扉を開き、敵が数体配置された連絡通路を抜けて、転送された先は深遠なる闇に包まれた空間だった。

暗視スコープを一瞬だけつけて、全体の状況を把握した晃の声だけが聞こえる。

「足元、気をつけろ、行くぞ」

「ああ」

アクセサリをプラズマ発生器に切り替えて、駆け出していった先、潜んでいた2体のサニワを1ターンで殲滅する。

そのまま壁面に身を寄せると、攻撃の届かない化人たちはどうやら動かないようだった。

「なあ、甲太郎」

「何だ」

「さっき素粒子爆弾投げて思ったんだけど、アレって凄いよな、ビカーって光って、格好よくて」

「そうだな」

「俺、ちょっと超古代の文明を舐めてたかもしんない、っていうか温存しとかないとな」

「ああ」

甲太郎の腕がするりと腰に回される。

暗闇で、見えないと思ってやっているんだろうか。

頬にキスされて、軽く小突くと、闇の向こうで咳払いが二度、三度聞こえてきた。

「おっと、俺のターンだ、行くぜ!」

振り返る仕草に合わせさりげなく腕が離れていくのを感じながら、晃はしきりを飛び越えて向こう側に降り立った。

正面のヒルコと脇のササガニを倒して、そのまま行動終了すると、残っていたもう一体ずつのヒルコとササガニから攻撃を受ける。

それでも、ヒルコの攻撃は甲太郎が避けさせてくれたので、絡みついた糸を断ち切りながら荒魂剣を振りかぶって残りターンで殲滅する。

先ほどのように軽やかな雰囲気が訪れて、どうやらここもクリアできたようだった。

「ありがとな、甲太郎」

気にするなの声と、ポンと肩を叩かれる感触。

「よし、終了、次行くぞ!」

小型削岩機を使って前と同じように壁を壊し、中に隠されていた蛇の杖を操作して障壁を開けた。

転送装置に乗ろうとすると、帝等が待てと声をかけてきた。

「この先へは、西を向いたまま、横移動するとよい」

「え、なんだそれ」

「そのように聞いた、とにかくやってみろ」

少しの沈黙の後で、暗闇の中、理由は知らないけれどわかったやってみると晃の声が響いた。

直後に気配が消えたので、どうやら転送装置に乗ったらしい。

甲太郎と帝等もすぐ後に続く。

世界がわずかにぶれて、次に訪れた先は延々と続く壁面に遮られた狭い通路だった。

「うわー」

スコープで室内の形状を把握していた晃が心底嫌そうに呻き声を洩らした。

「どうした、晃」

「いや、サンキュ阿門、お前の助言助かった、これじゃAPが幾らあっても足りないぜ」

「何だってんだ、一体」

「ここ、めっちゃ入り組んでる、5ターンでどうにかできるかな、まあやってみるけど」

荒魂剣を構えると、そのまま慎重に通路を進み始める。

出会い頭にサニワを消滅させて、直後に装備を浮遊輪に切り替えると、ファラオの鞭を手に取ってそこから更に入り組んだ先に潜んでいたヒルコを攻撃した。

倒しきる前に、APが尽きてしまう。

「うわ、ヤバイ!」

目前に伸びてきた舌をかわして欲しいと思った。けれど。

「痛!」

案の定、行動間に合わず、晃は直撃を食らってしまう。

次の攻撃も当てられてモニタにHUNTER PHASEの文字が現れ、ヒルコを倒してから通路の反対方向へ駆け出すと微妙な位置でAPが再び尽きた。

すぐ後を付いてきている甲太郎はノーコメントだった。

(うークソ、でも、そういう奴だもんな、過度の期待は禁物、禁物)

以前からパッシブスキル「うとうとする」に散々裏切られてきた身の上としては、今更多少内容が変わった所であまり当てにする気にもなれない。

晃はいつものように無理やり納得して、でもやっぱり少しだけ恨めしいような、ちょっと切ない気持ちで再び歩を進めた。近づいてきたヒルコを鞭で打ちつけて、その奥にいるサニワの傍までたどり着くと、プラズマ発生器を装備しなおして剣で切りつける。

