「こいつがロゼッタのハンターか」

下卑た声、周囲は恐らく気温40度以上あるんじゃないだろうかと思うほどの、灼熱の空間。

「随分気の強そうな顔してるじゃねえか」

あたしは油断なく目の前の二人組を睨み付ける。

そのうちの一人、喪部が、キザったらしい仕草で前髪をかき上げながら、フンって笑う。

「お嬢さんにしては、頑張った方じゃないのかな」

「グヘヘ、確かに、そうだな、女にしちゃやる方だな」

(偉そうに、馬鹿にしてッ)

ムカッとしたけど、この程度の挑発、慣れてるもん。

女だからってバカにされるハンターは多いんだ、どれだけ文明が発達したって、結局男の頭の中身はあまり変わらないみたい。

まあ、ヴォルフみたいに、素敵な紳士もたくさんいること、知っているけどね。

夜の闇を駆け抜けてきたあたしは、そのまま遺跡内部に突入、うじゃうじゃいた有象無象達を全員締め上げて、ようやく、この際奥の石室まで到着した。

ドアを開けた途端、待ち構えていたような彼らの姿。

そして今、こうして対峙している。

反応しなかったあたしに、もう一人の大男、マッケンゼンとか言う、レリックから派遣されてきた喪部の協力者は、今度はニタニタ笑いながらジロジロ体のあちこちを見始めた。

「しかし、女と呼ぶには起伏が少なすぎるな、喪部、こいつ本当に女かよ」

「調書にはそうあったが」

「怪しいもんだなあ」

くっそー!

非常に腹立たしい!でも、あたしは鉄の仮面を装う。

こいつ、いざとなったら再起不能なくらいボコボコにしてやるんだからッ

(これはまだ発育途中なんですッ)

いずれ、物凄い事になるんだから!

―――多分。

「そうだ」

葉巻をくわえた大男の口元が、いやらしくニヤリと吊り上る。

途端、あたしの背筋にぞわりと悪寒が走った。

(うわ)

嫌だなー、何だか、この雰囲気って。

「いい事思いついたぜぇ、喪部」

ヒキガエルみたいな声に、さっきからゾワゾワが止まんない。

「こいつ、殺しちまう前に、女かどうか確かめておくか」

(は?)

「股座開いて一発ぶち込んでみりゃ、どっちかハッキリするだろ、なあ?」

(うげえええッ)

さ、最悪だ!

辛うじて平静を保ちつつ、内心かなりショックのあたしを眺めながら、大男はベロリと唇を舐め回した。

「これだけどこもかしこも未発達なら、アソコもツルンとしてるんだろうよ、俺は、熟れきってないガキん中に無理矢理ぶち込むのが大好きなんだ、グヒ、散々よがらせて最後に本物の鉛玉をお見舞いしてやれば、逝っちまう前に最高の締め付けが楽しめるんだぜ、知ってるかモノベ?グヒヒッ」

想像すらおぞましい。

最悪の外道が、そのままこっちに一歩踏み出してくる。

戦闘態勢に移行したあたしの耳に、喪部の声が鋭く響いた。

「マッケンゼンッ」

「モノベ、先に行っていてくれよ、お楽しみが終わり次第、俺様もすぐに合流するからよォ」

「そんな暇はないだろう、今は任務中のはずだ」

「だから、先に行っていいって言ってるだろ、息子がその気になっちまってんだ、一発ぶち込まない事には、収まりそうにないぜッ」

股間、見ない、見ない。

ただでさえこいつブクブク太りすぎでパンツがぴちぴちなんだもん、そんな不気味なもの見ちゃったら、暫く夢でうなされちゃうよ。

喪部は少し黙り込んで、半ば呆れたように大男から視線を逸らすと、そのまま歩き出した。

後を追うべきか多少迷ったあたしの方へ、巨体はジリジリと距離を縮めてくる。

「さて、Kitty、素っ裸になってケツをこっちに向けな、俺様のガンをぶち込んでやる」

その前に、ムダに膨れたその腹いっぱいに、鉛弾をぶち込んでやる。

あたしはマシンガンを構えた。

「そうか、子猫といえどネコはネコ、まずは爪を切らねえとな、コトの最中に怪我させられたら大変だ」

(殺す)

