場面は急展開!

じゃあ、なくて、だ。

甲太郎の腕があたしから離れていく。

ただし、片腕だけはまだ背中に回されたまま。

阿門君を見据える、横顔はメチャ格好いい。

「阿門」

甲太郎の声だ。

「どういうつもりだ、皆守」

静けさの中に、絶対的な威厳を滲ませた声。

阿門君はあたしたちから数メートル離れた場所に、まるで陰みたいな姿で佇んでいる。

「戦って倒されるならまだしも、情にほだされ全てを放棄するか」

「違う」

「何が違う?」

俺は、何も捨てていないと、甲太郎が答えた。

「それほど器用じゃないんでな、何もかも忘れて生きるなんて芸当、とてもじゃないができない、いや、できなかったと言うべきか」

その言葉の端々に、窺い知れない寂しさが滲み出しているように思う。

過去に、どれほどのことがあったんだろう。

あたしの知らない甲太郎。

甲太郎の知らないあたし。

気になるけれど、拘っている場面じゃない。

背中に触れていた甲太郎の掌が、少しずれてグッとあたしの腕を掴んだ。

「罰なら受ける、だが、俺はもう降りるぜ、こいつとだけは―――あきらとだけは、戦えない、役目も果たせないようじゃ、副会長失格だろう?」

「愚かな」

フッと笑った阿門君の顔が、何故か少しだけ嬉しそうに感じる。

どうしてそんな風に感じたのか、自分でもわからないんだけれど。

「ならば、俺は生徒会会長として、副会長の謀反を許すわけにいかぬ」

砂が動くような気配。

掌をかざす阿門君から、甲太郎があたしを背後に庇おうとした。

ちょ、ちょっと待った!

「甲太郎!」

「お前は下がってろ、こいつは俺が」

「バカッ」

ビックリした様子で振り返った間抜け面。

あたしを誰だと思ってんのよ!

「気持ちは嬉しいけど、でも、戦うなら共同戦線、だよ、一体誰がここまで障害乗り越えて辿り着いたと思ってんのッ」

誰かのお守が必要な女じゃない。

大体、ヒヨッコでも、紛れもないID持ちのトレジャーハンター。

この仕事はあたしのヤマだし、何よりここまで到達した功績だって、全部あたしが打ち立てた手柄なんだから!

ゴーグルを装着して、構えたマシンガンの安全装置を外すあたしを見て、甲太郎は口の端だけで笑っていた。

「そうか」

「そうだよ」

「そうだったな」

あたしたちは隣り合って、それぞれ身構える。

甲太郎と共闘。

改めて並び立つと、何だか不思議な感じ。

「二人とも、この遺跡と共に眠るがいい」

声と共に、繰り出された一撃を、互いに左右に飛んで分かれて回避した。

「あきら!」

甲太郎が呼びかけてくる。

「お前が何と言おうが、俺は、お前を守るッ」

阿門君はすぐ甲太郎のほうに振り返って、次の一撃を繰り出そうとする。

その腕を蹴り飛ばして、更に一撃加えようとして、阿門君の腕に防がれて飛びのく。

背後から照準をつけたあたしのマシンガンが火を吹いた。

阿門君はマントの残像だけ残してひらりと身をかわした。

「俺がそう決めた、だから、無茶をしてくれるなよ!」

「生意気言って、甲太郎は自分の身の心配でもしてなさいッ」

あたしのほうを向き直ろうとした阿門君を、すかさず甲太郎が回りこんでけん制する。

それぞれの靴底を鳴らして、遺跡の最深部で、あたし達の戦いの火蓋は切って落とされていた。

 

Duell Waltzは数十分続いたと思う。

甲太郎が蹴りで体勢を崩させたところに、あたしが剣の一撃がヒット!

どうやらそれが決勝点だったみたい。

どうにか床から起き上がった阿門君は、けれどそれ以上動ける状態じゃないらしくて、荒い呼吸を繰り返しつつ、膝をついた姿勢のまま、眼光鋭くあたしたちをにらみ続けていた。

目だけがまだ、気力を保っている。

「まだだ」

これが、天香遺跡を守り続けてきた一族の末裔。

(物凄い執念)

