※『GROOVIN' MAGIC』番外編

Spring Snow

 

 暗い、とても暗い。

そして寒い。

 

(ここは)

 

どこだ?

 

雪が降っていた。

視界を覆いつくす白に、目を眇め、体を抱きしめて、小さく、小さく、蹲る。

「ねえ」

冷たい白い手が、そっと輪郭を撫でる。

「ねえ」

―――誰だ?

「待っていたのよ」

「―――ずっと、ずっと、待っていたのよ」

止むことの無い雪に、更に強く体を抱きしめた。

ここはとても寒い。

寒くて、寒くて、このまま凍え死んでしまいそうだ。

(寒い)

「待っていたのよ」

お前は、誰だ。

「あなたを待っていたの」

知らない、誰なんだ。

「あなたと同じ」

同じ?

 

「あなたと同じ様に、辛くて、苦しくて、寂しい―――あなたと同じ様に、ひとりぼっち」

 

ビクリと震えた姿を見て、赤い唇がフフ、と笑った。

「そうよ」

一人?

「そう、一人きりなのよ」

誰も、だあれもいない、ひとりぼっち。

誰からも顧みられず、誰に愛されることもなく。

「望んだ全てが、この手のひらから滑り落ちていく」

あなたは一人。

「ひとりぼっち、私と一緒、ひとりぼっち」

 

恐ろしくて手足が震えた。

このまま、この透明な檻の中で、白に埋もれてしまう。

何もかも凍りついて、見えなくなってしまう。

怖い。

気が触れてしまいそうなほど、寒くて、寒くて、たまらない。

 

「大丈夫」

 

白い手が再び、輪郭を撫でた。

 

「私がいる」

 

誰だ。

 

「私が側に、いてあげる、あなたと同じ様に、一人ぼっちの私が」

誰なんだ。

「私たちはひとりぼっち、だから、同じ痛みを共有できる、きっとそうよ」

お前は誰だ。

「私はあなた、あなたは私、私はあなたと孤独を共有できるただ一人の存在、ねえ、待っていたのよ?」

「なのに、どうして来てくれなかったの?」

「あなたはひとりなのに」

「忘れてしまったの?」

 

―――忘れる?

 

「そうよ」

 

激しい雪が肌を貫いていく。

ごうごうと唸る風の音のようなものを鼓膜に感じて、強く目を閉じた。

怖い。

 

「あなたは一人なのよ、誰も愛さない、誰からも愛されない、ひとりなの、永遠に、ひとりぼっちなの」

 

そんなのは。

 

「わたしとおなじよ」

 

そんなのは―――

「同じなのよ」

嫌だ!

 

パキパキと音を立てて凍り付いていく感触に、気配が戸惑いながら離れていくのを感じる。

どうして、どうしてと、何度も繰り返された。

ここは寒い。

とても寒い。

寒くて、寒くて、たまらない。

 

(誰か)

 

瞼の裏側で、祈るように強く願い続けた。

その光の名前を。

今すぐ触れて欲しい指先の感触を、強く、強く、繰り返し何度も。

 

(あかり)

 

―――皆守を覆いつくす蒼氷の外郭を、青ざめた女性徒が何の感情も読み取れない表情で、見ていた。