昏倒なんて生ぬるい、本気出さないと、あたしのほうが色々危うい。

今日はここにたどり着くまでに、どれほどの返り血を浴びたか、わかんないくらい全身ドロドロだ。

この上更に、こいつのコレステロール値の高そうな体液を浴びるのなんて、ホントはゴメンなんだけどね。

あたしは、まだヒヨッコかもしれないけれど、でも、間違いなくロゼッタのハンターだから。

この手でトリガーを引いてしまった覚悟は、いつだって持ってる。

―――ここの皆にはあまり見られたくない、あたしの一面。

多分、刺激が強すぎて、もしかしたら怖がられて、嫌われちゃうかもしれない。

それは嫌だけど、あたしは奪った人数分の重みを背負い込んでいるから。

今更逃げたりできない、酷いもんだと思うけれど、後悔だけは絶対にしたくない。

KittyKittyKitty!可愛がってやるぜぇ、グヒ、精々俺をイかせてくれよ、なあ!」

血走った目があたしを見据えて不気味に笑った。

あたしは―――迷わず、狙いさだめた銃口から弾丸を撃ち出しながら、猛然と足を踏み出した。

 

そんでどれくらい駆け回ったのかな?

正直、かなり拍子抜け。

だってこいつノロいし、はっきり言ってただの的だった。

硬さだけはムダにある巨体に容赦なく攻撃を食らわせながら、特に股間めがけて集中砲火、失礼。

さっきの発言がどうにも捨て置けなかったんだもん、それに、そんな思考回路持った奴が今までどんな残酷な行いをしてきたのか、想像に難くない。

無様に倒れた不細工な姿を前にして、さてトドメでもって考えていたら―――

「ご苦労」

一足先に鳴り響いた発砲音。

大男は驚いた表情のまま、手足をだらりと投げ出して、動かなくなる。

あちこちから色々なものが流れ出していた。

あたしもゆっくり顔を上げて、視線の先の姿を食い入るように眺める。

「まったく、無粋なサルだ、わざわざ招待したゲストに非礼を働くなんて、これでボクの心象が悪くなったらどうしてくれる」

「喪部」

「くくッ、改めまして、Willkommen Fraeulein、待っていたよ」

振り返った喪部が大きく両手を広げながら笑う。

あたしはマシンガンから手を離さずに、眼光を鋭くして睨み返してやった。

「その様子じゃ、余興は余り楽しんでいただけなかったようだね、すまない、何せ組織の連中ときたら、無粋な輩が多くてね」

「仲間じゃなかったの?」

「まさか」

足元にある、すでに大きな肉塊に姿を変えた元・大男の頭を、爪先で軽く蹴り飛ばす。

「ボクに類人猿の知り合いはいないよ、ようやく厄介払いができて、清々した」

そのまま靴底でゴロゴロ転がしながら、喪部は楽しそうに笑っていた。

(こいつ、クズだ)

喪部の足の下の塊も生前そうだったけれど、こいつも相当、ろくでもない。

片方だけ覗かせた瞳が、あたしを見詰めてスッと細くなった。

「しかし、君、なかなか殊勝な心がけだね」

「何?」

「てっきり番犬を引き連れてのご登場かと思っていたが、まあ、僕にとっては好都合だ」

懐から抜き取った銃口を、真っ直ぐ向けてくる。

塊を無造作に蹴り飛ばして、喪部は、同じ様にマシンガンを構えなおしたあたしと対峙した。

「とりあえず、踊ろうか」

何気ないそぶりで笑いかけてくる。

「キミの華麗なステップを、ボクにも見せてくれ」

「喪部、鍵は?」

不意に、思いついて訊いてみた。

喪部は一瞬ニヤリと笑うと、髪をかき上げて、得意げな雰囲気を漂わせる。

「本当に素敵だね、キミは―――ああそうさ、勿論、ボクが持っているよ」

状況からの推察で、あたりをつけただけだったんだけど。

(まさか、ほんとに持ってたんだ)

でも、それなら一体いつ行動したんだろう。

昨日の探索時、後をつけられて、戦闘中のどさくさに紛れて入手したんだろうか。

いやらしい奴。

あたしは気合を入れなおす。

「さあ、踊ろう玖隆!」

喪部が声を上げた、それと同時に、彼の体が急激に変化していく。

(えッ)

「フフフ」

驚く間もなく、肌の色が、目の色が、唇の端から牙が現れて、頭の天辺からは、まさか、あれは。

「ボクも、キミと踊るのに相応しい姿になるよ、特別にね」

今、あたしの目の前にいる存在。

それは、ずっと昔、小さい頃、日本かぶれの酷いアルが、寝る前の絵本のひとつで読み聞かせてくれた。

大きな体に、強大な力、頭部に1本ないし2本の角を抱く、異形の存在。

「鬼」

ポツリと呟いたあたしに、鬼に姿を変じた喪部は、禍々しい雰囲気の笑みを浮かべて見せた。

「ひとつ、昔話をしてあげよう、ボクのとっておきの話だよ」

あたしはマシンガンのトリガーに指を這わせた。

 

次へ