マミーズでご飯を食べたら、やる気なんて全然ないくせにお化けみたいに付きまとってくる皆守と一緒に教室まで戻った。

なんか、保健室の布団を屋上に持っていって、昼寝する計画があるんだって。

(はあ、まったく)

どこまでバカなんだろう、この男は。

そのまま五時間目と六時間目の授業を受けて(皆守はずっと寝てたみたいだけど)帰りのHRも終わって、何とか本日も無事に一日終了しました。お疲れ様ーッ

(しっかし、面白くない授業だよね)

これは、先生の質に問題があるんだと思う。だって雛先生や何人かの先生の授業は結構凝ってて面白いもん。

そりゃ受けるほうにもそれなりの姿勢ってものが必要だけれどさ、教える方もちゃんと情熱や誠意をもってないとね。

何事も、特に良好な対人関係って、一方通行の気持ちじゃ成り立たないものだから。

「あきら、帰ろうぜ」

教科書を鞄に詰め込んでいたあたしは、机の傍に立った手ぶらの皆守を見上げる。

「途中でマミーズ寄らないか、コーヒーが飲みたい」

「行くなら一人で行ってこい」

途端につまらなそうに顔をしかめた皆守に、反対側から八千穂さんが首をかしげて訊いていた。

「いっつも不思議だったんだけどさ、皆守クンって、毎日こんなに早く寮に帰って何してるの?」

「何って、そりゃあ」

考えかけた顔が、あたしをちらりと見て

(うわ)

―――ニヤリ。

「まあ、色々、な」

ポンって肩を叩いてくるから、あたしはギラリとこのバカたれを睨みつけてやった。

八千穂さんは相変わらず不思議そうにしたまんまだ。

うう、意味深な真似しないでよッ、この変態。

誰のせいで毎晩余計な体力まで消耗してると思ってるの、この間計ったらまた体重減ってたんだから!

(これ以上ガリガリになったら、いったいどーしてくれるッ)

オマケに、その、も、揉まれたり吸われたりしてる割には、全然大きく、ならないし―――あう。

「あきら、さっさと帰ろうぜ、お前も夜は何かと忙しい身だろう?」

「うるっさいバカ、帰るなら一人で帰れ、俺は」

直後にあたしは聞きなれた―――発砲音。

あたしたちはハッと顔をそっちに向ける。

今の、何事?

「そう遠い場所じゃないな」

皆守の声を聞きながら、直後に立ち上がったあたしはそのまま鞄を掴んで走り出していた。

反響音からして多分階段の方向、でもこんな真ッ昼間から校内で銃声だなんて、只事じゃない!

「あ、あーちゃん!」

後から足音が二人分、バタバタついてくるのがわかる。

危ないからと思いつつも、結局そのまま教室を飛び出して、一緒に廊下を駆け抜けた。

階段を中ほどまで降りた所で、踊り場でしゃがみこんでる男の子と、傍で青ざめてる男の子、それに。

「夕薙君?」

驚いて足を止めたあたしに、振り返ったハンサムが軽く笑いかけてきた。

「玖隆、それと、甲太郎に八千穂か」

しゃがみ込んだ子の足元にパタパタ血が落ちて、男の子は呻き声を上げ続けている。

「ど、どうしたの?」

「わっかんねえよ!お、俺は、何も見てない、黒い影みたいなのがちょこっと見えただけで、どこから何が飛んできたのかもッ」

青ざめてる子は怪我した子よりよっぽど錯乱してるみたい。

夕薙君がいち早く察して、彼をなだめて、怪我した子を保健室に運ばせていた。

その様子が凄く男らしくて、改めてホウッとなっちゃう。やっぱり格好いいなあ。

「大和」

皆守の声。何だか複雑そうな顔してる。

「よお、まったく、ここは相変わらず賑やかな学園だな」

「夕薙君ッ、ね、あの子、本当に大丈夫なの?」

八千穂さんは凄く心配そうだ。

彼女のこういうところ、結構好きなんだよね。

お節介焼きだけど、それは彼女が優しいから、まあ、好奇心旺盛っていうのも多分にあるんだろうだけど、それでも八千穂さんの美点だと思う。

口が軽いのはご愛嬌かな、そうそうなんでも完璧な人間なんていないもんね。

夕薙君が八千穂さんを安心させる様子を見ながら、辺りに漂う香りを嗅いで、あたしは壁に残る銃痕を見つけ出していた。

9ミリ口径、民間用、実弾だけど、日本は法律が厳しいから多分モデルガンの改造型、種類はなんだろう?

