冬の朝は寒い、当たり前なんだけど。
毎日バシッと目が覚めるあたしも、寒いのだけはやっぱりちょっと苦手だから、手近な温もりを求めてベッドの中でもぞもぞ腕を伸ばした。
すぐに見つけた人肌の温かさにきゅってしがみついて、満足してニンマリ。
あったかいな。
(こうたろーッ)
おでこをグリグリって擦りつけながら、ふと「あれッ」ってなって、顔を上げた。
爆睡中なのかな。
普段なら、抱きしめ返してくれるのに。
あたしはむっくり起き上がって、寝顔を覗き込んでみた。
いつもと何も変わんない。
睫が長くて、彫が深くて、改めて確認しなくても結構な男前、惚れ惚れしちゃう。
(って、そうじゃなくて)
とりあえず、鼻を摘んでみた。
―――起きない。
今度はおでこをぴしゃりと叩いてみる。
―――起きない。
ほっぺたをピシャピシャ叩いてみても、全く反応ナシ。
(それならこれでどうだッ)
最終手段、滅多にしないあたしからの熱烈なキス―――だって、恥ずかしいんだもん!
唇の隙間から舌を入れて、舐めて、絡めて、しゃぶり付いて、これだけやれば目も覚めるでしょッ。
でも、甲太郎は起きなかった。
内側で何かが、ざわざわ、ざわざわ、音を立て始める。
あたしは甲太郎をじっと観察する。
いつもと同じ。
何も―――変わらない?
(待って)
違う、そうじゃないでしょ。
よく見ろ、神経を総動員させて、微細な変異を感じ取れ。
息はしている。
呼吸も乱れてない。
脈拍も正常。
体温もおよそ平均値、身体的異常は特に見受けられない―――唯一、目を覚まさない事以外は。
(それなら何が)
不意に気付いた。
そうだ―――気配だ。
すっごく妙で、何というか、超精巧なお人形さんみたいな雰囲気?
いきなり怖くなったあたしは思わず甲太郎の胸にしがみついた。
(違う、そんなバカな、でも、違わない)
これだけ力一杯抱きついても、甲太郎はうんともすんともいわない、ピクリとも動かない。
どうした、の優しい声も、抱きしめられる感触も、触れてくる指先だって、何も、何も。
(嫌だ)
どうしたの?甲太郎。
「ねえ」
どうしちゃったのよ、バカ!
「こうたろッ」
半べそかきながら肌にギューって顔を押し付けて、暫くそうしていただろうか、あたしは―――不意にむくりと顔を上げる。
いきなり心が入れ替わったみたいに、頭の芯がスッと静かになって、ベッドからするりと抜け出した。
裸に毛布を引っ掛けて、机の前で立ち止まる。
目の前にある水色の封筒。
甲太郎宛のラブレター。
(どうして?)
いきなり、これが気になったのかは、よくわからない。
ただあたしはたくわんを受けた巫女さんみたいにただ突き動かされて、封筒を持った瞬間、指先にビリッと小さな痺れを感じた。
(何?)
よくわからないけれど、でも何か―――この封筒が、何故か。
(気になる)
手に取って、暫く見詰めて、クシャッと握り締めた。
あたしは封筒を机の上に投げ捨てて、外出できるように、身支度を整えていく。
そういえばそろそろ登校時刻だ。
ドアの向こうから伝わってくる気配が、段々数を増してきている。
あたしは、最後に、裸の甲太郎にパジャマを着せて、ベッドの乱れを整えて、上掛けの上からポンポンと胸の辺りを叩いた。
「甲太郎」
何がどうなっているのか。
どうしてあたしがこんな心理状態で、こういう行動に走っているのか。
(よくわかんない)
昨日までは何にもなかったんだ、それなのに、急に―――
(あッ)
そして、あたしは咄嗟に声を上げた。
脳裏を過ぎった昨日の出来事。
嫌な気配。
あたしは手紙を振り返る。
やっぱり、変だ。
(誰?)
誰?
どうしてそんな風に考えるのか。
何もわからない、全然わかんないよ、でも!
「わかることもある」
もう一度甲太郎を見て、おでこと、眉間と、鼻の先と、最後に唇に、深くキスを落とした。
混乱して戸惑って、オロオロしてる場合じゃない。
まだ全然状況整理できて無いけど、思考はいたってクリーンだ、涙も出てこない。
(ちくしょう)
立ち上がって、手紙を引っつかむと、今度はビリビリしなかった。
不気味だ。
何というか、ムカつく!
あたしは取って返す途中で、もう一回だけ、今度はふれる程度のキスを甲太郎の唇に落としてから、人で賑わう廊下に飛び出すと、猛然と駆け抜けていった。
(続)