※こちらは『SHAPE OF MY HEART』後の完全捏造九龍大人Verです
「3rd-Encounter」
「ようやく、着いたな」
がらんとした寮の一室。
ささやかなベッド、クロゼット、本棚に、机のみの質素な風景を見回して、少ない手荷物を床に置いた。
上下にスライドするタイプの窓枠に、手をかけて力任せに押し開けば、さわやかな5月の風がカビっぽい室内をさっと一掃する。
一仕事終えてベッドに腰を下ろすと、古ぼけたスプリングが軋んで悲鳴を上げた。
「マットは一度干す必要があるな」
表面を手で叩いてみると、盛大に灰燼が舞い上がった。
咽こみながら窓辺に逃げる。
なんだか無性におかしく思えた。
「はは、ははは」
ハハハハハ。
ひとしきり笑った後で、もう一度室内を見回して―――皆守は感慨深く瞳を眇めたのだった。
アメリカ合衆国は、自由の天地としてさまざまメディアに謳われてきた。
今も神話は健在なようで、この国にはあらゆるチャンスが溢れていると人々は言う。
その、切欠の地に、皆守は渡ってきたのだった。
留学先は四年制の私立大学、専攻は歴史学。
我ながら気でも狂っているのじゃないかとつくづく思う。
TOEFLの点数だけは水準をはるかに上回り、そのおかげで奨学金制度にありつくこともできたけれど、はっきり言って専攻方面に関しての自信も知識もまるでない。
そもそも、自分はいつから趣旨換えをしたのだろう。
(どうせなら科学や生物系の大学を選べばよかったか)
天香時代を思い出して、一人皮肉気に笑ってみたりもした。
結局、勉学そのものが目的ではないのだ、自分の場合。
「こんな不純な動機で、これから数年間、ここでやっていけるのか」
この大学は寮での生活を義務付けられているけれど、比較的規則が緩やかだから、空いている時間を利用してアルバイトをすることも可能だ。
とりあえず親との約束は守れそうだと、これからの暮らしに想いを馳せる。
「まあ、出来の悪い息子だが―――もう少しだけ面倒見てやってくれ、ここまで来たからには、何が何でもやってみせるさ」
新天地で、いよいよ自分を待ち構える、未来。
(先の事など、まだ何一つ見えちゃこないが)
とにかく始めよう。
希望に満ちた胸中に、けれどほんの僅か過ぎる不安の影を、皆守は極力、見ないように努めた。
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