訓練場の内部はコンクリートのようなもので作られ、所々に光源のわからない光が怪しく輝いている。
「うわ、古代の叡智だ、凄いな、コンクリまで作ってたのか」
「感心する部分がそれか、まあ、確かに俺も同感だが」
晃を先頭にして、甲太郎、帝等と続き、三人は狭い通路を縦列に進む。
「何だあの床の丸っこいの、光ってるぞ」
前方、行き止まりの床の上で、奇妙な文様が赤く息づくように発光している。
「おそらく、それは転移装置だ、この訓練場内部の箇所箇所に設置されてあり、乗ると他区画へ移送されるらしい」
「さすが墓守の長、よく知ってるなあ」
「説明書に記してあった」
『え?!』
晃と甲太郎は同時に声を上げていた。
「お、おい、阿門、それって本当か?」
「ああ」
「ここの―――説明書があるのか」
「そうだ」
アアッと髪を掻き毟り、晃が唐突に身悶える。
「夜の自由行動、お前の屋敷を探索した時、それ探しとけばよかったぜええッ」
「―――お前な、突っ込みどころがそれかよ」
「バカヤロウ!いいかこのヘタレアロマ、そいつがあったらなあ、俺は、あの場所で死にかけたり、この場所で殴られたり、その場所で射られたりしないで済んだんだよ畜生!どーなってんだーッ」
「―――ちなみに」
ゴホン。帝等の咳払いが響いた。
「各部屋に配置された化人も一目瞭然の完全攻略本仕立てになっている」
「ぐああああっ、な、何てことだァ!」
「うるッさい!」
バシッと頭を叩かれて、晃はキャンと悲鳴をあげた。
「ホラ、とっとと行くぞ、こっちはお前の仕事の手伝いなんだ、余計な時間を取らせるな」
「うう、お前も阿門も、他人のことには厳しいよなあ」
「黙れ、早く歩け」
「ハイハイ、アロマは相変わらず厳しいね、じゃあ行きますか―――」
足をかける直前、背筋をピンと伸ばして、先頭の晃がまず転移装置の上に乗る。
直後に消えた姿を追うようにして、甲太郎と帝等も続いて模様を踏んだ。
わずかに世界がぶれた後で。
「うっわ広!っていうかなんじゃこらー!」
目の前で大声を上げる晃を背後から抱きしめながら、つんのめるようにして転移装置を抜けた甲太郎も、肩口から窺う前方の光景に唖然とした。
直後、最後に装置を抜けた帝等が二人の脇に立つ。
「妙な場所だな、オマケに化け物付だ」
「とりあえず、殺られる前に殺らないと」
「フム、この部屋、制限時間は5ターン以内だ」
エエッと同時に振り返った二人を一瞥して、帝等は無表情のまま言葉を続ける。
「ここもそうだが、各部屋には制限時間が設けられている、超過しても戦闘や攻略自体にペナルティは無いが、最後の楽しみが減るらしい」
「楽しみ?」
「ここで楽しみといえば、お前達のような墓荒らしには一つしかあるまい?」
「―――秘宝!」
晃の目がキラリと赤く光る。
横目で窺っていた甲太郎は肩に顎を乗せたまま溜息を漏らした。
「なるほど、そうとわかれば迷い無用、秘宝丸ごと頂きますだ、5ターン以内で殲滅してやるぜ!」
すらりと剣を抜き放つ、背中から離れて、隣に立った副会長と会長は目配せをしてフッと笑った。
本当に仕方のない男だ。
こんなにも欲深で、強引で、不遜に振る舞っても自分には何一つダメージが来ないと確信している。
「なら、決まりだな、やってやるか」
「甲太郎、阿門、サポートよろしく、不束者ですがなにとぞご指導ご鞭撻の程を」
「いいから行け、俺も本気出してやるよ」
「頼んだぞ!」
一気に跳躍をして、9マス離れた先のヒルコの正面に躍り出る。
「そらッ」
持っていたファラオの鞭で打ち付けると、案外ダメージが少ない。
モニタ表示のレベルは2、晃はうあッと小さく声を洩らす。
「硬い!まずいなこれは」
何度か打ち付けて、ようやく消滅させた頃にはAPがすでに殆ど残っていなかった。
「ヤバイ、殴られる!」
小さく呟いて、そこで行動終了となってしまった。
化人たちの目が怪しい輝きを帯びる。
サニワが、穴を掘って近づいてくる。
目の前に障害物がひとつあるけれど、ジャンプで超えられる程度のものなので防御壁の役割は果たせないだろう。
案の定、正面まで来た異形の腕は大きく振りかぶって晃を狙う。だが。
「おっと!」
寸での所で体を引かれて、攻撃は外れた。
