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7th-Discovery

 

 あきらくーんって呼ばれて、振り返る。

朝もや霞む通学路、っていっても、学園敷地内だから固有名称はつかないんだろうけど。

紅葉の並木道の向こうから、羨まし過ぎるバストをユッサユッサ揺らして駆けて来る、遠目にもあからさまにフェロモン大放出中のあの人は。

「双樹さん!」

「ウフフ」

すぐ傍に立つと、いい匂いがフワンと漂って、それだけでなんだか嬉しくなっちゃった。

双樹さんはちょっと乱れた呼吸を整えて、それから凄く優しい目をして笑う。

「お早う、あきらくん、姿が見えたから走っちゃった」

「おはよ、双樹さん」

エヘヘ、あたしもちょっとだけ照れちゃう。

いいなあ、同い年なのに憧れの対象って、ちょっといないよ?

双樹さんは凄い、同性として羨望と、あとちょっとだけジェラシー、でもこれは仕方ないよね。

あたしとはその、何というか、種族が違いますから。

8センチの身長差から視線をそらすと、周りの男の子が涎をたらしそうな顔で彼女を見てた。

対してあたしってどーよ?でもそもそも性別の認識が違うんだよね、あーあ。

(くそう)

例え女だって知られていたとしても、おそらく双樹さんみたいにはなれないだろうなって、非常に切ない。

ウエストとヒップはともかく、バストくらいはもうちょっとあったほうが嬉しかったんだけどなあ。

―――みんな、見てるわね」

「え?」

双樹さんはううんと首を振って、あたしの髪の毛をさらりと撫でる。

うーん、今の台詞、まさかあたしに言ったわけじゃないだろうし、ってことは双樹さん自身のことか。

(なるほど)

美人は自分の事がちゃんとわかっているんですねえ。

その辺りが美しさの秘訣か、まあ、わかったとしてもやっぱりあたしには縁の無いことですが。

「あきらくん、これから登校でしょう?」

「あ、うん」

「じゃあ一緒に行きましょう?」

そう言って、あたしの腕にするりと腕を絡ませてくる。

あたしは双樹さんよりちっちゃいから、彼女がちょっと腰を折る感じ。

制服の上着の裾から引き締まったお腹がちらりと覗いて、ふっくらしたバストのムニュッと感に溜息が漏れた。

はーあ。

「いいなあ」

すると、どうやら聞こえちゃっていたらしい双樹さんがウフフと笑ってあたしの耳元にこっそりと

「あかりちゃんだって可愛いわよ、あたしが男の子なら放っておかないわ」

「はあ」

自分としてはどうにも、そんな風には考えられないのですが。

それに、放っておいてくれない男の子なら若干一名、すでにいらっしゃるのですよね、これが。

(でも強制わいせつだし、殆ど犯罪めいてるし)

あーん、そんなモテかた嫌だよう!

性欲処理のためだけに弄ばれているとは思いたくないんだけど―――ちょっと、いまだにあいつの考えっていうのがよくわからない。

皆守はどういうつもりで夜な夜なあたしにあんな事やこんな事を要求して来るんだか、ハイティーンの男の子っていったらやっぱりヤリたい盛りだろうし、ぬーん、どうなの実際?

(わからん)

この頃は、なんだかただ口止め料って感じでもないような気がするのだけど―――

っていうより!そもそも皆守なんかにモテたって、全然ちっとも嬉しくありません!

おのれ、あの暴力男め。

起きなかったから捨ててきてやったけど、まだ人のベッドでごろごろ惰眠を貪っているんだろうか。

ゲンナリするあたしに、双樹さんはニコニコしながらさあ、行きましょうと腕を引っ張って歩き出した。

周りの男の子たちがチラチラこっちを見ながら通り過ぎていく。女の子も。

やっぱり双樹さんレベルの美女を侍らせていると、あたしの男としてのグレードもそれなりに高く見られちゃったりするのかな?

