※ゲーム未クリアの方はお読みになられませんよう、ご注意申し上げます。
「4th-Discovery」
「ん、んんっ、う―――」
殆ど日課になってる行為。
天香学園は、今、深夜―――
「あ、ちょ、や、ヤダ、皆守、そこはッ」
「いいんだろ?」
「う、バカッ、そんなわけ」
「でもこんなに濡れてるぜ、体だけは正直だよな」
「あ、ヤダ、ヤダヤダ、やあ―――ンッ」
真っ暗闇の中で、絡み合う肢体。カーテンの隙間から覗く細い月だけが、あたしたちを見ている。
汗やなんかの動物じみた匂いと、熱っぽい息遣い、皆守の体温、クチュクチュと響く水音。
あちこち触ってくる掌の感触、指先や、舌の動き。そして。
「アッ―――あうっ、ん、はッ、はッ、あ、や、や、あ、ああッ、ああンッ」
グイグイ突き上げられて、世界が何度も揺れて。
「アッ、アッ、アア!」
「う、クッ」
ビクンと震える何かと、滲んでくる熱い感触に、あたしはグッタリと目を閉じていた。
直後に乗っかってきた熱っぽい重みが、肩の辺りで満足げに深いため息をついている。
「玖隆」
髪を、スルリと撫でられて。
「良かった」
「ふざけん、なッ―――」
あたしは眠りの渦に落ちていく。
疲れきった体と心が、今は何よりも休息を求めているんだ。
意識が遠のいていく途中、頬にキスされたような気がしていた。
(用が済んだら、早く帰れ)
最後の一瞬、捨て台詞を残して、あたしは気絶するみたいに心と体を手放した。
「あーもう」
朝から憂鬱。
机の上に上半身だけ乗っかって、ぼんやりと教室を眺めている。
毎朝、毎朝、目が覚めると隣に皆守の寝顔があって、心底ゲンナリするっていうのに、加えてこの気だるさ、本当にどうにかならないもんか。
午前中、一時限目辺りはいつもこうだ。
理由は明確。
お仕事と、その他諸々。どれも口に出してはいえないような秘密の事情。
(頭が痛い)
本当に頭痛がしてくるようで、両手で抱え込んでうな垂れていると、しょうもない男の子達の噂話が聞こえてきた。
ほんっと、この年頃の男って、エッチな事しか考えてないのかね。
「よう」
急にクシャリと髪の毛を混ぜられて。
「何か、俺はこの学園で過ごしているのが情けなくなってきたぜ」
「皆守」
机に片手を突いて、諸悪の根源が眠たげにあたしを見下ろしていた。
「金髪美女の異星人ねえ、まあ、異星人っていやタコみたいな形って相場が決まっている、そうそう都合のいい異星人なんているわけないさ」
「見たことないくせに」
「まあな」
ニヤリと笑う横顔から、あたしはプイとそっぽを向く。
夜だけじゃ飽き足らず、昼間までちょっかい出してきますか。もう、いい加減にして欲しいよ。
あたしの気持ちも知らないでッ
「オイ、玖隆」
掌が髪をさらりと撫でる。
「大丈夫か?」
「何が」
「だるそうだな」
誰のせいだと思ってるのよ、誰のッ
苛々するあたしの視界に、ひょっこりと七瀬さんが姿を現していた。
あれ、とあたしは起き上がる。皆守も、どうやら彼女に気づいたようだった。
「古人、曰く」
お、お得意のお題目。
「人間の姿は気味が悪くて好感が持てないが、慣れれば大丈夫だろう」
「は?」
「他の星の人からしたら、私達人間も異星人では無いでしょうか?」
―――さっきの話、聞いてたのかな。
ビックリしているあたしたちに構わず、七瀬さんはこれまた唐突に、異星人について熱く語りだした。
うーむ、この学園って、ちょっと変わり者が多いけど、特に七瀬さんや黒塚君は群を抜いてそうだよね。
もっとも、一番妙なのはあたしだと思うんだけど。
(あーあ)
一人大宇宙への夢に思いを馳せる彼女に相槌を打ちながら、あたしはやっぱりあんまり真剣に話を聞いていなかった。
ただ、フランス人博士の異星人調査の方程式とか、ちょっとだけ面白かったりしたんだけどね。
Nが宇宙の知的生命体の数って設定した地点で、どうやったって数値はゼロになり様がないんだから、結構こじ付けって感じがしないなーとか考えてたんだけど。
でもロマンという点では、認めてもいいと思う。どっちにしたってあたしには結構どうでもいい話だ。
「皆守君?」
七瀬さんが急に眼鏡のフレームを押し上げながら怪訝な顔をするから、何事かと思って机の上に目を向けると、脇から皆守が上に突っ伏して寝ていた。
―――こいつ、態度があからさま過ぎる。
「皆守、こらッ」
「ん?」
軽く小突くと、大あくびをしながら「終わったか?」なんて調子のいい事を言うから、あたしと七瀬さんは思わず呆れ顔を見合わせていた。
本当に、興味の無いことにはこれっぽっちも参加意欲を見せないなあ。
「まあ、七瀬の言うようにもし異星人がいたら、俺も会ってみたいもんだぜ」
うーわー物凄いバカにして!