考え込んでいたら、夕薙くんも硝煙の香りに気づいたみたいだった。

へえ、夕薙君、これが何の匂いだかわかるんだ。

博識なのかな、あ、案外ガンマニアだったりして。

でも欧米の方にいたこともあるっていうから、当時知ったのかもしれない。

どっちにしろあんまり自慢できる知識でもないんだけどね。

感心していたら、それと関連付けて皆守はカレーとラベンダーの匂いしかわからないとか言われて、便乗して八千穂さんまでからかうもんだからすっかりふてくされちゃったみたい。

でも、それってあながち間違いでもないよ?

だってこいつ、どれだけグッスリ寝てても、カレー作り出すと絶対目を覚ますんだもん。

これもある意味心の病だよね、深層心理的カレー侵食病。

(まあ、それはさておき)

「玖隆はどう思う、今の生徒会のやり方に君は賛同できるかい?」

できないって首を振りながら、あたしはまた考える。

最近、立て続けに起こる妙な事件は、やっぱりあたしがトリガーなんだよね、きっと。

八千穂さんに聞いたんだけど、以前は多少規則が厳しいくらいで、他所と特別大差ない学園だったっていう話だし。

でも、それならどうして他の人、しかも、この学校の生徒を巻き込むような事をするのかな。

墓守最優先なのはわかるけど、それと生徒会っていうのは別の仕事なんじゃないの?

墓守として仕事するなら、あたしにだけ的を絞っておけばいいじゃない。

そもそも、こんな事、全部生徒会トップの指示なのかな。

隣人倶楽部然り、暴力的な粛正や、ファントム騒動なんかもそうなの?

(わからない)

そう、色々全然わかんない。

遺跡に関しては多少わかったこともあるんだけど、この学園、っていうか生徒会が一体何をしたいのか、未だに全然見えてこない。

天香遺跡とその奥に隠された『秘宝』を守護しているのは確実なんだろうけど、それって一体何なのかな。

誰かを犠牲にしても、守らなきゃならないものって、一体何?

こんがらがって唸ってたら、目の前でいきなり皆守と夕薙君が言い争いをはじめていた。

「あまりこいつを炊きつけるのはよせ、この学園の禁忌に近づけば、待っているのは生徒会による処罰だけだ、いくら転校生とはいえ、命を賭けるほどのものなんてないだろ」

睨む皆守に

「それは玖隆の決める事であって、甲太郎には関係ないだろう?そもそも、甲太郎こそどうしてそんなにムキになる」

夕薙君は余裕の表情だ。ちょっとけしかけてもいる?

「それこそ、お前には関係ないことだろ」

皆守が、不意にあたしの腕を掴んでぐいっと引き寄せた。

あたしはよろけてそのまま皆守の胸に倒れ込む。

抱きしめられるみたいな格好で、背後から、オロオロした八千穂さんの声が聞こえてきた。

「ちょ、ちょっと、ちょっと!どうしちゃったの二人とも、何だか変だよ?」

確かに。

見上げた皆守はまだ夕薙君を睨みつけているらしい。

(なんだあ?)

なんでこいつ、こんなに必死になってるの?

珍しく真面目な顔なんてしちゃって、どうしたんだか。

(変な奴)

