※ゲーム未クリアの方はお読みになられませんよう、ご注意申し上げます。
「Epilogues」
―――そして、あたしたちは戻ってきた。
誰一人欠けることなく。
あの、悲しみと怨嗟の呪いに捕らわれた、闇深い太古の迷宮から。
「あかり」
「うん?」
呼ばれて振り返る。
寮から校舎に続く、冬枯れた並木道。
黒いダッフルコートに、紫のマフラーを巻いたモジャモジャ頭が、いかにも寒そうな顔をしながら歩いてくる。
立ち止まったあたしは白いハーフコートとサーモンピンクのマフラー。
寮以外の学園敷地内では原則として制服の着用が義務付けられているから、あたしたちはその下にそれぞれ制服を着ている。
あたしは―――相変わらず男の子用の学生服姿だ。
コートとマフラーは、双樹さんがプレゼントしてくれた。
『阿門様を無事につれて帰ってくれたお礼』だって、エヘヘ、ちょっとこそばゆいな。
立ち止まって待つあたしのすぐ傍まで来ると、甲太郎は、ズズッと鼻をすすり上げた。
「先に行くなよ」
「だって、甲太郎、靴履くの遅いんだもん」
「仕方ないだろ、寒くて指先がかじかむんだ」
「どれ、ちょっと見せてみなさい」
ポッケに突っ込んでいる手の片方を無理矢理引っ張り出して、何するんだの声を無視しつつ、顔の傍まで持ち上げる。
「ひゃーホントだ、冷たい!」
あたしの両手でギュッと包んで、ハーって息を吹きかけてあげた。
骨ばった感触をこしこし擦りながら血行促進。
文句言ったくせに、甲太郎はなすがままにされてる。
色が白いせいかもしれないけど、何か不健康そうで、こいつホント寒々しいなあ。
「オイ」
「ん?」
見上げた甲太郎の鼻の頭が赤い。
「あったかいな」
「エヘヘ、そうでしょ」
「お前の手」
「あ、うん、まあね」
じわっと滲み出す、この幸福感。
好きな人と一緒にいられる幸せ。
しょーもないことでも、やたら楽しい。
バカみたいだなあ、あたし。
「子供体温なんだな」
「は?」
即座に飛び上がって、頭をゴチンとチョップで一撃!
「って!」
んもー、こういうところだけは相変わらず、根性が悪いんだから。
「子供が子供体温で、何が悪いんだよッ」
「論点はそこか」
「俺は、お前の無神経加減を指摘しているの!」
「オイ、お前」
ちょっとムッとした表情が、両腕を伸ばして、あたしを捕まえる。
胸に抱きこまれながら、耳元で囁かれた。
「―――今は誰もいないんだから、普段どおり話せよ」
「ひゃ、ば、バカッ」
耳たぶがあっついよ!
今、天香学園は冬季長期休暇中。
がらーんとした空気の中、僅かな居残り組みのメンバーであるあたしたちは、のんびりとした年の瀬を過ごしていた。
クリスマスイブに仕事の大詰めがあって、翌日、せっかくのクリスマスだって言うのに、あたしは疲労困憊しすぎて身動きが取れなくて、甲太郎も事後処理とか、いろいろあって―――
ようやく、静けさを取り戻した学園内は、以前と今とでちょっとだけ変わった。
そんな雰囲気を、あたしは確かに感じ取っていた。
(次へ)