あたしがちらりと窺うと、七瀬さんは少しムッとした顔をして、それからすぐ気を取り直したように口元に手をあててウフフと笑っていた。
「気をつけたほうがいいですよ、皆守君」
「何をだよ」
「異星人は、常に私達人間を誘拐する機会を窺っています」
そして何事か話すのかと思ったら、今度は異星人に引っ掛けて、皆守を脅しにかかっていた。
皆守も皆守だけど、七瀬さんもなかなかのものだ、案外侮れない。
あたしはちょっとだけ引きながらその様子を傍観している。
ううん、そこまで熱心だと、すこーし怖いんですけど。
「あ、いけない」
水をさすようなチャイムの音に、ようやく我に返った七瀬さんは戻りかけて、足を止めて、ふとあたしを振り返っていた。
―――意味深な微笑、何?
「それじゃ、また、探索頑張ってくださいね」
ぱたぱたぱたッ
遠ざかっていく足音に、あたしは呆然として声も出ない。
皆守が、お前の正体ばれてるんじゃないかと隣でボソッと呟いていた。
「まあ、別に俺が困るわけじゃないが、もうちょっと気をつけたほうがいいとおもうぜ」
「うん」
「お前の事情はともかく、不穏な生徒がいるとわかればへたすりゃ退学だからな」
それは、非常に困る。
生徒会何とかしなきゃとか、そういうレベルですらなくなっちゃう。
ハア、と俯いた頭を掌がポンポンと叩いて、ラベンダーの香りが鼻先に漂ってきた。
「そういや、まだ聞いた事がなかったが、お前は何のために宝捜し屋なんてやってんだ?」
「え?」
振り返ると、皆守が何でもないような顔で見下ろしていた。
「金か?名誉か?それとも、スリルか?」
あたしはきょとんとして、それから違うよと首を振る。
「好きな人ができたからだよ」
「何?」
怪訝に顔をしかめられて、あたしはハッと口元を押さえた。
うわーバカバカ、何本当の話なんかしてんのよッ
「おい玖隆」
それ以上のツッコミを受ける前に、あたしはがたーんと椅子を跳ね飛ばして立ち上がる。
「な、ナシッ」
慌てて両手を振り回す。
「今の、ナシ、忘れろッ」
「ちょっと待て、その話を詳しく」
「わーナシナシ、知りません、俺は何も言ってない!」
腕を伸ばす皆守を振り払って、そのまま教室から飛び出していこうとした。その途端。
「キャ!」
「うわ」
がたがたーんと巻き込まれるように倒れこんで、机の間であたしは呻き声を洩らした。
傍に、皆守の靴が見える。
「あいててて」
反対側から聞き覚えのある声。
「うー、ご、ゴメンね、大丈夫?」
「八千穂さん?」
振り返ると、八千穂さんが首の後ろをさすりながら、あれ玖隆クンときょとんとしていた。
「ぶつかったの、玖隆クンだったんだ、ゴメンね、怪我しなかった?」
「お、俺は平気だけど、八千穂さんは?」
「あたしも大丈夫、エヘヘ、寝坊しちゃった」
苦笑いを浮かべる彼女に、やれやれと呆れた声が上から降ってきた。
「何時だと思ってんだよ、寝坊したって時間じゃないだろが」
言いながら、あたしに手を伸ばすので、あたしはそれを無視して一人で立ち上がった。
手持ち無さたの皆守はそのままちょっとあたしを困ったように見て、気まずそうに手を引っ込めている。
八千穂さんも一人で立ち上がっていた。
「なんか目が覚めたらこんな時間だったんだよね、昨日の夜時計が止まってたから、そのせいかと思ったんだけど、朝見たら動いてるし、知らないうちに床で寝てたいみたいで首が痛くてさあ」
そう言いながらふと触った首筋に、赤くポチッと何かできてる。
あれ、なんだろ、虫にでも刺されたんだろうか?
「あれ、なんか首にできてる、墓地の森が近いせいか、窓から虫が入ってくるんだよねえ、やだなあ、刺されたかなあ」
困ったねえと相槌を打つ、あたしの傍で急に顔色の悪くなった皆守がジリリと後退りをしていた。
―――何?こいつも唐突にどうしたんだろう。
「あれ、どしたの皆守クン」
「あ、いや、別に」
珍しく歯切れが悪い。
皆守は、ちょっと気分が悪くなったとか言いながら、本当にフラフラと教室を出て行った。
一体何ごと?
(相変わらずつかみ所のない奴)
まあ、今のゴタゴタであたしの話がうやむやになったから、とりあえずよかったけど。
「あ、そうだ、玖隆クン」
「何?」
「実はね、放課後ちょっと相談に乗って欲しい事があるんだけど」
八千穂さんの頼みを二つ返事で引き受けながら、あたしは何となくスッキリしない気持ちのまま、とりあえず今日のお昼ご飯のこととか考えていた。
(次へ)