甲太郎が「もう止せ」と呼びかける。

「俺は墓守として、荒吐神を地上に解き放たせないためにも、秘宝も、封印の巫女も、誰の手にも渡らせるわけにはいかないのだ、さあ、玖隆、俺と戦え」

「阿門!」

「俺の息の根を止めなければ、先に進むことはできんぞ?」

「いい加減にしろ、その状態じゃもう」

「今更戯言を繰るな、皆守、お前はすでに解き放たれた身、最早この地と関係は無いだろう」

「馬鹿野郎ッ」

二人のやり取りを聞きながら、あたしは、何となく思う。

甲太郎と阿門君は似たもの同士―――多分、多分ね、あたしの勝手な憶測なんだけれど。

だから甲太郎は生徒会に籍を置いていて、阿門君は、副会長が自分達の敵である存在に力を貸す様子を黙認していたんだろう。

それほどまでに二人の絆は強い。

けれど、甲太郎はあたしの側につくことを選んだ。

阿門君はこの遺跡を守る頭領、だから―――

 

「もう遅いわ」

 

不意に響いた凛とした声。

振り返ったあたし達の視線の先に、どこから現れたんだろうか、白岐さんが佇んでいた。

「白岐さん」

「白岐」

阿門君もじっと姿を見つめている。

四方の壁面で燃え盛る炎に照らされて、彼女の姿はどこか神がかり的に、ほんのり発光しているように映る。

「すでに、封印は解けてしまった」

「何だと」

「墓守と侵入者の舞が神楽となった、古の、歪められし御霊が、今ここに蘇る」

周囲の大気を震わせて、響き渡った咆哮。

白岐さんの背後で、何かの姿が徐々に浮かび上がりつつあった。

それは身の丈数メートルもありそうな、歪な塊。

あたしの傍らに甲太郎が走り寄ってくる。

阿門君ですら、唖然と見上げた巨大な化け物は―――

 

ウオオンと、哭いた。

 

あたしたちも呆然と見ている。

(クライ)

化け物が咆える。

(クライ、何モ見エナイ―――)

「玖隆さん」

白岐さんの声だ。

あたしはハッと視線を転じた。

「偽りの黄金は剥がれ落ち、顕現したる真実の力は、主の敵を打ち倒す」

(何?)

「もう、時間が無いわ」

スッと指差された。

背後で、また異形が咆えた。

「おおおォォォ、我が体が目覚めるのを感じる、長き眠りより再び動き出す、ツイニ、遂に我は復活せり」

脇差にした黄金の剣。

(そうか!)

気付いて、アサルトベストから取り出した薬品同士を混ぜ合わせて、剣の刀身部分に伝わせる。

「あきら、何してるッ」

甲太郎が不安と焦りを滲ませた様子で、あたしと荒吐神とを交互に窺っていた。

(多分、この調合でも効果を期待できるはず)

目算は当たって、溶けて流れ出したメッキの下から、漆黒の刃が姿を現した。

あらかた取れるのを見計らって、一振りして雫を払う。

八つの柄を持つ、太古に大蛇を征した神剣。

顔を上げたら、目の合った白岐さんが、微かに笑ったように見えた。

―――けれど。

「くうううッ」

「ぐうッ、うううううッ」

突然苦しみ始めた、阿門君と白岐さん。

一体どうしちゃったの?

「お、おい、阿門!」

「皆守」

「一体どういう事だ?」

「お前はなんとも無いのか」

「ああ」

「そうか」

お前は、すでに遺跡の呪縛から解かれていたのだなと、阿門君が呻く。

「これは恐らく、荒吐神が蘇った事による影響だ、我々は共に、古代の血脈を受け継ぐ者、共鳴しているのだろう、祖先より連なる我等の遺伝子が」

巨体が完全に実体化する直前、あたしは何とか、白岐さんをつれて、広間の隅まで移動していた。

見れば、皆守は阿門君を非難させている。

あたしたちは再び駆け戻って、一緒に並んで化け物を、荒吐神のおぞましい姿を見上げた。

「―――甲太郎」

「何だ」

「今ならまだ、甲太郎と阿門君たちだけならまだ、逃げられるかもしれないよ?」

「ぬかせ」

ふざけるなの声と、後頭部をワシワシと撫で回す掌。

「言っただろう、俺はお前を守るって」

「知らないよ?」

「知らんでいい」

フフッと互いに笑いあった。

古代のテクノロジーによって生み出された、偽りの『神』が怒りに満ちた『刻』を告げる。

あたしは武器を手に、甲太郎は身構えて、かくして―――これがラスト!多分そう!

この場にいる全員の、もっと大げさな言い方をするなら、世界の命運をかけた戦いが、今ゆっくり幕を上げた。

 

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