※こちらは『SHAPE OF MY HEART』後の完全捏造九龍大人Verです
「7th-Encounter」
「専属?」
怪訝な声に、初老の紳士は頷いた。
「そうだ」
「どういう事だ、ロバート」
玖隆が本部の指示に、これほどあからさまに難色を示すことも珍しいと思う。
伝説の男ロックフォードが現役を退いて以来、これといってスター要素を持ち合わせたハンターの登場がなかったロゼッタ協会において、ID0999、コードネーム『plover』の存在は、今やこちらの業界に身を置く者ならば、組織やジャンルを問わず誰でも知っている、ある種の価値を生み出している。
当然、協会上層部も特に目をかける、期待の宝探し屋だ。
生来の気質や才能などに縁る部分も大いにあるのだろうけれど、彼の場合、誰彼構わず人心を惹きつけてやまない強力なカリスマ性を持ち合わせていることが、名の広まった最たる理由だろう。
トップにのし上がって以来、ロゼッタ所属ハンターランキング首位の座は常に彼のものだ。
そんな若く才気溢れたハンターの姿に、先達はヘイゼルの瞳を微かに眇めていた。
玖隆との付き合いは、当人が生まれる前にまで遡る。
彼の父親が現役だった頃、ロバートはやはりロゼッタ協会所属ハンターとして世界中を駆け巡っていた。
同じ世界で生きるもの同士、自然に面識ができ、たまたま馬が合ったのか、交流が生まれたのである。
だが、青年は年老いて、玖隆の父親である水代アルフレートはある高名なハンターの専属バディから、考古学の博士として、そして、ロバートも現役引退し、同協会の管理部責任者として、それぞれの活動の場を移した。
変わらないのは、二人の友情、そして、互いに夢を追い求めてやまないということ。
現在共通の大きな願いは、次世代を担う新たな人材の育成である。
もっとも、ロバートはそれが仕事でもあるから、大半は本部の指示による任務であるけれど、水代博士は完全に、個人の趣味で発育途上の若葉に水を与えて回っている。
彼自身、そういった若く未熟な感性と触れ合う事によって、今尚成長を続けているのだろう。
どれほど年月を経ても変わらない情熱と才能、心底羨ましいと思う。
伝説の男がただ一人、背中を許した稀代の天才、その血と魂を受け継いだ一人息子。
生まれたのが男の子だと聞いたとき、心底喜び、同じくらい期待した。
水代晃、いや、『今』の玖隆晃は、こちらの勝手な願望に十分すぎるほど応えてくれた―――もっとも、本人はそのつもりで業界に踏み込んだわけではないのだろうが。
現在では八面六臂の大活躍をこなすスターハンターだ。
ロバートは目の前にいる青年の姿を、半ば息子に対する父のような思いで見つめている。
「資料と指示書は、無論、読んでいるな」
手元の紙束を、玖隆はほんの少し持ち上げた。
「そこに記された内容が全てだ、協会の審査が通り次第、君には専属の相棒を持ってもらうことになる」
「だから、専属って、まさか、これからは二人三脚でやってけっていうのか?」
「そうだ」
「何故」
玖隆は、険しい顔のまま、真正面からロバートを見据えている。
「理由は、君自身が一番よく理解しているだろう」
「わからないな」
「協会は君に、更なる活躍を期待している」
「誠心誠意応えているつもりだが」
「今後は、これまで以上に大きな仕事を請け負ってもらいたい」
単純に規模等を指しているわけでないと、玖隆も理解しているだろう。
大きな仕事というものは、総じて難易度が高いものだ。
そして、難易度が高ければ高いほど、より高度な知識と技術が求められる。
「人一人ができることには、限界がある」
それが、今度の指令が下されるに至った理由だ。
希望が潰える可能性は、僅かでも少なくしておきたい。
意見そのものには、ロバートも賛同していた―――玖隆個人の感情などはともかく。
「実力不足だって言いたいのか」
「皮肉は結構」
「フン、そういう意味じゃないか」
「晃」
ロバートは漸く、胸の内を吐き出すように、深々とため息を漏らした。
「これは、私個人の意見でない、そのことを理解して欲しい」
「それくらいの判別はつくさ、子供じゃないんだ、言いたい事だって、大体理解しているつもりさ」
伏し目がちに俯いて、玖隆は手元の紙束をつまらなそうに眺めている。
「―――だが、本部の指示は、いつだって無情だ」
唇がポツリと漏らした。
「俺はまだ飛ぶことをやめられない、連れ立つ翼は要らないが、命令ならば従うさ、所詮雇われの身だからな」
わかったよ、と顔を上げる。
多分納得していないだろう心情を、無理矢理笑顔で塗りつぶして。
「同じ速さで飛べるだけの覚悟と力があるならば、喜んで連れて行ってやる、本部にはそう伝えておいてくれ、雛の訓練まで面倒みきれないってな」
「了解した、上層部に伝えておこう」
「よろしく頼むぜロバート、足を引っ張る程度ならともかく、最悪の場合、寝覚めが悪いからな」
それは、『死』という名の最悪なのだろう。
実は内面繊細な、彼の最も恐れるものを理解していたから、ロバートはただ静かに頷き返した。
「それじゃ」
席を立ち、歩き去っていく。
いつの間にか広く大きく成長していた背中を見送りながら、管理官は再び、今度は少し違う意味合いの溜息を漏らしていた。
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