倒した所で行動終了。

更に敵影が近づきつつあるのを確認して、振り返って一気に駆け出す。

時間が無い。

「あと、1ターン!」

かなり目前まで迫っていたサニワにきりつけて、奥まで押し込んだところでまたもや行動終了だった。

「晃、危ないッ」

振りかぶった腕が落ちてくる瞬間、引き寄せられて、晃は甲太郎の胸に背中をぶつけた。

直後に首だけ振り返ってニヤリと笑いかける。

「今度はちゃんと避けさせてくれたな?」

「うるさい、それと、さっきは間に合わなかったんだ」

不貞腐れた、どこか罪悪感に駆られているような顔。

「勘弁してやるよ」

HUNTER PHASE

荒魂剣を振りかぶって、晃は一気に速攻をかける。

「消えろォ!」

サニワを一体撃破して、その奥で待ち構えていた最後の一体に切りつけた。

あと少し。

けれど、残りのAPでは全ての行動をまかないきれない。

「クソッ」

思い切ってアサルトベストから取り出した転送機を振りかざす。

こんな状況で、勿体無いような気もするけれど、使用するより無かった。

後の事は後で考えるとして、今ケチケチしてミスを犯しては本末転倒というものだ。

「喜べ、特別待遇だ!」

完全に回復したAPを惜しげもなく使って剣を振るい、サニワは光の玉となって消滅した。

フロア内に例の軽やかな雰囲気が起こる。

「や、やった」

晃は肩を落として軽く咳き込んだ。

乱れた呼吸がまだ整わなくて、剣を鞘に戻しながらゼイゼイしていると、大丈夫かと声をかけられた。

振り返れば帝等がすぐ傍にいる。

「ありがとう、お前に心配してもらえるなんて、ちょっと嬉しいよ」

晃はニコリと微笑み返す。

「オイ」

直後に低い声に呼ばれて、振り返ると甲太郎が微妙な雰囲気でこちらを見ていた。

「甲太郎も、アリガト」

不満げな表情はぷいとそっぽを向いてしまった。

案外ヤキモチ焼きの彼に、つい苦笑が漏れていた。

「さて、じゃあ次に行こうか」

アサルトベストに付いた埃をパンパンと叩き落して、晃は前を向く。

再び壁を探し出して破壊すると、奥にあった蛇の杖を操作して障壁を排除した。

「今度は何か、転送前のアドバイスとかあるか?」

聞かれた帝等はいや、と呟く。

「特には無い」

「そっか、なら、どんどん行こう」

転送機に足をかけようとして、不意に振り返った晃が後続の甲太郎の顔を覗き込んだ。

ギョッとして仰け反る彼に、ニッコリと微笑んで見せる。

「甲太郎」

「何だよ」

じっと目を見詰めるので、だんだんばつの悪そうな表情になって、甲太郎はアロマパイプをせわしくふかしながら視線を逸らそうとする。

「甲太郎」

―――ああクソ、わかってるよ、怒ってない、大丈夫だッ」

よろしいと一言残して、踵を返した晃の姿が消えた。

直後に続こうとした甲太郎を、今度は帝等が呼び止める。

「皆守」

―――何だよ」

こちらはまだ少し憎まれているようだ。

まったく、厄介な男だなと溜息が漏れる。

そんなに晃が自分以外の誰かに親しげに振舞うのが気に食わないのか。理解不能だ。

「ここは異形の住まう魔窟だ、私情を挟むな、雑念を抱えたまま隣にあるのでは、危地に陥るのはあの男なのだぞ」

「んなこと、お前に言われるまでもない」

ったく、という呟きと、軽い舌打ち。

「お前もな、そういう気を使えるんなら、もっと違う気も使えよ」

ぽつりと小さく聞こえて、そんな言葉は心外だった。さすがの帝等も甲太郎を睨みつける。

「これは玖隆が発案した親睦会だ、俺は、頼まれて付き合っているのだぞ」

「それも知ってるんだよ、クソ、お喋りは後だぜ!」

にわかに慌しく消えた姿を見送って、帝等はもう一度溜息を漏らしていた。

今の言動は、腹が立ってというよりも、先に転送された晃が危ない目にあっていないか、不安で気が急いていたのだろう。

まったく、直情的な男だ。

けれどそんな風に察してしまう自身もらしくなくて、改めて、玖隆晃の影響力を体験した気分だった。

「侮れん男だ」

転送機につま先を乗せながら、呟きと共に帝等の姿も転送された。

 

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