「オイ」
声が聞こえるのと同時に、殆ど条件反射みたいに横様に飛んでいた。
振り返って身構えたあたしを眺めて、皆守がやれやれと溜息を漏らす。
「そりゃ、仲良くしてくれとは言わないが、そこまであからさまなのもどうかと思うぞ」
「うるっさい、何の用だ!」
―――鬱陶しそうな顔しやがって、皆守めえええッ
「そういやお前、トレジャーハンターなんだってな、八千穂から聞いたぜ」
「はあ?!」
思わず目が点―――や、八千穂さん!
実は今朝、詰め寄られて、ついつい正体を白状してしまったあたし。
うう、強引なのには弱いのよう!半分は不可抗力だったんだってば!
(でも、もうこんな所にまで話が広がっちゃってるんだ!)
青ざめるあたしを、皆守は相変わらず意地の悪い顔で見てる。
一体どこまで知られてるんだろ?八千穂さーん!!
「―――まあ」
「はうっ?!」
「お前とは例の約束もある事だし、今度も黙っててやるよ」
そ、その先は、あまり聞きたくないような。
「ただし」
―――やっぱり?
「今度も対価が必要だぜ、わかるよな?玖隆」
「こ、今度は無し!絶対に、無し!」
もう、あんなの二度とイヤだッ
昨日の傷だって全然癒えてないのに、まただなんて正直冗談じゃない!
あたふたしているあたしをまるで面白がっているように、パイプを咥えた口元がニヤニヤといやらしい笑いを浮かべていた。
みっ、皆守めえええ! こいつ、性格最悪だ!
「いいのかよ、そんなこと言って」
「だだだって、八千穂さんは」
「喋っちまっただろ、俺に」
うっ
「俺も誰かに喋っちまうかもなあ、ううん、そういえばこの頃面白い話もないし」
「き、昨日は!」
「何だよ」
「昨日は、そういう趣味は無いって、言ってたじゃないかッ」
「ああ、趣味は無い、だが、話題に上ることならあるだろ、ついうっかり、口を滑らせる事だってある」
「うう」
「ま、ずっと口止めしておきたいなら、その都度料金を払ってもらわないとな、ギブアンドテイクって奴だ」
「そ、その、都度?!」
それって、まさか、まさかあああ!
あたしはガバッと皆守の首に腕をまわして、引き寄せながら締め付けた。
フフンと鼻で笑っている。くう、悔しい!
「ちょッ、と、それって、どういう意味だよッ」
「聞いたとおりだ、まさか、一度で済むとでも思ってたのか?」
「じょ、冗談!お前、アレはな、犯罪だぞ!」
「お前がそれを言うのか?色々と知れて困るのは、どこのどなた様だ」
「ううっ」
「おとなしくいう事を聞け、それ以外、お前に選択肢は無い」
「くっそ」
「おいおい、そんな言葉遣いするもんじゃないぜ、まあ、可愛がってやるから喜んどけよ」
「誰がだあああ!」
ばあんと皆守を弾き飛ばして、あたしは肩で息を吐いた。
信っじらんない!最悪!最低!極悪な根性の悪さだ!この男はーッ
皆守は余裕の表情で、取り出したオイルライターを擦って、アロマの先端に火をつけなおした。
立ち上る紫煙をすうと吸い込みながら、アロマがうまいぜなんて気取ってる。
バカッ、最低!
「い、今の話」
―――知らないうちに、体が小さく震えていた。
怖いとか、嫌だとか、いろんな気持ちがごちゃ混ぜになっている感じ。こんな思い、したことない。
「今の話、本気?」
「ああ、もちろん」
「お前なッ」
「なんだよ、なんなら、手っ取り早く殺っちまうか?俺を」
正直、そうしてやりたい。すごく。
(けど)
悔しいけど、民間人に手を下すような趣味は、あたしにないのだ。
そんなことしたら今よりずっと寝覚めが悪いに決まってる。
―――もっとも、今も十分最悪だけど。
昏倒させて当分意識をなくならせるってのも手だと思うけど、そんなチャンスうまいこと廻ってくるもんなんだろうか。
(でも、隙あらばッ)
あたしは皆守を睨みつける。
余裕の態度に、ものすごおぉくはらわたが煮え繰り返っていた。
「今は、殺さない」
皆守はそうかと呟いて、ならいいと微かに笑った。
「まあ、ンな事よりお前ら、今日も墓地に行く―――」
瞬間、響いた女の子の悲鳴。
あたしたちは殆ど同時に振り返る。
一体何ごとだろう?
こんな真昼間の平和な学園に悲鳴だなんて、ちょっと尋常じゃない事態。
「オイ、聞こえたか?」
こっちを向いた皆守が、やけに真剣な顔で聞いてきた。
「う、うん」
「音楽室の方だな、行ってみよう」
走り出す皆守。
あたしも、慌てて後を追いかける。
(足、速ッ)
なんなのこいつ、さっきまであんなにダルダルしてたくせに!
ちょっとビックリしながら、それでも、足の速さにも自信があるから、コンパスの差に負けずに追いかける。
さっきまでのモヤモヤは、ひとまずあたしの中からすっぱり消え去っていた。
(次へ)