
そんな事を思いながら、そっと目を閉じた。
―――夜気に紛れて濃厚な花の香りが辺りにしっとりと満ちていた。
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