―――全然嬉しくないです。

でもへこたれてても仕方ないから、いっそ開き直って談笑しながら歩いてく、あたし達の後ろから、校舎に入るくらいの頃に、またまた知ってる声にあたしは呼び止められた。

「あーちゃん!」

振り返ると、双樹さんよりやや小ぶりの、それでも十分立派なバストがゆさゆさ揺れて、まるで暴れ牛みたいに走ってくる、あの姿は。

「八千穂さん?」

ダダダッと勢い込んで突っ込んできた八千穂さんは、立ち止まってからあたしと双樹さんを見比べて、双樹さんにだけちょっとムッとした視線を向ける。

(何?今の)

きょとんとしているあたしの隣で、双樹さんがウフフって笑った。

「貴女、確かあきらくんのクラスメイトね、お名前は」

「八千穂明日香よ」

「そうそう、八千穂さん」

余裕の表情の双樹さんからプイッと顔を背けて、八千穂さんはあたしにニッコリと笑いかけてくる。

「おはよ、あーちゃん」

「お、オハヨ」

えーと、何なのこれ、何だか変だよ?

方や巨乳美女、方や巨乳美少女、間に挟まれた貧乳、いやいや、一応男の子の、あたし。

妙な構図だ。三角関係みたい。

(でも全員女の子だから、不健康極まりないよねえ)

もしくは倒錯の世界?生憎、そういう趣味は持ち合わせがありません。

「双樹さんは確か、クラスA組だったよね」

「ええ、そうよ」

「あたしとあーちゃんはC組なの、あーちゃん、教室行こッ」

「え?」

空いてるほうの手、っていっても鞄持ってるんだけど、そっちを摑まれてぐいっと。

「あら」

双樹さんの腕がするりと離れて、あたしは八千穂さんの胸辺りにドンってぶつかった。

今日の八千穂さんって微妙に変。

いっつもはこんな風に唐突な態度を取ったりなんてしない子なのに、どうしちゃったんだろ?

腕を絡められて、なすがままにされているあたしに、双樹さんはウィンクを投げながら「またね」って言って歩いて行ってしまった。

ボケッと見送ってたら、反対方向にぐいぐい引っ張られて、そのまま八千穂さんに連行されていく。

「あーちゃん」

「えッ」

「あーちゃんって、双樹さんの事好きなの?」

「は?」

はい?

えーとそれはどういう意味なのかな?

憧れの対象って意味なら、迷わずイエスなんだけど―――違うよねえ?

そうしてあたしはふと思い至っていた。

そっか、あたしじゃない、八千穂さんが双樹さんのこと、好きなのか。

(だから仲良くしていたあたしに、ジェラシーを感じたってわけ?)

おお、なるほど、それなら何となく納得いく。

つまり、あたしのお姉さまに何するのよ状態なのかな、今の彼女って、多分。

(あれ、でも)

だとすれば―――ヤバイ。

はッ、早く誤解を解かないと!

何たって、女の嫉妬は半端ない。それに八千穂さんは友達だから、嫌われたくないもんッ

「ち、違うよッ」

慌てて手を振ったあたしを、八千穂さんは恨めしそうにチラッと横目で見た。

うわ、やっぱりそうか、ひえー。

こういうのって苦手だなあ。言い分けたり誤魔化したり、そういうスキルだけは未だに甘いなあ。

「水泳部の主将さんだから、色々お世話になってて、仲良くしてもらってるだけだよ」

「そうなの?」

「うん」

「ホントに?」

「うんッ」

何度もコクコク頷いて、お願い、信じて!

そんなあたしを八千穂さんはじいーッと見詰めて。

―――そっか」

ようやく笑ってくれた。どうやらご機嫌は直ったみたい。

あたしは内心大きく溜息を吐いていた。

いや、よかった、それにしてもヤな汗かいたなあ

まあ、気持ちだけは何となくわからないでもないような気も―――多分、するんだけどね。多少は。

「ゴメンね、変な事聞いて」

「いいよ、別に」

「アリガトッ」

そして八千穂さんは、また唐突に、今度はあたしの首に腕を回して抱きついてきた。

「あーちゃんって優しいね、だから大好き!エヘヘッ」

「わあ」

ヨロリとよろけた足元を、何とか踏みとどめて、苦笑い。

ホント、猪突猛進というか、思い込んだら一本道の人なんだから。

あたしは何とか多少興奮気味の彼女をなだめて、校舎に向かって歩き始めた。

もうすっかり冬の気配を帯びている風に頬を撫でられながら、天香学園はいつもと同じ朝をむかえていた。

 

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