皆守ってホントよくわかんない。

不意に、夕薙君の笑い声が聞こえた。

「確かに、玖隆の事で俺たちが口論するのもおかしな話だな」

振り返ったらもうすっかり笑顔。あたしはまだ皆守に捕まったままだ。

「さて、と、ああ、そうだ、甲太郎」

「何だよ」

ニヒルに端を吊り上げた口元が、一言。

「たまにはカレー以外も食えよ」

「余計なお世話だッ」

ちょっと赤くなって怒鳴り返すから、八千穂さんとあたしは一緒になって笑っちゃった。

やっぱり夕薙君って、大人で格好いいなあ。スマートだしやり手だ。

お前たちも笑うなとか怒りながら、あたしを捕まえていた腕がさりげなく離れた。

こいつも少し頭が冷めたのかな。

そっぽを向いて、ふてくされた顔で、アロマパイプをふかしてる。

皆守、子供みたい。

夕薙君は、それからそのまま、あたしの活躍を楽しみにしてるとか何とか言って、歩いていっちゃった。

一緒に背中を見送っていた八千穂さんが、不意にぽつんと呟きを洩らす。

「生徒会かあ、確かに、決まりを守らない人に罰は必要かもしれないけど」

でも、さ。

「うん」

それ、あたしもわかる。そしてまたぼんやりと思いを馳せる。

執行委員に生徒会、天香遺跡と、その最深部に眠る秘宝。

それって、一体なんなんだろうね?ロゼッタの諜報部もそこまで調べはついていないみたいだし。

まあ、ハンターの仕事は解明も込みだけど、あの薄暗い闇の最奥にはどんな秘密が眠ってるんだろ。

あたしが、ソレを起こしちゃってもいいのかな?

(お仕事ですから!)

ううん、余計な事は考えるだけ無駄ね。

ダメダメ!目的がある以上、マイナス感情で妥協なんかしてらんない!

すっかり夕日差し込む校舎に、下校を告げる最終勧告の鐘の音が鳴り出していた。

「ヤバ、あたし部活だ!」

じゃあねって手を振って、駆けてく八千穂さんにあたしもヒラヒラッと手を振りかえす。

ま、いつまでもこんな所にいても仕方ないし、そろそろ帰るとしますか。

皆守を振り返ったら、威勢のいい電子音がいきなり鳴り出してビックリした。

皆守とあたしは着信音が(嫌なんだけど)同じだから、あたふたしてたら奴の携帯だったらしくて、取り出して画面を確認した皆守が、急に表情を曇らせると舌打ちする。

「俺も、お前と一緒に帰るつもりだったんだがな」

「どうしたの?」

「急用が出来た、もう下校の鐘が鳴ってる、俺に構わず校舎を出ろ、いいな?」

言われなくてもそうしますと、言おうとして、あたしはふと皆守に視線を留める。

どうしたのかな?

何だかちょっと―――辛そう?

相変わらずの仏頂面だけど、急に表情が消えちゃったような気がする。

まあ、あくまでただの勘なんだけど。

(でも気になるなあ)

ほったらかしてさっさと行けばいいのに、なぜかあたしは割り切れなくて、じっと顔を見つめていたら、皆守は不意に苦笑を浮かべていた。

「何だよ」

「別に」

「俺と一緒に帰れないのが、そんなに寂しいか」

「バッ」

怒鳴りかけたあたしを捕まえて、キス。

強く抱きしめられて、舌を絡めながら熱烈に求められて、正直その、ビックリやら何やらで力が抜けた。

水音を立てて唇が離れていく、その途中で皆守がコソッと囁きかけてくる。

「いいから行け、俺も用が済み次第すぐ行く、お前が校舎を出る頃には、追いつくさ」

「ま、待たないもんッ」

「ハイハイ」

じゃあな、気をつけてと言い残して、皆守は階段を登っていっちゃった。

残されたあたし、一人きり。

濡れてる唇をちょっとだけ噛んで、なんなの、これ、わかんないけど悔しいッ

(何であの時突き飛ばさなかったの、あたし!)

オマケにその、どうやらあんな変態を心配しちゃったみたいだし、自分の事だけどようやく気づいて、思わず地団太を踏んでいた。

「きいいーッ」

もうあらゆる事がサッパリわからん!頭の中もグチャグチャ!

まだちょっとドキドキしてるのは、今のキスのせいかな?

そんなの絶対、認めたくない!

「ふざ、けん、なッ」

あたしは鼻息も荒く、ようやく踵を返して歩き出していた。

もう、今日は厄日か何か?

トラブル続きで嫌になる、あんな奴待たないでさっさと帰ろう。

「絶対待ってなんてやらないもん」

そのまま階段を踏み抜いてやるつもりで、あたしは一歩を踏み出した。

 

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