ゲーム未クリアの方はお読みになられませんよう、ご注意申し上げます。

5th-Discovery

 

 目の前でパクパクカレーを食べる皆守の姿を眺めながら、なんだかなあとか思う。

お昼時の、楽しいはずのゴハンの時間に、こいつの顔を見ながら食事だなんて、正直ゾッとしないけれど、最近は結構ヘッチャラっていうか、あんまりなんとも思わなくなってきたみたい。

それは別に皆守の事が―――そう、ちょっとでも好きになってきた―――とかじゃないんだけど、何だろうか、これ。

(慣れ、かなあ)

それくらいしか思いつかなくて、仕方なくてまたいつものように強引に注文されてしまったカレーをスプーンですくった。

皆守とここに来ると、いつでも当たり前みたいに「カレー二つ」って言われちゃうから迷惑なんだよねえ。

あたしだってたまにはパスタとかライスものとかサラダとか食べたいのに。

でもカレーも嫌いじゃないし、マミーズのはそこそこ美味しいから、結局食べちゃうんだ。

好き嫌いが全然無いのも考えものだと思う。それと、おんなじ物ばっかり食べ続けても気にならない性格も。

「あーあ」

「何だよ」

思わず声に出して溜息をついたら、カレーに集中していた皆守は不意に顔を上げてこっちを見た。

あたしは何となく苛々して八つ当たりがしたくなった。

「毎日カレーばっかりで、ヤダ」

「何だと」

「皆守はバカだから平気なんだ、そのモジャモジャした頭の中一杯にカレーが詰まってるんだろ、それか、皆守の体液はカレー汁でできてるんだ」

「お前な、大体カレー汁って何だよ、そんな味してないだろうが」

「バカ、大バカ、変態、下品、最低」

―――オイ」

「そもそも飲んだ事ないから味なんて知りませんッ」

「なら今度飲ませてやるよ、とにかく、訳のわからんことを言うのはやめろ、食わないならその皿をよこせ」

―――さらりととんでもない事言いやがって、コノヤロウ!

すっかり機嫌の悪くなったあたしは、テーブルの下で皆守の足を思い切り蹴りつけてやった。

「って!」

「最低、この変態、人のカレー皿まで狙うなんて卑しいにも程がある、このカレーバカ!」

「お前なあッ」

ああ、面倒臭いと呟いて、頭をボリボリ掻き毟ってから、皆守はまた貪るようにカレーを食べ始めた。

あたしもスプーンですくった一口をもぐもぐして、飲み込んで、それからふとお昼前の出来事を思い出して、動きを止める。

目の前には不機嫌顔の皆守。

いいや、別に。話したいから話そう。

「八千穂さん」

「あ?」

「八千穂さん、大丈夫かなあ」

―――八千穂の事が心配か?」

相変わらずぶっきらぼうでも、ちょっと普段どおりに戻って皆守は話に乗ってきた。

「だって、友達だもん」

「フン、お前らしい答だな」

軽く口の端を吊り上げて、残りのカレーを平らげる。

あたしも食事を済ませると、皆守は舞草さんを呼びつけて、コーヒーと紅茶を一つずつ注文した。

ここに来る前、ちょっと気になることがあって、あたしの中でそれがずっと引っかかってるんだ。

最近具合の悪そうな八千穂さん。さっき会った時も青い顔でフラフラしてた、ホント、大丈夫かなあ?

クラスの女の子の話では何かのセミナーに通いだしてからああなったらしいんだけど、友達だし、彼女の事は普通に心配してる。

まあ、目の前のこのバカに何か起っても、そんな気全然全く一向に起らないんだけどね。

「俄か同好会の類なら、飽きっぽい八千穂の事だ、すぐ元に戻るだろ、気を回すだけ無駄ってこともありうるぜ」

ほら、こういう薄情な男だし。こいつこそ心配するだけ無駄ってものだ。

「皆守は心配じゃないの?」

「おう」

心配してあげればいいのに。あたしは胸の中で呟く。

だって、そのほうがきっと八千穂さんは喜ぶだろう。彼女は皆守の事が好きらしいし。

女心のわからないやつというか、それは今更なんだけれど、目の前で暢気にアロマを吹かしてる場合じゃないと思うんだけどなあ。

「仮に」

「うん?」

「お前まで妙な事に首突っ込みだしたら、それはさすがに止めるだろうが」

何それ。

「はあ?何言ってんの、俺がそんなことになる訳ないじゃん」

「まあ、そうだろうな、だから俺は心配なんてしないのさ」

なんだか訳のわからない理屈に丸め込まれるようにして、その話はおしまいになり、あたしは運ばれてきた紅茶に口をつけた。

「これ、勝手に注文したんだから、おごりにしろよ」

「相変わらずがめつい奴だぜ」

「フンだ」

「しっかしお前、この間も思ったんだが、コーヒーくらい飲めるようになれよ、カレーと合うんだぞ」

「うるさい、だからカレーはもうヤダって言ってるだろ」

「やれやれ、ここで飯食う度にそうだな、大体カレーの何が嫌なんだ、言う割にはいつだって残さないじゃないか」

「勿体無いもん、いいよ、だったら今度残す」

「なら皿をよこせ」

「イヤだ」

「あきら」

はーっと溜息をついて、そんなに面倒ならやめればいいじゃないと思うんだけど、こいつに言っても仕方ないかと考え直して、結局あたしはいつものように睨むくらいしかできない。

大体皆守と喧嘩しても消耗戦なんだ。最後はあっちがそっぽ向くか、言いくるめられたこっちが腕力に訴えるかのどっちかなんだから、面倒ごとは極力避けたいのが人情だし。

お昼時のにぎやかな店内で、3番テーブルのお客様(それってあたし達のことなんだけれど)だけ、ツンドラ気候の真っ只中だった。

 

次へ