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6th-Discovery

 

「お早う」

髪をクシャリと撫でられて、あたしはふてくされたまま少し上の方に見える顔を睨みつける。

途端、苦笑いなんかしやがって、何だかもうすっかり「慣れたぜ」って目がいってる。

うー、慣れんなっつうの!

「お早う」

仕方なく返事をしたあたしのおでこに、キス。

「さて、朝飯でも食うか」

起き上がって伸びをしながら大あくびをかましている―――皆守の隣で、あたしもむっくりと起き上がっていた。

秋の大気は段々肌寒さを増している。

下着姿なもんだから、毛布の中との気温差にクシャミをしたら、いきなり抱きついてきた。

「わあッ」

バランスを崩して倒れかけた身体を片方の腕で支えると、そのまま反対方向に持っていかれて、胸の中に引きずり込まれる。

人肌の体温は丁度いい感じ、暖かくって少し気が緩みかけるけど、いかん、いかん!

「寒い」

「だったら早く起きて服を着なさい、この、バカッ」

ごっちんと殴りつけて、いてえの声を背中に聞きながらあたしはするりとベッドから抜け出した。

(うん)

今朝は、ちょっといい気分。

だってだって何たって、いつでも好きなとき(って言っても実質夜中くらいしか余裕ないんだけど)にシャワーが浴びられるようになったんだもん!

昨日の夜だって、皆守に散々いいようにあちこち弄くりまわされて、すっかり汚れてクタクタになったあたしは、それでも室内プールの鍵を握り締めて部屋を抜け出した。

やっぱりね、そりゃ、この間までは仕方なくで我慢してたけど、一応オンナノコですし、綺麗にしておきたいのが人情じゃない?

許可を頂いているあたしは、実に堂々と鍵を回して施設内に入り、のんびりと服を脱いでシャワールームを拝借させていただいた。

うう、もうこれだけでホント、天国気分だよう。

シャワーを浴びていたら、ドアの開く音がして、でもあたしはそれを気にしない。

だって知ってる人だから。

ゴシゴシ身体をこすってた、あたしのいるシャワーボックスを覗き込んだ、優しい笑顔。

「やっぱり来てたのね、音がしたから、あなたじゃないかと思ったわ」

「双樹さん」

「咲重でいいっていってるじゃないの、あかりちゃん」

ふんわりと微笑む、悪夢の後の天使さま。

双樹さんは部長の権限で結構頻繁に真夜中の水泳を楽しんでるらしい。

あの、あたしの性別がバレちゃった夜から、ちょくちょく顔をあわせるんだ。

ここの施設は双樹さんが全部管理してるから、彼女の計らいで夜は警備員さんも入ってこない。

まあ、そこそこの防犯設備は整ってるみたいだし、構わないんじゃないかなーとは思うけど。

「ねえ、あなた、シャンプーは何を使っているの?」

「え?あ、やー、その、ここにあるのをちょっと」

「あら」

ゴメンなさいと謝った、あたしに双樹さんはニッコリ微笑みかけてくる。

「いいのよ、置きっぱなしにしている人が悪いんですもの、それよりもしよかったらこれ、私が調香して作ったシャンプーとリンスなんだけど」

差し出されたボトルを開いて嗅ぐと、んん、いい匂い!

双樹さんは趣味でアロマテラピーや調香なんかをやっているらしくって、彼女がつけてる香水も自作なんだって、凄いなあ。

「これ、何の匂い?」

「ローズベースのフローラルテイストよ、花のオイルを使ってあるの」

「へえ、いい匂いだねえ」

「ウフフ」

スラリとした白い腕が伸びてきて、指先であたしの濡れた髪の毛をちょっと撫でる。

「女の子ですもの、お花の香りがしていたほうが、きっと素敵でしょう?」

―――ふわあああ!

感激して思わず赤くなったあたしを見て、双樹さんはクスッと笑った。

うわあ、うわあ、何か、どうしよう、ドキドキするんですけど!

(お、女の子)

そ、そうなんだよね、あたしってば女の子なのですもの!

そりゃ、今はやむにやまれぬ事情で男のフリなんてしてるけど、でも本音は凄く不本意で、いつだって八千穂さんや七瀬さんのスカートを「いいなあ」って指咥えてみてるんですもの!

嬉しい。

男の姿で花の香りさせてるのもどうかなーって思ったけど、そんなもんはこの際無視だ、シャンプーやリンスくらい、気持ちいいもの使ったっていいじゃない!

「有難う」

受け取ると、双樹さんはニッコリ笑っていいえって答えてくれた。

いーい人だなあ。

親切な彼女とお友達になれたことは、ここ最近では一番の収穫かもしれない。

初日から色々あって最悪だったけど、ようやく運がまわってきたのかな?

ニコニコ思い出し笑いしていたあたしを不意に覗き込んで、皆守がどうしたとか聞いてきた。

「別に」

首を振ったあたしの、髪に触れて、皆守はまた抱き寄せながら鼻先を中にうずめる。

「なあ―――お前さあ、昨日の晩からなんかつけてんのか?」

「は?」

「いい匂いがする」

反対側に回した掌で腰の辺りをスルスルさすりながら、どさくさに紛れて耳の後ろとかにキスをするので、あたしはこの寝惚け男をドンと突き飛ばしてさっさと着替えを始めていた。

むすっとしたむくれ顔がふてくされながらパイプを探して、火をつけてベッドに腰掛けながら咥えている。

相変わらず裸のままだから、見ないようにしてキッチンに立った。

そういえば、花の香りのする男ならすでにいるんだっけ。

ふと思いつきながら、朝ごはんの支度が終わる頃には皆守もちゃんと着替えて、テーブルを用意して待っていた。

もう、何というか、偉いと褒めるべき場面なわけ?

色々めんどくさくて、お皿を並べながら、どうぞ、センパイと言ってやった。

「センパイ?」

「オシャレのセンパイ、今日からあたしとあんた、おそろいなんだから」

花の香りのする男同士、仲良くしようじゃないの。

皆守は不思議そうな顔をして、それでもまあいいかと適当に流したみたいだった。

120パーセント嫌味のつもりだったんだけど、まあいいや、ご飯ご飯。

向かい合って食卓を囲んで、天香にいつもの朝が訪れた。

 

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