脇から甲太郎が晃を避けさせたのだった。
「甲太郎!」
感極まって振り返った晃を横からヒルコの舌が打ち付けてくる。
「グオッ」
どうやら側面からの攻撃に関してはフォローしきれないらしい。
それでも再び正面から近づいてきたササガニの糸も難なくかわして、モニタにHUNTER PHASEの文字が表示される。
晃は鞭を振るってヒルコを消滅させた後、再びジャンプで向こう側に渡ると素粒子爆弾でサニワとササガニを撃破、もう一ターン待って、残ったササガニを消滅させた。
合計三ターン。
規定のターン内で戦闘終了した直後、軽やかな雰囲気が辺りに満ちる。
「やった!勝った!」
思わずガッツポーズを取った晃の背後で甲太郎と帝等も頼もしい笑みを浮かべていた。
「有難う、甲太郎!」
振り返った晃が突然抱きついてくる。
オイオイよせよと言いながら甲太郎もまんざらでない表情で背中に両腕をまわした。
慣れ親しんだ温もりと匂いに、つい口元が緩んでしまう。パイプの先のラベンダーがふわりと香った。
「あれくらい俺にとっちゃ朝飯前さ、奴らの動きが止まって見えるぜ」
「凄いな、お前、初めてちゃんと役に立ったじゃないか!格好よかったよ!アリガト!」
「―――微妙に気に触る褒め方だな、まあいいか、大した怪我が無くて何よりだ」
「二人とも、はしゃぐのはそのくらいにしておけ、先はまだ長い」
幾らか呆れた調子の声が聞こえて、晃と甲太郎は揃って帝等を振り返った。
甲太郎だけ、直後に少し赤くなりながらフイと視線を逸らす。
「この先後何フロアぐらいあるか、阿門、知ってるか?」
「正確に把握しているわけではないが、規模から考えれば大方20そこそこといったものだろう」
「なるほど、んで、その全部にターン規制が?」
「違う、途中に闘技場というものがあるらしいが、規制は其処までだ、後は無制限だと聞いた」
「へえ、やっぱお前って詳しいなあ、一緒に来てもらって正解だった」
アリガトと笑いかけられて、帝等もフッと微笑み返す。
直後に甲太郎の手がするりと背中を撫でて離れていくので、晃はちょっと視線で応えてから、振り返って辺りを見回した。
「石碑があるな、二人とも、ここで待っててくれ、戦闘の可能性は無いみたいだし、読んでくる」
ぴょん、ぴょんと軽やかな跳躍と共に駆けていく姿を見送って、アロマの煙を漂わせる甲太郎の隣に帝等が立つ。
「皆守」
「ん?」
「玖隆は、いつもあんな調子なのか?」
「ああ、まあ、大体な、お前もよく見ておけよ、あいつがどうやってこの遺跡の中を生き残ってきたのか、その理由がわかると思うぜ」
「フン、ならば、手並みを拝見させてもらおうか」
「そうしてやってくれ」
まるで自分の事のように言って、笑う。
甲太郎の表情からはすっかり憑き物が取れて、良い笑顔だと純粋に思えた。
生徒会長の口元に、わからない程度に微笑が浮かんでいた。
誰もが、何かに縛られること無く笑える場所。
古き因習や呪いを断ち切って、自由な青春を謳歌できる学園。
もしかしたら自分は、そんなものを望んでいたのかもしれないと、らしくない考えがフッと胸中を過ぎる。
(俺も随分と甘くなったものだ)
けれど、それを現実に叶えて見せた、玖隆晃というトレジャーハンターの仕事振りには、ひとかたならない興味があるのも事実だ。
件の彼は古代文字をまるで何でもないように読み解いて、急いでこちらへ戻ってくる。
「悪い、待たせたな」
晃は石碑の内容を手短に説明すると、小型削岩機を装備して近くの壁面に入った亀裂を攻撃した。
壁はあっけなく砕け、その奥にあった小部屋の中で、蛇の形をしたスイッチを操作するとどこかから何か動くような音が聞こえる。
モニタ画面で確認して、障壁がなくなったみたいだと晃が告げた。
「さて、次のフロアが待ってるぜ!」
「また化け物がいるんだろうな、晃、気をつけろよ」
「おう、お前のスキルをあてにしたいけど、人の期待を裏切るのが甲太郎ってもんだしな!」
「オイ、そりゃどういう意味だ」
アハハと笑う晃の後ろから、むすっとした表情の甲太郎と帝等が続いて、三人は次のフロアへ進んでいった。
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