「君、可愛いね?」

「ありがとうございまーす」

「彼氏いるの?」

「ご注文はいかがいたしましょうか?」

「じゃあコーヒーで、ねえ、あのさ」

「コーヒーお一つですね、かしこまりましたー!」

―――見よ!この実力を!

執事メイド喫茶は発案者の目論見どおり大盛況、そしてナンバーワンメイドのあたし!

さっきからナンパされ放題!恐れ入ったか!

(スカート穿いて、本気出したらこんなもんよー!)

アーッハッハと胸の中で高笑い、久々にいい気分!

「おねえさーん、こっちもお願い!」

「はーい」

「可愛いね、このクラスの子なんだよね、名前なんて言うの?」

「あきらでーす」

「あきら、って―――まさか、男?」

フフン、女だっての、でもここでは男の子として通ってます!しかして本当の性別はやっぱり女の子!

チヤホヤされるのも楽しいけど、名前を聞いてギョッとした顔を見るのも楽しい、アッチコッチから呼ばれるのだけ面倒臭いんだけどね、でも楽しい、凄く楽しい、財布の中身根こそぎ巻き上げてやるぞー!

「うそ、キミ、男の子なの?」

「やっだマジで?信じらんないッ」

そう、『男の娘』って思われると、何でか女性客の好感度が跳ね上がるみたいなんだよね。

こっちは微妙に理由不明、日本には八千穂さんみたいな人種って多いのか?

「ねぇ、その胸どうなってるの、もしかしてシリコン?」

「ヒミツです」

「いやーん、うそー、男の子だったらお持ち帰りしたーい!」

「マジか、冗談じゃねえぞ、野郎だなんて、サギだろうが!」

「いや、嘘かもしれないぞ、大体お前、あれが男に」

「けど俺、あの子なら男でもいけそうな気がする」

「落ち着けー!」

「見た目に騙されるなと言いたいが、実際の所俺も心中複雑だコンチキショー!」

はあ、やれやれ。

あからさまな男の子よりは見栄えするのも当然だけどね、だって女の子だし。

でも男の子のメイド姿や、女の子の執事姿も結構評判、またもや目論み大当たりって雰囲気。

あたしは、半分くらいは衣装のせいで目立ってるんだって、勿論自覚ありますよん。

忙しなく駆け回っていたら、聞き覚えのある「おっ」って声が耳に飛び込んできた。

(は!)

立ち止まって急いで振り返った―――喫茶店の入り口に見える姿は!

「ゆーなぎくーん!」

振り返った夕薙くんは、いきなり口をパカンと半開きにして、何故かその場に固まっちゃった。

そんなに驚かせたかな?大声出したつもりないんだけど、まあいいか。

傍に駆け寄って行こうとしたら、不意にカランカラーンって鐘の音が鳴り響いた。

「イベントターイム!」

驚いて足を止めると、教室の後ろに素早く何かの設置が始まる。

アレは、ルーレットと、ダーツの矢?

「さぁ、ご来店頂きましたレディスエーンジェントルメン!今だけの特別イベント開催いたしまーす!」

「その名も、ダーツDEデート!」

はい?

だーつででーと?

「当店でご飲食頂いたお客様だけに権利がございます、このイベント!」

「ルーレットを回して、ダーツを投げ、あたった場所に記してあるサービスをご提供いたします」

「なお、特賞は当店自慢の執事もしくはメイドさんとのデート権!」

「ですがこちらは新たにルーレットを回し、ダーツを投げて、中った場所に書かれた子との指定制となっております」

「他にも景品目白押し!さあ我こそはという方はこぞって参加お願いしまーす!」

すると店内あちこちから勢い良く上げられた、何本もの手!

素早く整理券を配り始める係の姿、その様子をポカンと眺めているあたし。

何事?こんなイベント聞いてないんですけど。

「まさか本当にやるとは」

声がして、振り返ったらいつの間にか傍に夕薙君が立ってた。

「何?これ、何なんだ?」

「ああ、俺は偶然耳にしただけだったからな、お前が知らないのも無理はないか」

「どういうこと?」

夕薙君は教えてくれた。

締め付けのキツイ生徒会対策として、ギリギリまで関係者以外には伏せておいたらしい、更なる売上向上を狙った特別イベント。

ある程度収益が出たら速攻終了予定らしいけど―――それはともかく、さっきとんでもない事言ってなかった?

当店自慢の執事もしくはメイドとのデート権、とか。

(ってことはあたしも含まれているって事だよねぇ?)

たとえ聞かされていなかったとしても、そんなの知らないって抗議したとしても!

