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3rd-Discovery

 

「あーあ」

机に顎を乗せて、ぼんやりする。

あたしは後悔しきりだ。ああもう、何であそこで助けたりしちゃったかなあ、もう。

話は約一週間前に遡る―――そう、あたしが皆守を亡き者にしようと決意して、遺跡に潜ったあの晩の事だ。

実際、かなり本気だったあたしは、同行している八千穂さんに判らないように細心の注意を払って奴を敵の前(遺跡には敵がいた、当たり前だけど、それは異形の化け物で、床に落ちていた先人のメモには化けるヒトと書いて『化人』と呼ぶのだと注釈が書かれていた)に押し出すように、押し出すようにと動いていたのに、皆守は驚いたことに殆どの攻撃を片っ端から紙一重でかわして、おまけにあたしに向けられた攻撃まで防いでみせるから、何かもうぐうの音も出なかった。

運動神経?いや、動体視力だろうかとしきりに首をかしげながら、高所に上って歩く最中、あれだけ大活躍していた皆守がいきなり足を踏み外して堕ちそうになって、あたしは考え事なんてしていたものだからついうっかり、そう、本当に『ついうっかり』助けてしまったのだった。

あーあ、今思い返しても、あれは大チャンスだったのに。

放っておけば、そのまま墜落、骨折、運がよければ病院送りで、最大の障害が排除できたはずだったのに。

返す返す口惜しい。

皆守は発言どおり、あれから殆ど毎晩『口止め料』の請求に部屋までやってくるものだから、はっきりいってグダグダだ。心も、体も、すっかり疲れて擦り切れちゃってる。

だって全然慣れないし、最近じゃ寝不足で授業中だってウトウトしちゃう。もっとも、そんなに面白い授業でもないんだけど。

毎晩ノックの音が聞こえるたび、縮み上がってるのだ。実際。

「うー」

こんなに格好悪いのって、あたしじゃない。

世界を股に駆けるトレジャーハンターが、なんて無様なんだろうと、憂鬱ばかりが胸に募る。

目を閉じて、唸っていたら、玖隆クンと呼ばれた。

「ねえねえ、さっきメールしたら、月魅が図書室にいるからきてもいいって」

「八千穂さん、え、七瀬さんがどうしたの?」

「んもー、玖隆クンだって気になってるんでしょ?あの遺跡のこととか、取手クンの体から出てきた黒い砂のこととか」

そうだった。

あたしの頭は一気にお仕事モードに切り替わっていた。

やっぱり、自分の目で見て、歩いて、触れてみないと、真実はつかめない。

遺跡の内装や建築形式ははっきりいってかなり興味深くて、よくもまあこれだけ大規模な古代の遺産が大して崩壊もせずに残っていたなあと感心しきりだった。

謎解きも幾つかあったけど、古代人の叡智の結晶にしては、なかなかいい手ごたえ。

やっぱこうでなきゃねーと仕事の最中何度も思った。

難しくて、苦しくて、やってらんないくらいの方が丁度いい。

天香遺跡は駆け出しのあたしから見ても十分すぎるほど魅力的な獲物だった。

化人たちがうようよする中、最奥目指して突き進んだ先、蛇の扉の向こう側で待ち構えていたのは取手君で、ビックリする間もなく戦闘に突入、ちょっとためらったけど、変な力なんて使ってくるもんだから手加減する余裕なんて無かった。

全力でぶつかって、正気に戻った取手君の体から吹き上がった黒い砂状の何か。

それは大きな化人の形を取って、あたしたちに襲い掛かってきた。

これまで交戦した雑魚たちとは比べ物にならないくらい、強力な『化人』

でも本当アレなんだったんだろう?

八千穂さんはその謎の解明に、七瀬さんのお智慧を拝借、と考えてるみたいだった。

確かに、それって案外うまい方法かもしれない。

あたしはまだ駆け出しだし、はっきりいって知識の量じゃ全然かないっこないだろうから。

「そうだね」

まあ、明確な答を得られるはずもないけれど、ヒントくらいなら何か見つかるかもしれない。

こんな所でクサクサしたって仕事がはかどるわけじゃなし、もうヤメヤメ!

八千穂さんと一緒に教室を出て行こうとしたら、まるで計ったかのようなタイミングで皆守と鉢合わせしてしまった。

(う、一番顔を見たく無い奴に)

ほんっと、こいつっていつもイヤな時に出てくる。最悪。

「あれ、皆守クン、さっきの授業出てたよねえ、どこ行ってたの?」

「ヤボ用、それよりお前ら、どっか行くのか」

あたしのほうをチラチラ気にしてッ、見るな!

