一通り話し合いも終わり、脱衣所で服を脱ぎながら朋也は頭の中を整理している。

まず、件のシャドウを見つけ出す事、これは明日以降極力早く達成できるよう最優先で行う。

そのためにジュネスがオープンしたら即テレビの中へ潜り、途中休憩を挟みつつ閉店まで可能な限り粘る。

仲間達にもその旨をすでにメールで連絡しておいた。

返信メールは全員快諾、朋也は改めて仲間の大切さと有難さを噛み締めた。

それと並行して、朋也に起こった異変の原因も可能な限り突き止めてみようという話になった。

こちらは雲を掴むような話で皆目見当もつかないが、恐らくは、やはり件のシャドウが鍵になっているに違いない。

それでも、テレビの中に潜っているうちに、別の何かが見えてくるかもしれないというのが陽介の意見だった。

何か思い当たる節は無いかと尋ねられた朋也の脳裏をあの言葉が過ぎった。

しかし朋也は陽介に「ない」と答えた。

まさか、理由になるはずもない。

それ以上に今更口に出すのも嫌だと改めて頭を振った。

(俺がしつこく覚えているだけの言葉、言ってみたところで何になるっていうんだ)

脱いだTシャツとトランクスをカゴに放り込んで、風呂場のドアを開ける。

濡れた床を素足で踏みながら、掴んだハンドルをキュッと回せば、勢いよくシャワーノズルから温水が噴出した。

(とにかく、明日から)

頑張ろうと目を向けた、浴室に備え付けられた縦長の姿見に見知らぬ少女の姿が映っていた。

「うわ」

咄嗟に声を上げて仰け反る。

―――それは、まだまともに見ていなかった、女になった自分自身。

豊満なバスト、くびれたウエスト、キュッと引き締まったヒップ、そして、すらりと伸びた手足。

「うわあ」

朋也はうっかり見惚れてしまう。

顔さえ見なければ、自分でも生唾を飲むほど魅力的な肢体が映し出されている。

(しかも鬱陶しいくらいの美少女)

改めて確認した首から上は、元々容姿にそれなりの自信を持っていた朋也も思わず閉口してしまうほど、女顔だった部分が強調されて、文句のつけようの無い美形に変貌を遂げていた。

(今更思い知らされたけど、俺ってやっぱり母さんに似てたんだな)

睫の長い二重の大きな瞳、スッと通った鼻筋、ふっくらとした赤い唇。

複雑な心境を持て余しつつ、二の腕まで伸びた銀の髪をそっと手櫛で梳いてみる。

サラサラとした絹糸の様な感触が指の隙間から煌めきながら零れ落ちた。

肌は男のときより更に白く、殆ど青ざめて見えるほど透き通っているのに、触れた感触は滑らかで暖かく、吸い付くように指先に馴染む。

―――これは、ひとたまりもなかったかもしれない。

(まあ確かに、女の体は柔らかいなと思っていたけど)

童貞の初体験がこれではトラウマになってしまうだろう。

もっとも陽介の今後の女性体験など知ったことかと気を取り直して、シャワーノズルを手に取った。

これほどの体、堪能できただけ有難く思うといい。

ふと、その白い柔肌に散らされた、幾つもの赤い痣に気付く。

途端体の奥がズクンと疼いた。

男を味わったばかりの朋也の陰部が、まだ新しい快楽の記憶に過敏に反応しているようだった。

「ああ」

陽介の指使いを思い出す。

(嫌だ)

唇の感触と、熱っぽい吐息を思い出す。

(こんな事で興奮するなんて、どうかしてる)

突き上げる衝撃、体温、混ざり合った喜び、迸る快感を思い出して、ついに全身がブルリと震えてしまった。

「―――っつ!」

朋也の指先は、知らず、自らの股間にスルリと滑り込んでいた。

秘蜜の零れる花弁を押し開いて内側をまさぐると、ぬるついた感触が纏わりついてくる。

片方の手を乳房にやって、荒い呼吸と共にゆっくりと愛撫を始めた。

―――バカみたいだ。

(陽介と一つ屋根の下にいるのに、あいつのこと考えて、一人でこんなことして)

しかも、性別逆転なんて異常事態に見舞われているくせに、変わり果てた体で暢気に愉しんで。

(俺って変態だったのか)

ショックで力が入りすぎて、強く揉んだ胸がズキンと痛む。

(違う、そうじゃない、気持いいのはもっと、こう―――)

優しい愛撫で痛めた乳房を慰めながら、根元まで突き込んだ指をぐいぐいと動かし内側をかき混ぜる。

少し冷たい鏡の表面に背中を預けて、朋也の唇から乱れた呼吸が漏れ始めた。

頭の芯が痺れていくような感触に酔いしれていると、何の前触れもなく、脱衣所からくぐもった声が呼びかけてくる。

「―――黒沢?」

びくり。

瞠目した朋也は息を呑み、急いで指を引き抜いてシャワーで洗い流しながら、磨りガラスの向こうを窺った。

「―――何?」

「あ、あのさ!―――その」

磨りガラスに掌が押し当てられた。

確認した途端、更に鼓動が早くなる。

「ドア、開けてもイイ?」

固唾を呑んで、勘付かれないように、必死で冷静な声を心がけた。

「何で?」

「いや、えっと、さっきの今で悪いんだけど」

一緒に風呂、入りたい。

陽介の声が頭に響く。

胸元でキュッと手を握り締めると、震える体を沈めるように、朋也は深呼吸を一つした。

今更。

(拒めない)

内股に触れて感触を確かめる。

朋也の「いいよ」の声を聞いて、控えめに扉が開かれた。

浴室で湯気に紛れる姿を確認した陽介は、気色ばんだ表情と共に喉を鳴らしていた。