でも、ふと周囲を見回して見ると、あたし以外の接客係は皆気にしてない様子。

気にしていないというより、知っていた雰囲気?え、まさか、あたしだけ知らされていなかったとか。

驚いて混乱しているあたしを、夕薙くんが肩をポンポン叩いて苦笑い。

気遣ってもらっても、今はあんまり嬉しくないよ、たまたま耳にした地点で、何で教えてくれなかったのさ。

「安心しろ、ホラ、一応気遣いはしてあるみたいだぞ」

え、って見ると、おめでとうございますの声。

ヤッターって腕を振り上げた、彼はどうやら特賞を見事当てたらしい。

「それでは指定ルーレットでございます!」

そしてあたしはそのルーレットを見て吹いた。

他の人も衝撃を受けたような声を上げて、当てた彼は唖然と盤を凝視している。

物凄い偏りのあるルーレット、ほっそい線みたいな枠に名前の書いてある子と、物凄く幅を利かせた枠の子がいて、あれ?あたしの名前がない、と思っていたら。

(枠の縁取り、あれがあたしか?)

五ミリにも満たないほそーい金色の縁取り、そこにあたしの名前が何となく書かれているような。

「デートは断る事もできます!」

そういう事かと納得入った。

これなら皆安心だし、特に文句も出ないだろう。

枠の狭い子は、多分狙われちゃうだろう、接客係の中でも可愛かったり格好良かったりする子たち、特に女の子は軒並み枠が細い細い、逆に幅を取っているのは柔道部やボクシング部に所属している男の子達。

ダーツを投げた彼もやっぱり柔道部の子に矢が中って、おめでとうございまーすとか言われても即「辞退します!」って叫んでる、柔道部の男の子は、体重100キロくらいありそうな巨漢だ。

(でも、こんな調子じゃ苦情が出るんじゃないかな)

そう思ったけれど、更に夕薙くんに、初めのスロットを指差されてまたもや納得。

一応、ハズレ無しの親切設計の上に、大きい項目は飲み物一杯無料券とか、ケーキサービス券とか、普通に嬉しい内容だ、これなら参加者全員が楽しめるだろう。

チケットが無くなった項目に中てた場合、全て飲み物一杯無料とさせていただきます、と細かいフォローも忘れていない、うちのクラスにこんな商売上手の人がいたなんて。

「なかなか、やるだろう?」

夕薙くんの声を聞いて、あたしはハッと、彼を立たせっぱなしだったことに気がついた。

準備係は当日まで大忙しだけど、お店が開店したら、基本お客様として好きに過ごせるんだ。

もちろん、食材が足りなくなったりしたら、その時はお仕事なんだけどね。

「ご、ごめん、夕薙くん!」

あたしは慌てて近くの席の椅子を引いて、夕薙くんを案内した。

今日はいいとこ一杯見せて、白岐さんからこっちに目を移してもらおうとか企んでたのに、最初っからこんな調子じゃ格好つかないよ!

教室の後ろでダーツゲームは凄く盛り上がっていて、気付けば入店待ちしてるお客さんもチラホラ、この分だと売上かなり行きそうだ。

「何にいたしますか?」

「それじゃあ、とりあえずコーヒー」

「はい、かしこまりました」

ニッコリ笑ったら、夕薙くんも嬉しそうな笑顔。

あたしはオーダーを持ってパタパタと調理係のところへ駆けて行く―――行こうとしたんだけど。

(うっ)

嫌な気配。

視界の端にチラッと映った、それを確認するために、立ち止まってギギイッて振り返る。

―――いた。

出口から、待っているお客さんの事なんて気にも留めずに、フラッと入って近づいて来る。

嗅ぎなれたらベンダーの香りがフワリと漂って、あたしに向けて「よぉ」って。

「何しに来たんだよ」

「ご挨拶だな、自分のクラスの出展ブースに来ちゃいけないってのか」

皆守ー!

今朝一緒に寮を出てから、今まで顔を見ないで済んでたっていうのに!

(何でこの場面で現れるかな、こいつはっ)

あたしを暫く眺めた後で、皆守は、振り返って教室の後ろで開催されてるイベントに目を細くすると「面白い趣向だな」って一言、あたしは一気に面白くなくなったよ、もう!

「所で、アレは確実に無許可だな?」

「みたいだね、ある程度収益が出たら撤収するんだって」

アロマをひと吸い、ぷはーって煙を吐いた。

「ま、今日は祭りだからな、生徒会も多少の無茶には目を瞑るさ」

「皆守は生徒会の人間じゃないだろ」

「フン、一生徒として、通報の義務くらいは持っているぞ」

「そんな面倒臭いこと皆守がするわけないもん、そこにいると営業妨害だから、適当に座って!」

「オーダーは?」

「どうせカレーでしょ、もう分かってるから、アロマでも吸って待ってろ」

「ついでにコーヒーもな」

ハイハイ、了解。

クラスの人間は飲食無料ってことになってる、だから前金制なんだけど、皆守は暢気にアロマをプカプカ、夕薙くんはダーツイベントを面白そうに眺めている。

あたしは、何だか急に疲れちゃって、オーダーを持っていったら八千穂さんに「スマイル、スマイル!」って励まされちゃった、もう。

 

長いので分割します。