うー、どこだっていいじゃない、放っておいてよ!

「月魅にね、話を聞きに行くの」

「ふうん」

「あ、皆守クンも一緒に行こうよ!」

「はあ?何で俺が」

あたしも思わずギョッと八千穂さんを見て、それからハッと―――多分、イヤーな顔してたと思う。

そういえば八千穂さんって、もしかして皆守が好きなんだった。

こんな変態をねえ、と皆守を見ていると、バチッと視線がぶつかる。

うわ、ヤダヤダ!

こいつの顔なんて、毎晩ベッドの上で見るだけで勘弁して欲しい。

そう考えて、とんでもない事だと気づいて、あたしはカッと顔を赤らめた。

皆守がわかんなくらい口の端をニヤニヤと緩めている。こいつめ!

そっぽを向いたあたしの隣で、だって友達じゃないと八千穂さんが口を尖らせた。

「あのなあ、取手の件では成り行き上付き合ったが、これ以上無関係な俺を巻き込むな」

あたしだってこれ以上関わりあいたくないっての。

無関係って言うなら、もう二度と部屋にも来ないで欲しい。本当、切実に。

「関係なくなんて、ないもん」

「はあ?」

「だって、友達の友達は、皆友達だって言うじゃない」

うわ、八千穂さん、もしかして必死?

そんなに皆守と係わり合いになりたいわけ?

(理解、不能)

頭を抱えるあたしの横で、皆守と八千穂さんは言い争っている。

「友達って、誰と誰がだよ」

「皆守クンと玖隆クン、で、玖隆クンとあたし、ほら、あたしと皆守クンも、もう友達じゃない」

「お、お前な」

「本当は白岐さんにも話を聞いてみたかったんだけど」

白岐さんっていうのは、おっそろしく髪の長い儚げな美少女だ。

物静かで控えめ。いつも寂しそうにしてるのが、ちょっとだけ気になってる。

「どうしてそこで白岐が出て来るんだよ」

「だって、白岐さんってあたしの知らないこと一杯知ってそうだし―――アッ、いけない、休み時間終わっちゃうよ、二人とも早く早く!」

「お、おい、八千穂!」

気づけば、八千穂さんは一人で廊下に駆け出していた。

猪突猛進というか、いつでも元気な女の子だ。

「オイ」

振り返ると、めんどくさそうな皆守がこっちを見ていた。

「お前も図書室に行くのか?」

「そうだけど」

「ふうん、ま、程ほどにしておけよ、あいつと関わるとろくな目に遭わないからな」

―――あたしとしては、その言葉そっくりそのままお前に返してやりたいよ。

むーと眉間に縦皺を作って、あたしは皆守を睨み上げる。

「皆守は、八千穂さんのこと嫌いなの?」

「は?」

「随分つれないじゃない、あんないい子なのに」

「お前な」

急に機嫌が悪くなったみたいで、でもそれはあたしだっての!

ジリジリにらみ合ってると、教室の外から、二人とも早くーと八千穂さんが叫んでいた。

「ねえ、玖隆クン、皆守クン!ねえってば、皆守クン、まだー?!

振り返った皆守がすごく嫌そうな顔をしてる。

ううん、こいつのほうは八千穂さんのこと、なんとも思ってないんだろうか?

「玖隆くうん!ねえってば、玖隆くうん、皆守くうん!」

―――あんまり大声で名前を連呼されて、さすがにあたしもちょっと恥ずかしいかも。

「おい、このままじゃ無駄に俺達の名前が校内に広まるぞ、お前だって目立つのは困るんだろう?」

皆守は、チラッとあたしを見た。

「行くぞ、面倒ごとは、さっさと済ますに限る」

「皆守に言われなくてもそうします」

口を尖らせたあたしに、ふと足元をとめてちゃんと振り返ると、今度は苦々しい顔をしてみせた。

「お前なあ」

「何だよ」

―――まあいい、行くぞ」

また急かされたから頭に来て、先に歩き出す途中で思い切り爪先を踏んづけてやると、ウッとくぐもった声が聞こえた。

いい気味。

背中に、玖隆てめェ、覚えてろよ小さな負け惜しみが響く。

あたしは気にせず、八千穂さんのそばに駆け寄っていった。

 

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