※『GROOVIN' MAGIC』番外編
「Spring Snow」
ひんやりとしたガラスの感触が、おでこに気持いい。
息を吐くたび、透き通った表面は白く雲って、それがじわじわ消えていくと、向こう側は一面の銀世界だ。
空から、幾つも、幾つも、白い塊が強い風に煽られるようにして吹き乱れている。
「きれい」
呟いた声がまた窓ガラスを曇らせる。
カーテンの内側で、ボンヤリしていたら、背後の帳がいきなりシャッと左右に開かれた。
「何やってんだ」
振り返ってちょっと仰ぎ見た、相変わらず眠そうなマヌケ顔。
「寒いぞ」
「だから気を使ってカーテンの中に入ってたんじゃない」
「バカ」
そのままギュって後ろから抱きしめられて、また寒いって繰り返された。
「冷たい」
「じゃあ放してよ」
「イヤだ」
「もー」
何なのよ!
甲太郎がやたらほっぺたをぐりぐりこすりつけてくるもんだから、頭を一発バシリと叩いてやったら、恨めしそうに睨み付けられた。
鬱陶しいヤツ、でも、大好き。
はい、お久しぶりです!玖隆あかり、もとい、水代あかりです!
皆様お元気にしていらしたでしょーか?
って言っても、あんまり時間が経ったわけじゃないんだけどね。
例の、まだまだ少ないあたしの人生経験においての、最大にして最強の相手との頂上決戦から約半月。
新しい年を迎えるのと同時に、日本の高等教育機関最後の学期を迎えた天香学園3年生のクラスに、あたしはまだ在籍中です。
まあ、本来なら任務終了後は速やかに撤収せよっていうのが、ロゼッタ鉄の掟なんだけどね。
そんでもってここでの私のお仕事は、一応無事に完了しているわけなのですが。
(色々思うところがあって、まだこうしているわけなのよ)
鼻の下と上唇の間に鉛筆を挟んで、落とさないようにしながら黒板をボンヤリ眺めているあたし。
(今、間違いなく変な顔してる)
ヒナせんせがなるべくこっち見ないようにしてるから、わかる。
年末にアレだけの騒動があって、一件は天香学園の名前と一緒にメディア媒体でちょこっと騒がれたりもしたんだけれど、それは大人の事情というか、裏社会の圧力というか、ともかく、色々な方面から様々な力が働いたおかげで、年が明けてからこっちは平和そのもの、あたしも気が抜け放題。
一応、ハンターとしての責務というか、正直に言えば興味120%で遺跡の最終内部確認実施っていう目的もあったんだけどね。
(できなかったんだ、ちぇ)
出入り口に使用していた墓地の大穴が塞がっちゃってて、乙女の根性でもどうにもなんなかった。
(やっぱロストなんだろうなあ)
報告書にもそう書いたし、私もロストとして認識するしかないのか。
つまんない。
何もしてなくても、何かしてても、毎日は同じ様に過ぎる。
あたしはどうにかしてヒナ先生と視線を合わせようとして、先生の動きをずーっと目で追い続けてる。
(寒い)
それにしても、年が明けてからこっち、この都市にしては珍しいくらい、よく雪が降る。
甲太郎いわく『ロマンチストの欠片も無い』あたしは、これも温暖化のあおりを受けた異常気象の一つだって捉えているけれど、あのモジャモジャ男はこの間ボンヤリ空を見上げながら、こんな喩え方していたっけ。
「レクイエムみたいだな―――まるで」
(何言っちゃってんのさとか、思ったけどさー)
でも、もしかしたら、墓地の呪縛に縛られていた子達は、みんな同じ様に感じているのかもしれない。
魂の治癒と鎮魂、そして、浄化。
雪には何となくそんなイメージがある、それくらいはあたしにだってわかる。
まあ、ただ、あたしからしたら、シロップかけて食べると案外おいしいってぐらいしか浮かばないんだけど。
(あ、でも、大型都市に振る雪はイヤかも、核が廃棄汚染物質とかで出来てるだろうから、体に悪そう)
おっ、目が合ったぞ。
瞬時にヒナ先生が噴出すのを見届けて、あたしは鉛筆を外しながら、窓の外に目を向けた。
相変わらず凄い雪だ。
甲太郎が寒がって擦り寄る口実にするに違いない。
(今夜はお鍋にしてあげよう)
まあ、あたしも、イチャイチャするのはやぶさかでは無いんだけどね。
うっすらとほの暗い空から止むことなく降り注ぐ雪は、見ているだけでも寒々しくて、あたしはブルリと体を一つ震わせたあと、また正面に向き直ると、今度はちゃんと手に鉛筆を持った。
(続)