※こちらは『SHAPE OF MY HEART』後の完全捏造九龍大人Verです

2nd-Encounter

 

 NYの狭い路地を一台の乗用車が猛然と駆け抜けていく。

使い込まれた車体は、あちこち塗装がはげて、所々へこんでいた。

「急いでくれ」

「やってる!」

白いシャツに黒いパンツ姿の助手席の男の言葉に、同じような格好をしたハンドルを握る男が怒鳴るように答えた。

助手席の男はすぐまた膝の上の端末に視線を戻し、運転手は路地の途中から繋がる通路を見つけて、けたたましくクラクションを響かせてけん制する。

通路の前を通り過ぎる瞬間、何事か大声で怒鳴っている男の姿が一瞬視界の端を過ぎって消えていった。

「轢かれなかっただけでも、ありがたく思え、ど畜生ッ」

「そろそろだ」

「わかってるッ」

もうすでに何軒かの軒先を破壊して、警察にも通報されているだろう。

2人組みの男が乗り込んだ白のセダン、大通りから路地裏を暴走中。

(まあ、その辺の厄介事は協会がもみ消してくれるだろうが)

もっとも、個人のコネだけでも、公務機関への情報操作依頼など造作もない。

助手席の男は端末をパタンと閉じながら顔を上げた。

「着いたぞ」

土煙を上げて、車が止まる。

殆ど同時に乱暴に扉を開いて、助手席の男が先に飛び出した。

運転席の男を待たずに建築物の入り口へ向かって駆け出す、その瞬間。

 

ドーンッ

 

派手な音を立てて、路地に面した壁面が外側に向かい吹き飛んだ。

唖然と見上げた2人の上に、大小さまざまな瓦礫やガラスの破片が降り注いでくる。

運転席の男が咄嗟に車内に引き返す。

走り出していたもう一人は、そのまま構わず建物内に飛び込んでいた。

「プラヴァーッ」

車内の男が大声で呼ぶ。

穿たれた大穴から、黒尽くめの人間が数名、飛び降りてきたのは、その直後だった。

 

階下まで渦巻いている灰燼に、襟を立てて口を押さえるようにしつつ、上階を見上げる。

すぐ手前に階段を見つけて、考える間もなく昇り始めた。

走りながら懐に手を突っ込んで、取り出した銃のグリップを握り締めながら、油断なく周囲を探り、けれど足だけは可能な限り急がせて。

建物は三階建てだ。

火災が起きている気配はない。

最上階は更に視界が悪くて、白く濛々と濁る景色の中に、息を止めて飛び込んだ。

そのまま銃を構えると、素早く室内全体を見回す。

不自然に穿たれた穴の向こう、対面に建つビルのくすんだレンガの色と、隙間からほんの僅かな青空が覗く。

屋内に人の気配はない。

―――いや。

「う、うう」

かすかな声がして、振り返れば、誰か倒れている。

急いで駆け寄って抱き起こせば、それは年若い女性だった。

爆発に巻き込まれたのだろうか、衣服はあちこち焼け焦げ、ボロボロになり、顔面から血を流している。

両腕と足をロープで拘束されていた。

「ぱ、ぱ、パパ」

うわ言のように繰り返す女性に呼びかける。

「アンナ・ベルガーさんですね?」

「だ、れ」

「ロゼッタ協会派遣のハンターです」

「パパ、パパは?」

顔を上げて周囲を見回す。

徐々に晴れてきた室内の床に、黒焦げの塊が転がっていた。

腕に抱いていた女性を、再びそっと床に横たえて、塊の傍へ行き、確認する。

「パパ」

背後から響く小さな声に、目を瞑り、唇を噛み締めた。

そのまま体を固く強張らせて、女性の元まで戻った。

直後に遅れてもう一人が屋内へ駆け込んでくる。

「プラヴァー!」

アンナを抱き起こしながら、振り返った―――玖隆は、暗い表情で、ただ首を横に振り返したのだった。

 

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